「WWDジャパン」12月19日号の特集「fashion4.0-IoTで服作りが激変」では、国内外で進む服作りのIoT化の最前線をレポートした。“縫製工場4.0” partⅡのインタビューでは、家業は職住一体の中小縫製工場、「ジュンヤワタナベ・コム デ ギャルソン」のパタンナーや量販チェーンのデザイナーという異色の経歴を持ち、縫製工場発の新しい製造・販売システムの確立に挑む木島広フクル社長に聞く。
WWDジャパン(以下、WWD):“アパレル型インダストリー4.0”を標榜して、独自のシステムを提唱している。どのようなシステムなのか?
木島広フクル社長(以下、木島):簡単に言えば、アパレルの製造から販売までの一連の流れをIT化すること。従来アパレル生産は素材やパーツが多い上、それらの種類も多種多様なので、中間段階での在庫が増える一因になっていたし、流通段階でも人によって好みやサイズがバラバラなのでさらに在庫が積み上がる。僕らの考える“インダストリー4.0型のフクルシステム”では、自社ブランドと自社ECサイトを、テキスタイルやファスナー、ボタンなどのパーツの在庫情報をIT化して繋げることで、スピーディーかつ無駄のない生産体制を作り上げている。
WWD:具体的には?
木島:カスタムオーダー専門のオリジナルブランド「ルコリエデペルール(LE COLLIER DE PERLES)」の自社ECサイトは、倉庫や提携している工場のテキスタイルやファスナー、ボタンなどの在庫情報の他、契約している外注パタンナーとも連動していて、受注情報がすぐに共有される。現在は「ルコリエデペルール」は20デザイン×100素材×5サイズのカスタムオーダーで、発注から納品までが4週間ほどになっている。現在はまだ試験段階なので、本格稼働すれば納期は2週間ほどに短縮する計画だ。
WWD:原価率の設定が、一般的なアパレルとは全く違うとか。
木島:原価率は基本的に8割に設定している。「ルコリエデペルール」を例に取ると、ワンピースの小売り価格は4万2000円。その場合は素材が3000円から3500円、パターン修正代が5000~6000円、縫製代が1万5000~2万円ほど。原価率が高いのは、フクルシステムが目指しているのはあくまでITのプラットフォームであって、通常のアパレルと違い、単品で儲けるというビジネス設計になっていないためだ。一般的なITのクラウドシステムと同じで、基本的に使用する人が増やすことで儲けるような考え方でビジネスを設計している。
縫製業を儲けられる産業に
WWD:なぜ、この仕組を思いついたのか。
木島:実家の縫製工場は繊維産地で有名な群馬県桐生市にあって、1・2階が工場、3階が住居スペースだった。服飾の専門学校卒業後はデザイナーズブランドのパタンナーを経て、量販のデザイナーになり、ずっとアパレルのもの作りに関わってきた。デザイナーズブランドのパタンナー時代には1着十数万円のコートを、「トップバリュ」のデザイナー時代には980円のフリースを作った。その間ずっと感じていたのは、縫製業は儲からないということ。フィーの基準が、技能や生産にかかる時間ではなく、小売り価格から逆算して決められているからだ。
WWD:縫製はどうあるべきなのか?
木島:一着の縫製代が1万5000円と聞くと高く思われるかもしれないが、オーダーの場合、仕様書も縫製の仕方もゼロから考えねばならないので、ベテランの技術者でも8時間はかかる。とすると1万5000円でも月収は30万円。これでもまだ十分でない。すぐれた縫製の技能士が家族を養うなら、月収50万円を確保できる仕組みが必要だが、このフクルシステムが全国に普及すれば原価8割でも十分にペイできる。
WWD:今後は?
木島:あまり表に出していないが、フクルでお願いしているパタンナーはコム デ ギャルソン時代の先輩だし、テキスタイルも地元の桐生の有力メーカーのものを使っていて、いずれも国内トップレベル。モノのクオリティにはかなり自信がある。幸いブランドにも、この“フクルシステム”にも、百貨店や大手アパレルから多くの問い合わせをいただいている。今は桐生だけだが、今後はこのプラットフォームを全国の縫製工場に広げていきたい。