今回の「CEO特集2025」のテーマは「可能性」とした。ファッション市場はインバウンド(訪日客)や富裕層の消費は盛り上がりを見せるものの、コロナ後の反動消費はすでに一巡し、急激なインフレによって消費者の財布のひもは固くなっている。モノ作りのコストも上昇し、人手不足も深刻化する。そんな2025年におけるファッション産業の「可能性」とは何だろうか。登場する26社の経営トップのコメントをもとに考えてみる。(この記事は「WWDJAPAN」2025年1月27日号からの抜粋です)
1つ目は「人材」である。賃上げや働き方改革で人材を確保するのはもちろん、若手社員が高いモチベーションで働ける仕組みを整えなければ、ファッション企業に明るい未来はない。逆に人事戦略を磨くことができれば、優秀な人材が異業種からも入り、展望が開ける。2つ目は「海外市場」だ。巨大マーケットの中国だけでなく、近年は成長著しい東南アジアやグローバルサウスの消費者がファッションへの関心を高めており、ポテンシャルが膨らんでいる。多くの小売業が新規出店を打ち出している。3つ目は「新領域」。新しい事業領域に打って出る企業が多い。新規ブランドの導入で新しい市場を開拓するだけでなく、M&Aによって川下の企業が川上の企業を手に入れるケースまで出てきた。4つ目は「デジタル」。DX(デジタルトランスフォーメーション)は掛け声ではなく、すでに企業の成長性を分ける段階に入ってきた。ブランドと小売りをつなぐDX、工場とブランドをつなぐDXは、アパレル企業の最大の課題である低収益性からの脱却につながる。5つ目に挙げられるのは「店舗」だ。EC(ネット通販)で何でも買える時代だからこそ、リアルの空間や接客のあり方を再定義し、ディストネーションストア(目的地になる店)に進化する必要がある。最後の6つ目はBtoBである。ファッションビジネスで培った知見を対企業、対自治体のビジネスに広げる。特にセレクトショップは目利きの力を生かし、全国の自治体と提携した町おこしを本格化している。
1. 人材
human resources
従業員の「ポテンシャル最大化」の仕組みを作る
人材をめぐる環境が様変わりしている。第一に人手不足。かつては求人をかければファッション好きな若者がこぞって集まってくれたが、特に店舗の販売員は休みの少なさと給与水準の低さが知れ渡って人員確保に苦労している。第二にモチベーション。従業員が高いモチベーションで働き、将来を担うリーダーになってもらう必要がある。優秀な人材はファッション業界のみならず異業種との取り合いであり、働く人にとっていかに魅力的な環境を作るかが成長の可能性に直結する。
賃上げは避けて通れない課題だ。ファーストリテイリングの業界水準を大幅に上回る賃上げばかりに目が行きがちだが、この動きは業界全体にも広がっている。ベイクルーズは2023年、24年と2年連続で社員全員の給料を一律2万円上げた。杉村茂取締役CEOは「2年間で1人当たり48万円の給与アップをしたわけで、人件費のインパクトは大きい。当然そのぶん利益を出していかなければならない」と業務改革も大胆に進める。アダストリアも23年、24年と2年続けて平均6%の賃上げを実施した。木村治社長はコミュニケーションを盛んにし、現場のモチベーションを促す。「経営幹部が現場スタッフの声を直接聞くタウンミーティングも毎年続けている。社員みなにとって働きやすい環境作りを、今後もたゆまず追求していく」。
オンワードホールディングスはOMO(オンラインとオフラインの融合)推進を販売職や技術職(デザイナーやパタンナー)の待遇改善につなげた。OMO型店舗「オンワード・クローゼットセレクト」は自社ECと連携した複合ブランド業態。保元道宣社長は「一つの商業施設にブランドごとに複数の店舗を出していたときと比べて生産性が高い。生産性が上がれば賃金も上げられる」と話す。
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