
人口減少などによる日本市場の閉塞感に加え、SNSで海外への発信が容易になったこともあり、海外進出を狙う日本のヘアサロンが増えている。そこで、海外進出において成功事例を残す4サロンをピックアップ。それぞれの考え方や海外店舗での集客、今後の計画などを明かしてもらった。(この記事は「WWDJAPAN」2025年3月24日号付録「WWDBEAUTY」からの抜粋です)
AMSTERDAM(NETHERLANDS)/ HONG KONG
MELBOURNE(AUSTRALIA)
世界からのラブコールを受け
各国でポップアップサロンを実施
「アソート(assort)」は、東京(青山)と大阪(心斎橋)をはじめ、ニューヨーク、ロンドン、香港、メルボルンなど世界8都市に店舗を展開している。サロン名は「assortment(アソートメント)」=「さまざまな種類の詰め合わせ」の略で、日系アメリカ人でもある小林憲代表のモットーである「十人十色」を意味し、オープン当初から“日本の美容(技術・接客)を世界に届ける”というコンセプトで運営している。
日本の青山店ですら、外国人売り上げ比率は90%以上。スタッフもまさに多国籍(十人十色)で、店内に居るとここがどこの国なのか分からなくなる。しかしその顧客層ゆえに、コロナ禍では経営の危機に陥り、顧客はほぼゼロ、多くの店舗を閉鎖し、スタッフはほぼ全員退職した。「若いスタッフを雇い、コロナ禍でもできる動画制作を開始。世界のトレンドスタイルなど、外国人にうける動画を徹底的に研究し、アルゴリズムの分析も行った。しかし、今思えば“完璧にきれいに”作り過ぎていたため、登録者数は増えないし集客にもつながらない。『何のためにやっているんだ……』という気持ちにもなったが、コンテンツをため続けた。ある日、(嫌だったが)映像を縦にして、今っぽく90秒に編集。接客動画も、それまではアフター9割、ビフォー1割の割合で撮っていたのを、割合を逆にして今でいうカウンセリング動画にした」。
そして22年8月。投稿した1本のカウンセリング動画が突然バズり、10万再生を超えた。タイミング良く、2カ月後の10月には外国人の個人訪日旅行が解禁となった。カウンセリング動画を見て「日本に行けるようになったらこのサロンに行きたい」と思っていた外国人が多かったようで、制限が解かれると同時に外国人客が一斉に来店。以来、現在に至るまで満席状態が続き、世界各国の店舗も復活。コロナ前よりも店舗数を増やしている。
現在は、サロンのインスタグラム(Instagram)のフォロワー数は37万、同じくティックトック(TikTok)は87万超という、美容室の公式SNSとしては驚異的な数字を誇っている。世界中から「私の住んでいる街に来てほしい」というオファーがあるため、世界各国でポップアップサロンを実施。昨年だけでもロサンゼルス、ロンドン、ジャカルタ、シンガポール、ベルリン、バンクーバーなどで実施した。そのポップアップから出店につながったこともある。
それだけ色々な国に行って、さまざまな髪質に対応できるのは、顧客が持参したスタイル写真を“完コピ”(完全に再現)できるオリジナルのコピーカット技術があるから。「一般的に美容師は、カウンセリングによって自分の得意な方向に持っていきがち。しかし、それは美容師のエゴであって、お客さま、特に外国人客は求めていない。“完コピ”するには高い技術力が必要で、『アソート』では全スタッフがそれをできるように教育している」。例えば朝の1時間を使って、スタッフを集めて皆に毛束を渡し、染められた毛束が映ったスマホ画面を見せて「この色にしてください」と言う。皆が一斉にその見本を見ながらカラーリングをし、終わった後に、どれくらい再現できているか、お互いの染め上がった毛束を評価し合う。そういったゲーム感覚のトレーニングも取り入れている。
客層に関しては、「アソート」には新たな客層を開拓している側面もあるという。「日本人にとっては意外かもしれないが、世界にはセルフカットしている人、一度も美容室に行ったことがない人はかなり多い。『アソート』では、そういった層の集客にも成功している。なぜならば、その層は思っていたのと違う髪型にされるのが嫌な人たちなので、持参した写真の通りに仕上げる『アソート』ならば安心して通えるからだ」。
積極的な海外展開を進める姿勢は、リクルートにおいても強く、今年も多数のエントリーがあった。「語学堪能な人を採用しているイメージがあるが、全くそんなことはない。去年は受験生の中に英語ペラペラな人が10人ほどいたが、1人しか採用していない。美容室での英語接客がすぐにできるようになるオリジナル教材があるので、入社前の語学力は必要ない。人柄と、海外志向を重視した採用を行っている」。スタッフもさらに充実させていき、目標は世界のどこに住んでいても、飛行機で8時間以内のフライトで「アソート」に行けるようにすることだ。