シャネル(CHANEL)は6月21日、シャネル銀座ビルディング4階にあるシャネル・ネクサス・ホール(CHANEL NEXUS HALL)で6月22日から7月23日まで開催する写真家の荒木経惟の個展「東京墓情 荒木経惟✕ギメ東洋美術館」に先駆けた内覧会を行った。同展では、昨年パリのフランス国立ギメ東洋美術館で行った個展「ARAKI」の中から新作の「東京墓情」を日本で初公開。また、ギメ東洋美術館所蔵の写真コレクションから荒木がセレクトした幕末・明治期の写真作品を合わせて展示する他、同展のために撮り下ろした新作も披露している。
内覧会には荒木も来場し“墓”と表現した理由について「最近、東京は墓だなという気分になっていたけど、決定的な出来事は3.11。現地には行かなかったけど、その光景がこびりついている。私が行くとつい『素晴らしい、美しい』と言ってしまうんだ。海を見てる人がいて、赤ちゃんがいて、撮影するためには位置が悪いからって、動かして撮っちゃう。実際には行っていないけれど、そんな気がするから行かなかった。その未練、撮らなかったことを今でもちょっとだけ引きずっている。だから今回は、日本だけでなく、テロが頻繁に起こっているヨーロッパももう墓場だと思ったから、その墓場写真を撮ったんだよ。イメージは霊安室だね」と自身の長年のテーマである“死生観”の一端を語った。
展示作品の中で横綱・白鵬が被写体の作品については、「横綱に土が付くことは、負けを連想させるから本当はいけないんだよ。私の写真は、誰かに影響を与えることはないけど、被写体には影響があるわけ。撮ったのはちょうど69連勝を目指していた時でね。私がその前に土を付けちゃったの。私の失敗はこれくらい。そのおかげで69連勝できなかったから(笑)。でも、気に入られてちゃんこをごちそうになった時に、彼が『僕は立ち上がりが良いからね』って言ったの。赤ちゃんが生まれた直後にね。それで好きになっちゃって……あまりウケないね(笑)。翌日の予定を聞いたら『北海道で米作りをしてるので田植えに行く』って言うもんだから『エコよりエロだよ』って話をしたらウケたんだよ」と自身を語る上で欠かせない“エロ”に絡めて笑いを誘った。
続いて、縄で縛られたボンデージルックのレディー・ガガ(Lady Gaga)の作品については「案内状に使っているガガの写真も、今ほど有名になる前に、彼女からオファーがきたわけ。『縛って撮って』と。彼女のその言い方が素晴らしい。女性はそういう女にならなくちゃいけない。私の縛りは愛撫だからね。縄で乳首をこすってあげてるんだから。その感じを撮られる側がちゃんと見抜く。だから、私の言葉より写真の方が通じる。フランス語を勉強しないのは、そのせいなんだけど。私は写真を通じて翻訳しているような気がする」と存分に荒木節を炸裂させた。昨年から十指に余る個展を行うほど、意欲的に活動していることについては、「今年は『ラスト バイ ライカ(Last by Leica)』という個展から始まっている。写真家は終わったと言っているの。デジタルカメラは写真じゃない。表面の顔を写すだけならいいけど、私は人の裏側を撮るから。昔は千手観音って言ってたくらい一気に撮っていたから、いくら写真展でも写真集をやっても大丈夫なくらいあるんだけど、今は阿修羅だね。二面性があるんじゃなくて三面性があるの。もうひとつの側面は何か分からないんだけど。それも無意識でやってるわけ。だから、霊じゃないけど気分はそんな感じ。来月からは3本の個展が始まる。今、タカイシイギャラリーで『写狂老人A 17.5.25で77齢 後期高齢写』っていう個展をやってるんだよ。その前は『後期高齢書』って言う書道展をやったりとかさ」と今後の意欲も覗かせた。
自身の写真や展示への思いを「ちゃんとした写真をちゃんとした場所で見せるのはいいこと。この個展も完成度が高いだろう?でも完成させちゃいけないんだよ。不十分とか汚れとか、まだ上があると思わせないと。今、私が気をつけているのは頂点に足がかかっちゃってること。だから、丸亀美術館で今年のラストやるんだけど、テープカットはテープを切らないで乗り越えるとかさ(笑)。そういう気分なんだよ。終わりにしないようにしている。気合は入っているし、歩かなくても車の中から撮る。もうね、車はカメラなしでも正確にフレーミングしてくれるんだよ。だから、まだ写真ができるんじゃないかな。私は自分が撮った写真を見るのが好きで、やっぱり写真は荒木だなって思う(笑)。今年の全ての写真展が終わった時は、みんな『やっぱり荒木の写真が一番だな』って言うはずだよ」と締めくくり、会場内からは歓声と拍手が湧き上がった。トーク終了後には、ギャラリストやファンらが押し寄せ、荒木とのツーショット写真や会話を楽しんだ。
「東京墓情」は、荒木が大病を経験して得た独自の死生観を題材に、自身の50年間の写真家人生を振り返った回顧展。代名詞でもあるヌードや空景作品など約80点で構成されている。