ユナイテッドアローズは9月22日、六本木ヒルズ店を旗艦店としてリニューアルオープンした。400坪(1400平方メートル)を超える過去最大級の店舗内装を手掛けたのは、片山正通ワンダーウォール代表。これまで国内外で数々の店舗を作ってきた片山代表をして「20店舗分のアイデアを投じたほど」と言わしめる店舗について、鴨志田康人ユナイテッドアローズ クリエイティブ・ディレクターと片山代表が語る。
WWDジャパン(以下、WWD):今回片山代表にはどのようなお題が出されたか?
片山正通ワンダーウォール代表(以下、片山):「ユナイテッドアローズ(以下、UA)の旗艦店に相当するものを」というリクエストをもらいました。これは、「UA」の過去最大店舗というような規模もクオリティーも含めて全ての要素が含まれるものです。これまでの歴史を包括した上で作るため、偏ったテーマではできない、なかなかの難題でしたね。
鴨志田康人UA クリエイティブ・ディレクター(以下、鴨志田):25年積み上げてきた「UA」の認知と実績がある上でのプロジェクトは、0から始めるものとはまた違うものがある。われわれのように経験値があると、スキルや良い面がある反面、逆に「店作りはこうでないとスタッフがやりづらい」とか「売り上げを取るにはこれくらいの商品量が必要」といったしがらみも堆積してしまっている。それも片山さんを悩ませたポイントかと思うが、今回はそういったものを一度クリアにして、あるべき店を創ることに挑戦しました。それで、今回の店舗のテーマは「バザール・パラノイア~妄想のバザール~」とすることにしました。
片山:鴨志田さんからモロッコのバザールの写真などを見せてもらいながら、「こういうのがいいよね」など、‟気分を共有する“ところからスタートしました。特にネットが発達してポチっとボタンを押せば“すぐ買えて、すぐ届く時代”に、お客さまがこの店に来る理由とは?ということを話し込みながら、小売りの原点的なところまで追求しました。
鴨志田:服屋の原点は店に足を運ぶことだし、買い物の原点は「商店」にあると思っています。イスタンブールのバザールやロンドンのアーケードのような昔ながらの商店を見ると気分があがるし、中目黒や地方の商店街が盛り上がっているのを見ると、小さいけれども濃い商店に注目が集まっているように感じる。「UA」そこにもう一度振り戻したいという思いがありました。
WWD:2階のウィメンズフロアは、入り口から奥に向けて重厚感が増していく作りだ。どうレイアウトした?
片山:これまではメンズがあったのですが、増床して2層になるに当たり、2階のグラウンドフロアはウィメンズにしました。階段室を中心にぐるりとウィメンズの世界が展開する印象のフロアにしました。上にはメンズとユニセックスのフロアが控えているので、ウィメンズの世界観を眺めつつ、上層階へ誘導する導入口になっています。入ってすぐのエリアをカジュアル・モード、左中央にUAらしいマニッシュなゾーン、左奥をフォーマル、中央奥にシューズコーナーを設けました。中央はイベント、ポップアップなどシーズンによって変えられるようにしましたし、レジは一番最後に寄るところだからと階段の向こう側に潜らせました。
WWD:多くの素材が使われているが、店内の意匠については?
片山:基本フォーマットはハンガーとキューブで、マテリアルとしては、コンクリート、ウッド、真鍮をベースにしました。あえてバランスを壊すようなこともやってみようと、個性の強い大理石なども入れてみたり。使った形態も建築素材の種類も、自分史上最多です。いろんなアイディアが混ざっている。あとは鴨志田さんが買ってきた狂った家具とのバランスが刺激的で(笑)。違和感を大切にしたかったので、ネオンサインなども入れてみました。
鴨志田:ノイズの入れ方が重要だったんです。インテリアデザイナーさんにクリエイティブなものを作ってもらおうとすると、往々にして完成されていてカッコ良くなりすぎてしまう。でも、セレクトショップって、「いかにひねって、ノイズを入れて、ドレスダウンするか」に命をかけているから。「カッコ良すぎてカッコ悪い!」っていう感覚が根っこある。今回、本当にファッション好きな片山さんと組むことで、ワンダーウォールらしさとUAらしさがあるものができたと思っています。
WWD:フィッティングルームもスペースの取り方がぜいたくだ。
片山:最近、改めて大事だと気付いたのはフィッティングルーム。最終的に購入を決める瞬間が起こる場所でもあるから、リラックスしつつ気持ちが上がるように、ゆったりとスペースを広くとり、大きなミラーを入れて。ミントグリーンの壁の色まで、鴨志田さんと喧々囂々話し合って決めました。
鴨志田:フィッティングで気持ちが上がることは、本当に大切だから。自分のクローゼットのようなフィーリングの空間で、たくさん買ってもらいたいですね(笑)。
片山:奥のドレスコーナーなんて、デザインの教科書にはない組み合わせ。それにあえて挑戦しようとしました。特に普通は使わないようなエグい、全ての印象を持って行かれてしまうような個性が強い石を使いました。ここだけで5軒分くらいの色やマテリアルがあります。ファッションの上級者が作った部屋というか。鴨志田さんが買い付けた家具と相まって、想像を超えた、違和感を尊重した世界観に仕上がりました。
鴨志田:悪趣味ギリギリのね。悪趣味って究極のファッション。貴族趣味で悪趣味、そういう面白さを追求しました。このフォーマルのエリアは、NYのファッショニスタ、アイリス・アプフェルに敬意を表して作ったんです。
片山:ギリギリだけど全体との関係性がちゃんとあって、破たんしていない。特別だけれど、おもしろいバランス感になりました。壁の色も“毒をもって毒を制する”イメージだし。この部屋に入ることが一つのあこがれになるようにオーラを大切にしたくて、ずいぶん悩みました。
WWD:逆に、シューズコーナーはとてもミニマルな作りだ。
片山:最初はもっと棚を用意していたんですが、どんどん減らされてこうなりました。量より見せ方を大切にしてモノを提案したいのだと分かり、マテリアルも絞って、白い壁とコンクリートと家具だけにしました。ぼくにとっても新鮮な仕上がりです。
鴨志田:この店で気に入っているところはたくさんあるんですが、モダンでミニマルな雰囲気でいて、クールでグラマラス。そして、饒舌で。そのバランスが絶妙で。潔く、無駄がない。ここにはフラットシューズだけしか置かないのですが、「J.M ウエストン」がトラッドっぽく見えないこととか、大切だと思うんです。
WWD:「ぎおん 徳屋」の近くに並んだ色とりどりの紙は?
鴨志田:六本木店の一つのテーマはギフトなんです。だから、ラッピングにもこだわりました。ふすま紙で、包装紙用に薄く漉いてもらった特別仕様のものを、遠くからも見えるようにしてもらいました。
片山:ちなみに階段を上がり下がりするときには必ず「ぎおん 徳屋」が見えるようになっています。ファッションのお店の中でも、食べ物と食べる人が見えるということは、すごく豊かだと思っています。その違和感と豊かさが共存した空間がここにはあります。
鴨志田:片山さん自身、本当に買い物好きだし、おしゃれにうるさいから、消費者視点で考えて「ここで抑えて、ここで上げる!」というポイントをしっかり作ってくれますね。
WWD:「売れる店を作るなら片山さん・ワンダーウォール」という言葉をよく聞くが、選ばれる理由とは?
片山:内装を手掛けるとき、自分の中の52%ぐらいが消費者意識で、48%がデザイナーなんです。「作品としてカッコいい」デザインと「買いに行って楽しい」デザインで悩んだときには、消費者目線が勝つ。「こうすれば雑誌に載るだろうしカッコいいけど、消費者だったらどうだろうなぁ」と考えて。ある種、エゴは出したくないという気持ちがあって。インテリアデザイナーとしては素人でいたいなと思っているんです。そういうところがかわいがっていただいている理由かなと思いますね。でも、毎回、本当に悩んでますよ。
WWD:片山さんの場合、階段にも強い個性が表れている。
片山:階段って、ただのインフラじゃなくて、変わっていく景色を見るのが楽しいもの。もともと立派な階段があったのですが、無理を言って作り変えさせてもらいました。スケルトンにして上下が見えるようにしていますし、ここから景色を見ることで、もう一度戻ってきたくなる効果もあります。
鴨志田:“上層階に人を上げる”のは店作りのテーマでもあります。3階は外からあまり見えないけれど、実はメンズフロアのほうが面積も売り上げも大きい。だから、「上に何かあるな」「上がってみたい」と思わせることが重要で、それを実現する階段ができました。それに、ガラスへの映り込みによって、不思議な色気も出るようにこだわりましたし、照明も足してもらいました。
WWD:踊り場も広くてぜいたくな作りだ。
片山:ここで商売もできそうだし、何なら卓球もできますよ(笑)。
鴨志田:最初はここに物販ブースを作る話もあったけれど、潔く空間を残し、豪邸の階段室のようなイメージにした。逆に階段を上がりきると「バザール・パラノイア」を体現するキオスクのような小さなお店がたくさん現れて、そのギャップにドキドキするはず。スーベニアショップ、傘店、時計店など、たまたま隣り合わせになったお店のいい加減さのようなものを、実はメチャクチャ計算して作り込みました。(「フォックス アンブレラ」の傘を見ながら)いい傘、ほしくなるでしょ?
片山:バザールをイメージし、あえてやぼったい印象の木を使ったコーナーもあります。スーツケースのコーナーでは、あえてバックヤードなどのネガティブな面をポジティブに見せる方法も考えましたね。
WWD:その奥へ進むと「順理庵」やシューシャインコーナー、お直しコーナーが現れる。
鴨志田:「順理庵」はまるで京都の街にいるようで、六本木にいる感じがしないよね。その向かいの壁にある自虐的なネオンにも注目してほしい(笑)。お直し屋は、ずっと実現したかったもの。忙しい方ほど時間がないし、旅行客の方も多いから、1~2時間で仕上げられるようになっています。もちろん購入アイテム以外の持ち込みも受け付けています。
WWD:ドレスゾーンはUAらしい重厚感のある仕上がりだ。
片山:ここは鴨志田さんの意志で作った空間で、クラシックなUAの世界。たくさんの世界観が詰まったこのショップの中で、ある種のクライマックスみたいなものです。「THIS IS UNITED ARROWS」の世界観をどこよりも濃くするため、何度も一緒に作り直しました。
鴨志田:奥がストックルームになっているんですが、これが外から見えるストックになっていて。ずっと奥まで入っていっても世界観が途切れない。
WWD:3階の入り口は、グリーンが飾られた開放感のある空間だ。
鴨志田:自分自身もそうだけど、最近、店の入り口にトルソーがあるともうそれだけで見る気が失せてしまって……。ちょっと食傷気味というか。もう少し和めるエントランスにしたいなと。入り口付近には大きな木の狛犬がいるので、拝んでみてください。江戸時代に、長崎の出島に住んでいた外国人が「スフィンクスを作ってくれ」と頼んだところ、仕上がってきたのがコレだった、という逸品です。これも無国籍ですね。ちゃんと「あ・うん」になっていますからね。ちなみにこれだけは売りません(笑)。
片山:明るい空気感で入りたい気分になっていただけると思いますね。そして、狛犬にも、ある種のグローバルが詰まっている。これぞUAらしさですよね。
WWD:初のメンズコスメコーナーも見どころの一つだ。
片山:構造上、柱が一本あるのを利用して、シンボル的にぐるりとコスメカウンター的なものを造りました。面白いのは、コスメだけではないいろいろなものが売られているところ。そこから、ライフスタイルグッズの「スタイル・フォー・リビング」につながっていくという。ぐるりと回ることで体感していただけるものにしました。
WWD:レジも圧巻だが。
片山:全体に上手に溶け込ませたかったのと、ここだけビートを落としたくないなという思いとでこういう形にしました。最後でもう一回、買う方の気分を盛り上げられるような仕掛けを作りました。
WWD:400坪超の空間に、本当に盛りだくさんの要素が詰め込まれている。
片山:400坪って全然広くないですよ。むしろ「足りない!」って思うこともあったほど。僕の美意識とは違うところもあるけれども、それも僕の蓄積になったし、ノイズ自体も好きな世界観。この新しい世界観をものすごく新鮮に感じています。
鴨志田:次の「UA」のあるべき姿を指し示す店ができたと思っています。わがままに付き合っていただき、ありがとうございました(笑)。
(なお、「WWDジャパン」11月14日号の連載「ミステリーショッパーが行く!」では「ユナイテッドアローズ六本木店」を掲載中)
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