フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)の「セリーヌ(CELINE)」退任に始まり、キム・ジョーンズ(Kim Jones)の「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」退任、そしてエディ・スリマン(Hedi Slimane)復活!しかも「セリーヌ」で!!という年末からビックリ人事が続いたため、あまり目立っていませんが、個人的に注目している人事があります。クレージュ(COURREGES)の最高経営責任者(CEO)に「アクネ・ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」のパリオフィスでトップだったクリスティーナ・アーレアス(Christina Ahlers)が就任したことです。クリスティーナはとにかくスマートで敏腕、私が知る限り、最も店を知っている“売れる”営業ウーマンだからです。
クリスティーナに初めて会ったのは2011年頃。「アクネ」のプレ・コレクションの時期に、彼女はセールスを担うポジションとして当時PRを担当していたマリアと共に来日していたときのことでした。マリアも敏腕PRで、今では「シャネル(CHANEL)」のセレブリティー担当です。クリスティーナもマリアも170cm以上の長身でドイツ出身。ブロンドヘアのショートカットで、とにかく「アクネ」の服が似合っていて個性的。一見とっつきにくそうなのに人を構えさせないフランクさが魅力でした。
ちなみにクリスティーナは元弁護士。ファッションが好きで、「メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA)」でファッションの世界に飛び込んだ経歴があります。セールス・マネジャーを経て「アクネ」のパリオフィス開設を担うとともに、セールスのディレクター的ポジションでした。
それから、彼女をよく知るきっかけになったのが12年2月。当時、売り上げが倍々ゲームで飛ぶ鳥を落とす勢いだった「アクネ」を特集したいと思い、相談がてら食事をした時のことでした。合流して5分でなぜ「アクネ」がこんなに急成長しているか腑に落ちたことがありました。
レストランに着くと彼女たちは開口一番「ユウコ、そのドレスいいね。どこの?」と尋ねてきました。「デビューして間もないブランドだから分かるかな?『マメ』という日本のブランドだよ」と答えると、クリスティーナは「知ってる!素敵だよね。店を回っていて気になっていたのよね」との返答。これには驚きました。まだデビューして2年足らずの「マメ」を知っていたのですから。当時クリスティーナは日本全国津々浦々のセレクトショップを自分の足で回り、彼女自身の口で商品を説明し、「アクネ」の魅力を伝えていました。と同時に、取り引きが始まっていない店も含め、その店が扱うブランドの並びを見ながら、自分たちはどこを獲っていくかを研究していたのだと思います。だからこそブランドに詳しくなるし、当時販路が限られていた「マメ」も知っていたのでしょう。
私が感じた彼女の服に対するそのような情熱は、特集で取材したバイヤーの方々も同じように感じていたようで、クリスティーナの真摯な姿勢を絶賛し、彼女自身の足で稼ぐ「草の根運動でブランドの魅力がウイルスのように伝染していった」と語っていたのが印象的でした。
そして今、クリスティーナは「クレージュ」のCEOに就任し、まずは新たな方向性を発表するといいます。1960年代にファッションで未来を見せた「クレージュ」を現代でどう表現するのか――とても楽しみです。