田中文江による東京のウィメンズブランド「ザ・ダラス(THE DALLAS)」が好調だ。現在店頭に並んでいる2017年春夏商品がデビューから2シーズン目だが、イエナ(IENA)やビューティ&ユース ユナイテッドアローズ(BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS)など有力セレクトショップ約40アカウントで取り扱いがある。特にアクセサリーに定評があり、大ぶりのイヤリングはビンテージパーツを組み合わせ一つ一つ手作りで、5カ月で約6000個の受注があったそうだ。エディション(EDITION)やロク ビューティ&ユース(ROKU BEAUTY&YOUTH)で行ったポップアップショップでは、顧客の好みのパーツで作るカスタマイズ企画が好評。イヤリングを5つまとめ買いする客もいるほどの人気ぶりだったという。デザイナーの田中は、さまざまなアパレルブランドでデザイナーとして活躍し、ヒット商品を生み出してきたベテランだ。彼女にこれまでの経歴から、ブランドの立ち上げのきっかけ、商品へのこだわりを語ってもらった。
WWDジャパン(以下、WWD):デザイナーを志したきっかけは?
田中文江「ザ・ダラス」デザイナー(以下、田中):幼い頃からデザイナーになりたいと思っていました。中学生の時には、「ジュニー(JUNIE)」という雑誌でデザイン画を描いて、毎号誌面に登場していました。私が描いた絵を元にスタイリストさんがスタイリングをしてくださる企画だったのですが、形になるのを見ることが楽しくてうれしくて、必然的にファッションを仕事にしたいと思うようになりました。実は、その企画では私の他に1人すごい子がいて、その子といつも競い合っていたんです(笑)。で、もっと絵を上手に描けるようになりたいと、高校卒業後には服飾専門学校に通いました。
WWD:就職はどのようにされましたか?
田中:専門学校を卒業後にワールドに入社しましたが、実際思い描いていた華やかな世界とは大きなギャップがありました。入って3日目には「もう辞めます!」と言ったところ、人事に止められ、あと1週間、あと1カ月、と思いながら、残ることを決めました。まずは上司が仕事をしやすいように動くという、心遣いを学びました。それはお茶の出し方だったり、エレベーターのボタンを最初に押すことだったり、相手が何を望んでいるのかを察知することでした。今思えば、下積みとして経験できてよかったと思います。ワールドでは、ミセス向けの婦人服ブランド「ビルダジュール(VILLE DAZUR)」に所属し、入社1年後にはカジュアル部門のデザインを任されるようになりました。そこでベテランデザイナーの下、パターンやトワルの組み方、高級素材に触れて、仕事を身につけました。
WWD:その後、他にどのようなブランドに携わられたのですか?
田中:サザビーリーグでは「アンドエー(AND A)」の立ち上げに携わり、メンズデザイナーとして働きました。当時はストリート系雑誌の全盛期で、Tシャツ1枚で何千万円も売り上げる時代でした。そこで海外に目を向けて、アートを洋服に取り入れたいと考え、当時は無名だったグラフィティアーティストのバンクシー(Banksy)を日本に呼んでイベントを仕掛けたり、コラボ商品を企画しました。ちょうど結婚と出産が重なり、退職しましたが、その頃から「自分が作るものが世の中でどのように評価されるんだろう」と思い始ました。出産後にはユナイテッドアローズで、「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ」の前身である「ピンクレーベル(PINK LABLE)」でデザインを担当したり、夫のメンズブランド「ドールプロジェクト(DO-LE PROJECT)」の生産を手伝ったり、その他アパレルブランドのデザインを業務委託で行ってきました。
WWD:「ザ・ダラス」の立ち上げのきっかけは?
田中:ちょうど2年前、ノームコアが流行っていて、世の中に同じようなデザインが増えていました。それが、おもしろくないと感じ、「私は自由な表現をしたい」と思い立ちました。企業ブランドで育ってきたので、今までは「このテーマでお願いします」という依頼が多かったのですが、これからは自分のフィルターを通して服を作りたいと思いました。その時、「ベーシックはトレンドではなくなる」と予測していて、このタイミングを逃したら次はないと確信していました。
WWD:田中さんのフィルターとはどのようなもの?
田中:これまで、パンクやロマンチック、マニッシュなど、いろいろなテイストの洋服を着てきたので、ブランドを作るなら、一つのイメージに固まっていないブランドにしようと思いました。そして、ビンテージも好きだったのでビンテージを現代風にアレンジして、「飽きのこないブランド」にしたいと考えました。
WWD:モノ作りへのこだわりは?
田中:メード・イン・ジャパンを目指しています。海外へ依頼すると、「お願いします」だけで、商品が上がってきてしまい、これで本当にいいものが作れているのかな?と疑問に思ってしまうことがありました。それが国内だと直接職人さんに会いに行って相談できて、一緒に作り上げていく実感があります。そういうコミュニケーションを大切にしていきたいです。特に革小物の職人さんからは「こういうレザーがあるよ」とか「オイルで厚みがだせるよ」など、自分たちでは分からないことを教えてもらいました。
WWD:大ぶりのイヤリングがヒットしていますね。秘訣は何ですか?
田中:アンティークパーツを使用するため、一つ一つが作品だと思っています。洋服のコーディネートに近い感覚で色のバランス、形のバランスを見ながら組み合わせていきます。なので、次の日見たら「これやりすぎたな」って、やり直すこともしょっちゅうあります(笑)。また、卸し先のセレクトショップや売り場のテイストをイメージしながら作っています。展示会でバイヤーに「テーマがあれば、それに合わせてお作りします」と伝えていたり、実際に店舗へリサーチしに行きます。女子力が高そうなお客さまが多かったり、ピンク系が多く並んでいる店舗だったら、ピンクを意識的に多く合わせたり、大人でエッジーな商品が並ぶお店には個性的なパーツを組み合わせたりと工夫しています。お客さまも別のテイストを求めて、取り扱い店舗を回ってくださる方もいて、そのこだわりが伝わっているのだと実感します。
WWD:子育てとの両立はどのようにされていますか?
田中:中学1年生の娘と小学5年生の息子なので、少しづつ手を離れてきて、自由な時間が増えてきました。娘はWEARのフォロワーが1万7000人もいて、プチインフルエンサーになりつつあり、街で一緒に歩いていると「知ってます!」と声をかけられることもあります(笑)。一方息子はファッションに無頓着なサッカー少年。彼に「もっと頑張りなさいよ」と言っても説得力がないので、私もママサッカーをやっています(笑)。結構本気で参加していて、この前は東京都大会でベスト8に入りました。
WWD:とてもアクティブですね。今後のブランドをどのように成長させていきたいですか?
田中:毎シーズンおもしろい仕掛けを用意して、お客さまをワクワクさせたいと思っています。17年春夏は”ホワイト”をテーマにして、あえて商品を白で構成しました。毎シーズン、「次は何?」と楽しみにしてもらえるようなサプライズを用意したい。「ザ・ダラス」の最終地点は、私の頭の中ではすでに思い描いているのですが、とても大きな目標なので、今は内緒にしたいです。まずはその第一歩として、海外展示会にチャレンジしたいと思っています。国内にとどまらず、視野を広げて多くの人に商品を見てもらい、反応を聞いてみたいです。そして常に一緒に作る人、最終的に着る人の気持ちを考えながら、その目標に近づいていけるように、日々精進していきたいです。