ファッション

パリジェンヌから支持を集める メルシー出身者が手掛ける注目の3店

 2009年のオープン以来、トレンドを発信し続けるパリのショップ、メルシー(MERCI)は、“ライフスタイル系ショップ”という新しいカテゴリーをパリに根付かせ、北マレ区をおしゃれなエリアへと一変させた。メルシー人気が今もなお健在の中、最近はメルシー出身者による新たなショップが注目を集めつつある。作り込み過ぎない、落ち着いた雰囲気はメルシーに通じるものの、各店の独自のコンセプトと世界観はひと味違う。

アンプラント

 メルシーから徒歩1分程の場所に、地下1階を含む4フロアからなるコンセプトショップ、アンプラント(EMPREINTES)が昨年9月にオープンした。メルシーの名物バイヤー、ジャン・リュック・コロナ(Jean Luc Colonna)
が手掛けた同店は、フランスで最も歴史と権威のある工芸家組合アトリエ・ダール・ド・フランス(Ateliers d’Art de France)に所属する約6000人の作家のクリエーションを日常的に楽しんでもらいたいという想いからオープンした。ギャラリーのような展示方法で、インテリア雑貨、テーブルウエア、オブジェ、家具、ジュエリーなど工芸作家によるハンドメードの作品を約1000点展示し販売している。地下の映写室では、クリエイターの制作作業風景のムービーを見ることができ、1階に併設したカフェではオーガニックフードを提供している。2〜3カ月ごとにコンセプトを変え、作品も全て入れ替える。ハンドメードの一点物といっても20ユーロ(約2630円)のマグカップや40ユーロ(約5280円)のランプシェードなど、手に入りやすい価格帯で構成している。店内はギャラリーのように作品を眺めるだけでも楽しめるので、気軽にアートに触れることができ、作家との距離を縮める架け橋のような役割も持つ。

アイユール

 メルシーのオープン当初から8年間ショップマネジャーを務めたレジス・ゴードン(Regis Godon)が、再開発が進む11区にインテリアショップのアイユール(AILLEURS)を今年初めにオープンした。1960年代まで家具工房として使われていた建物をほとんど改装することなくオープンした店内には、時間の経過とともに磨かれた美しさがある。「新旧入り混じるミックス感が好き」と語るレジスの言葉通り、年代も国籍もさまざまなアンティーク品からモダンクラフトまでを取り扱う。一見対極に見えるものを、大胆かつ違和感なく組み合わせてしまう絶妙なスタイリング術には脱帽だ。いつ訪れても予期せぬ物との出合いがあり、自ら店頭に立って、顧客との談笑を楽しむレジスの人柄に惹かれ、何度も足を運んでしまう。

ミス・マープル

 エッフェル塔に程近い、閑静な高級住宅街7区に昨年オープンした、サロン・ド・テのミス・マープル(MISS MARPLE)は、メルシーの創設者マリー・フランス・コーエン(Marie France Cohen)と彼女の義妹でモード誌編集者のマルティーヌ・コーエン(Martin Cohen)の2人が手掛けたとあって、オープン前から話題だった。アガサ・クリスティ(Agatha Christie)の小説の登場人物を店名にし、店内には肖像画やアンティーク家具を飾り、18世紀のイギリスの優雅なティーサロンを想わせる。店内は深みのあるブルーの壁、ガラス張りのオープンキッチンにモダンクラフトのインテリア雑貨を並べて、パリ流にモダンにアップデートされた雰囲気だ。メニューには、スコーンやタルトなどのデザートの他に、マリー・フランス手作りの日替わりデリカテッセンが並ぶ。温かく落ち着いた雰囲気の同店は、多くのパリジェンヌから支持を得ている。

 メルシーで磨かれたセンスを武器に、独自の世界観を持つ各店。工芸作家によるハンドメードの一点物やオーナーのレジスと交わす他愛のない会話、温かい手料理など、いずれも人情味にあふれた温もりを感じられる場所だ。欲しいものはワンクリックで世界中からデリバリーされる時代だからこそ、実際に店舗を訪れて人や物との触れ合いを楽しみたい。唯一無二の世界観にひたれる3店に、ぜひ足を運んでみてほしい。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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