表紙で投げかけた問い、「働く女性にスーツは必要か?」に対する弊紙の結論はイエス、である。スーツを、少なくともジャケットを切実に必要としている働く女性は今も多く、彼女たちへの提案の余地は大きい。オンとオフの境目があいまいな今の時代に、スーツやジャケットの提案だなんて時流と逆行しているのでは?と考える業界人は多いかもしれない。だが、そう考える婦人服メーカーや売り場、メディア関係者がいたら、一考してほしい。自分たちの顧客や顧客予備軍は本当にそうだろうか?少なくとも、顧客の心の声を聞き逃していないだろうか?
日本の働く女性の環境や地位は他の先進国より大きく遅れている。世界経済フォーラムが10月末に発表して話題になった、「ジェンダーギャップ指数 2016」によると日本は144カ国中111位という結果に。また、労働政策研究・研修機構の統計(2013年)によると、企業の管理職に占める女11.2%で、これも世界基準から大きく遅れている。日々の生活に追われていると見えづらいが、日本の“普通”がいかに“普通でないか”をデータは教えてくれる。一方で、女性の活躍推進法が8月28日、参議院で可決されて成立し、従業員が300人以上の企業に対し、女性登用の数値目標を盛り込んだ行動計画を求めている。今後、増えるであろう女性管理職とその予備軍に向けたマーケットは広がる可能性が十分にある。ファッション業界はこの流れを追随するのではなくむしろ先導し、積極的に創出すべきだろう。
スーツやジャケットを必要としている働く女性は“少ない”のではなく、ファッション業界人には“見えていない”のだと思う。特集取材を通じて分かったことは、男性がスーツを着ることが常識の業界で、男性と肩を並べて働く女性、特に管理職の女性たちは、服に投資し、選び方に細やかな配慮をしている。大前提は「男性の中で浮かないこと」。そして、その中でも「女性らしさを失わないこと」と切実だ。多くの女性はジャケットを、通勤時には着用せずとも、オフィスに常備している。ここぞファッションの出番なのだが、その声は、ファッション業界には届いておらず、彼女たちは不満を募らせている。
なぜファッション業界からはその需要が見えにくいのか?最大の理由は単純に、ファッション関係者の多くがスーツやジャケットを着ないからだと思う。
カジュアル・フライデーならぬ、“ジャケット・マンデー”はいかが?
先週、ある大手セレクトショップの本社前で人待ちをしながら 15分ほど、出入りする人たちを観察していた。折しも気温が下がりジャケット日和の午後だったから、業界をリードする企業の社員や、そこを訪れる関係者がどうジャケットを着こなしているかを観察したかった。結果は、ジャケットを着ている女性は20人中、1人いるかいないか。男性はちらほら見るが、女性の大半はセーターにスカートやパンツ、ワンピースとで、スーツ姿は皆無だった。若い人はおしゃれな大学生との区別はつかない。
かくいう私を含む弊紙スタッフも同様だ。ファッションやメディアの世界はむしろ、カジュアル上手がおしゃれ上手であり、個性的であることが評価につながる。ともすれば生真面目なスーツは“ダサい”。それが悪いわけではない。ただ同じ社会人にもかかわらず、金融系などまだまだ男性主導の業界で働き、スーツやジャケットを切実に必要としている女性や、その世界でこれからキャリアアップを目指す女性たちとの“仕事と服装”に対する認識と業界との常識のズレは非常に大きいとあらためて気付かされた。
増加する女性管理職という新しいマーケットを開拓するためには、まずは提案する側が現状の需要を把握し、女性のスーツやジャケットの魅力を再発見する必要があるだろう。今回、デザイナーズブランドのジャケットを集めて撮影し、あらためてジャケットはそのブランドのスタイルや、アイデンティティーを凝縮する奥の深いアイテムであることも痛感した。窮屈なリクルートスーツしか経験のない、若い業界人にとっては、ジャケット=没個性でしかないかもしれない。企画担当やデザイナーたちからは、そんな若い業界人の常識を覆すジャケット提案を待ちたい。作り手自身のファッションがカジュアルという意味では、メディアも同じだ。ジャケット族の女性たちは“自分たちのメディアがない”と口をそろえる。彼女たちの多くは、企業主催のセミナーに参加したり、 LINEグループの“女子会”を活用したりと、独自のコミュニティーで情報交換を行っている。伊勢丹新宿店のキャリア売り場は今、その流れを察知し彼女たちのコミュニティーに飛び込むことでニーズをくみ取り顧客獲得を目指している。さすがに早い動きであると感心すると同時に、既存メディアがそのコミュニティーからこぼれ落ちていることに気付かされる。
作り手側が見えなくなっている市場を再発見するために、思い切って、カジュアル・フライデーならぬ、“月曜日はジャケット”をファッション企業が率先してはどうだろうか?制約からの解放がファッションの役割のひとつであると信じるが、何でもアリからは新しいアイデアは生まれにくい。一週間に一度くらい、自らに制約を課して、新しいスタイルを模索するのもいいかもしれない。