ファッション

リアーナやカーダシアン一家も セレブが愛する「ジャックムス」のデザイナーが考える究極のラグジュアリー

 サイモン・ポート・ジャックムス(Simon Porte Jacquemus)「ジャックムス(JACQUEMUS)」デザイナーは型破りだ。最愛の母の死をきっかけに19歳でファッション学校を中退してブランドを立ち上げた彼は、最初のコレクションを「ディオール(DIOR)」のショー会場の外で披露した。エマニュエル・アルト(Emmanuelle Alt)仏「ヴォーグ(VOGUE PARIS)」編集長が何の騒ぎかと足を止めたその先にいた若者が、1年後には同誌で特集されるまでになった。

 それ以降、ジャックムスはパリの若手デザイナーの中では最も才能のある一人として定評がある。また、27歳の若さでビッグブランドのデザイナー候補としてたびたび名前が挙がるほどになった。

 2018年春夏シーズンのパリコレでは開催日を初日に変更した「ディオール」と「サンローラン(SAINT LAURENT)」に挟まれる可能性が浮上した。そこでジャックムスがとった行動とは、さらに1日前倒しして、ミラノ・コレクション期間の最終日に開催を決めたのだ。この日は多くの業界人がパリへの移動日に充てているため、まさに一か八かの決断だったという。

米「WWD」(以下、WWD):パリコレ開幕前日に前倒しするという賭けに出たが、その狙いは?

サイモン・ポート・ジャックムス(以下、ジャックムス):私がデザイナーとしてデビューした頃は若手が初日に登場していた。その頃に戻りたかったから、最初に発表するにはさらに前倒しするしかなかったんだ。みんながスケジュールを変更してまで私のショーを見に来てくれるかどうか分からなかったからリスキーな選択だったが、取る価値のあるリスクだった。結果的に、ジャーナリストらからも協会からもサポートを受けられた。みんなが私のためにスケジュールを空けてくれた。

WWD:今回のコレクションでは新たな官能性を感じた。女性の身体をこれまでとは違った目で見ている?

ジャックムス:成長している気がする。ブランドを始めた頃は、女性の身体に四角や円などの形を配置してドレスやスカートを作っていた。今はモデルに何十回も着せて試している。今のやり方は、さまざまな理由からこれまではできなかったことだ。

WWD:とても美しいドレープが随所に見られた。技術面で難しかった点は?

ジャックムス:ドレープにはかなり時間をかけた。1着につき平均10回は修正を加えたよ。毎シーズン、作る点数が少ないから、結局作ったものほぼ全部を発表している。そんなに大きいコレクションではないけど、現状の規模感を意識的に保つようにしている。あと、実際に販売できる服をランウエイで発表するということも戦略の一つだ。「サンローラン」でも同様の形式をとっていたとピエール・ベルジェ(Pierre Berge)が私に教えてくれて以来、私の中で意識すべき点になった。「ジャックムス」のシルエットは回を追うごとにある意味では固まってきている。リアルクローズを目指しているんだ。

WWD:リアルクローズを目指す一方で、コレクションには物語性を持たせている。そのギャップがおもしろい。

ジャックムス:今シーズンのテーマは“La Bomba(ポンプの意)”で、ドレスを30~40着制作したがパンツは2つしか作らなかった。周りは「サイモン、昨年はワイドパンツが売り切れるほど好調だったよ」と教えてくれた。でも私はそんなにたくさん作りたくなかった。つまり、コレクションの中身と市場における需要というものがそれぞれあるけれど、自由にやることを意識している。私は自分の感覚だけを信じたいんだ。これが私の成功の秘訣だ。

WWD:影響を受けたデザイナーは?

ジャックムス:たくさんいるけれど、例えばクリスチャン・ラクロワ(Christian Lacroix)やジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)。彼らのフランス人らしさが好きだ。

WWD:あなたのヒーロー、ピエール・カルダン(Pierre Cardin)も今シーズンあなたのショーを見に来ていた。

ジャックムス:ショーの2週間前に彼と食事をした時に「『ディオール』以外のショーに出席したことがないけれど、君のためなら努力しよう」と言ってくれた。彼は実際に来てくれて、「君には個性がある。技術面を磨きなさい」と言われたんだ。とてもうれしかったし、彼が何を言いたいのかも理解している。「ジャックムス」はまだ8歳の子どもだからね。チームには40人いて、全員が若くて、学ぶことも多い。でも、カルダンがショーに来てくれた上に私に個性があると言ってくれたことは本当にうれしかった。感動したよ。

WWD:ブランドの業績は?

ジャックムス:売り上げは毎年2ケタ増だが、具体的な数字は公表していない。

WWD:最高経営責任者(CEO)は?

ジャックムス:CEOは私だが、銀行と折衝する時はコンサルタントを使う。インディペンデントなブランドの場合は自分でキャッシュフローをやりくりしなければならない。しかし私の戦略はブランド立ち上げ時から一貫していて、“今のコレクションの売り上げを次のコレクションのために使う”と決めている。これは健康的な企業活動のために必要だと思うし、私が同ブランドの株式を100%所有していることを誇りに思っている。

WWD:ブランドを大きくするためにCEOを別の人間にして、自分はクリエイションに専念することは考えている?

ジャックムス:クリエイティブなことばかりに注力するのは間違っている。ビジネスが成り立たなければクリエイティブは存在しえないから、常に数字は頭に入っている。私の両親も自営だったし、小さい頃、よく祖父母と一緒に野菜や果物を売りに市場へ出かけていた経験が強く根付いているのだと思う。現実を見ないで浮世離れしてしまうことが一番の間違いだ。

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