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H&Mが考えるサステイナビリティ 「2030年に再生可能素材100%を目指す」

 スウェーデン発のファストファッションブランド「H&M」は、サステイナビリティ(持続可能性)をビジネスの根幹に置き、業界のリーディングカンパニーとして、2030年には100%サステイナブルな素材とする意欲的な目標を打ち出した。その一環として4月には、サステイナブルな素材や生地から作られたラグジュアリーなハイエンドコレクション“コンシャス・エクスクルーシブ”を発売している。6回目となる今回、ウィメンズ、メンズに加え、キッズラインが初登場。新素材として、海洋に投棄されたプラスチックのリサイクルを原料とする再生ポリエステル「バイオニック(BIONIC(R))」を採用。ハイテク素材に加え、テンセルやオーガニックシルク、オーガニックリネンなどのサステイナブルに調達された天然素材を使用したドレスやジャケット、アクセサリーなどをそろえた。来日したヘレナ・ヘルメルソン(Helena Helmersson)=グループプロダクション責任者に、サステイナビリティやサプライチェーンに対する「H&M」の考え方やアプローチについて話を聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):公式には初来日ということだが、日本の印象は?

ヘレナ・ヘルメルソンH&Mグループ プロダクション責任者(以下、ヘレナ):I LOVE JAPAN!日本は大好きで、以前プライベートで何回か来たことがあり、ニセコでスキーを楽しんだこともあります。ファッションも素敵だし、食事もおいしいし、すばらしい建築もたくさんある。ファッションでいえば、東京のファッションは北欧と似ている気がします。キレイめ系の格好が好きだったり、アース系のベージュ、黒、グレーなどの色が好きだという点も、好みが近いと思いますね。

WWD:早速だが、「H&M」にとってサステイナビリティとは?

ヘレナ:サステイナビリティを推進するには、人類や地球のために良いことと、企業の長期的な利益をもたらすことの両方をうまく融合させることが重要です。私たちは正しいことを行うことで成長を遂げるという価値観を持った、バリュー・ドリブン・カンパニーであり、サステイナビリティはすべてのビジネスや活動に組み込まれています。ただし、その取り組みは変化しています。以前は環境に対して負荷を減らすことを重要視していましたが、新しいサステイナビリティの戦略では、良い方向へ向かう変化をリードし、循環型の再生可能な方法でファッションの循環を目標に掲げるとともに、環境に対してポジティブな影響をもらすようにシフトしています。

WWD:ポジティブなインパクトを与えるというのは具体的には?

ヘレナ:まずは、経済状況にかかわらず、世界中のどんな方々でも買えるものを作っていくことです。もう一つは、私たちのために服を作ってもらっているバングラディッシュやエチオピアなどの労働者に対して、公正な賃金の支払いはもちろんのこと、貧困から抜け出せるようにサポートしたり、“ウーマンズ・エンパワーメント”と呼ばれる女性の社会進出を支援することにも力を入れています。三つ目として、私たちは天然素材の取り扱いを強化していきます。新たな合い言葉として「クライメット・ポジティブ」になることを掲げ、2040年までに達成することを目標として設定しました。その一環として、サプライチェーンとして、30年までに製品の100%を、再生資源を使用したもの、あるいは、持続可能なサステイナビリティに由来した原材料だけを使用することなども指針として打ち出しました。

WWD:「クライメット・ポジティブ」になる、とは?

ヘレナ:私たちのバリューチェーンには現在、900のサプライヤーと1800の工場とがあります。工場の労働環境基準の整備など、ルール作りに取り組んでいますし、エネルギー効率を高めたり、ソーラーパワーや風力発電などの再生可能エネルギーにシフトしたり、排出した地球温暖化ガスと同等の樹木を植えたりして、地球への負荷をゼロにするする、「クライメット・ニュートラル」を進めてきました。今後はさらに、地球温暖化ガスの吸収を可能にする技術革新をサポートしたり、惑星の気候変動への抵抗力や回復力を強化する活動を通じて、バリューチェーン全体を通じて地球への負荷を上回る、プラスの効果を目指すこと。それが、「クライメット・ポジティブ」です。大きな挑戦ですが、ぜひ実現したいと思っています。(※H&Mが2016年に使用した電力の96%はすでに再生可能エネルギー源に由来したものだ。さらに、衣料品回収活動では12年に開始以来、累計で約3万9000トンに。16年は年間で1万6000トンを回収。20年までに年間2万5000トンまで増やしたい考え。)

WWD:H&Mのステートメントとして、08年の日本上陸時などは「ファッションとクオリティを最良の価格で提供する」とうたっていたものが、14年ごろから「ファッションとクオリティを最良の価格でサステイナブルに」と「サステイナブル」というキーワードが盛り込まれた。その理由は?

ヘレナ:今はすごく強く信じていることなのですが、「サステイナビリティがビジネスの発展に寄与するように、矛盾せず、足を引っ張らず、むしろプラスに働いていく:ということが、まだ全社で信じ切れていなかった時代があったんです。それで、全てのブランド、全ての国、全ての部署により浸透させるために、スコアカード(ビジョンと戦略を明確にするマネジメントシステム)を導入し、サステイナビリティのゴールを掲げました。社内では比較的うまくいったのですが、私たちはバリューを大切にしている会社であり、社外の取り組み先の方々に目を向けたときに、難しさを感じた部分もあったんです。そこでグループのミッションとして、社内だけでなく外部へのメッセージの強さや一貫性をもたらすために、ビジネスアイディアに「サステイナビリティ」というワードをステートメントに加えました。

WWD:それまで、グリーンやエシカルという言葉を使う方々も多かったが、デモクラティックウエア、大衆向けブランドである「H&M」が大々的に打ち出したことで、「サステイナビリティ」の言葉や考え方が広がった気がする。

ヘレナ:嬉しいですね。サステイナブルというのは本当に賢い言葉だと思いますね。サステインには持続していく、維持する、続けていくという意味がありますが、それがまさにビジネスでいうところの、利益をきちんと保ちながら成長を続けていくことができるということであり、私たちにマッチした言葉だと思っています。この考え方をますます広げていきたいですね。私たちのような規模の大きい会社には、大きな責任が伴っています。人材も多いですし、イニシアチブを取りやすいという状況がありますし、パイオニアでなければならないという思いもあります。

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