ストリートウウェブマガジン「ハイスノバイエティー(Highsnobiety)」が「もう『ヴェトモン(VETEMENTS)』なんて誰も買っていない」とのタイトルでブランドの人気が下がっていると報道した。これに対して「ヴェトモン」のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)=ヘッド・デザイナーとその弟のグラム・ヴァザリア(Guram Gvasalia)最高経営責任者(CEO)がSNSで大反論。ハロッズ(Harrods)やサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)など、複数のバイヤーもヴァザリア兄弟を支持する一大論争に発展している。
「ハイスノバイエティー」は、複数の匿名バイヤーやショップマネジャーから「ヴェトモン」は人気が低迷し、売り上げも伸び悩んでいるため本社移転などを余儀なくされたなどの情報を得て報道。新しさに欠け、必要以上の価格で販売しているとの意見も掲載した。
これに対してデムナは30日、「ヴェトモン」の公式インスタグラムに「『ヴェトモン』は嘘とゴシップに基づいた“ジャーナリズムごっこ”には賛同できない。今の『ヴェトモン』はこれまでになく強固だ。私の『ヴェトモン』への責任と関わりはブランドを立ち上げた日から変わらず、妥協もない。混乱もあったが、私はいつもクリエイティブのヘッドを続けてきた。商品と顧客を大事にする姿勢は昔も今も、これからも変わらない。ファッションとは、ハイプ(熱狂)、ゴシップ、楽観的な嘘にまみれたジャーナリズムではない。ファッションとは服であり、つまり、“ヴェトモン(フランス語で服の意)”なのだ」との声明文を発表した。
グラムCEOはさらに米「WWD」にコメントを寄せ、「『ヴェトモン』は売り上げが前年に対して50%増のペースで成長し続けている」とし、「今のジャーナリズムは悲惨だ。クリックを誘うウェブページ、リンク、動画、広告などが隘れているからこそ、より多くのアクセスを得るために、われわれの会社の名前をネガティブな見出しと本文に使った“釣り記事”が生まれたのだろう。『ヴェトモン』はクリエイティブ面、財政面ともにこれまでになく好調だ。倒産は絶対にあり得ない。また、売り上げに関する根拠のない推測は虚偽であるだけでなく、誹謗中傷に値する馬鹿げたものだ。悲しいことに、今日の一部のジャーナリストはフェイクニュースを書き、衝撃的な見出しをつけることに関心を抱いているようだ。個人的な関心に突き動かされて若いインディペントブランドを攻撃し、広告のために大企業と癒着するファッションライターは特に不愉快だ。真面目なニュースを掲載する場が、誰かの意見の押し付けや真実のように見せかけたでっち上げの記事が掲載されるタブロイド紙やゴシップブログに化してしまったようだ」とコメントした。
一方、「ハイスノバイエティー」も米「WWD」経由で反論する。「情報源を明かすことはできないが、われわれは世界のストリートファッション市場で『ヴェトモン』の影響力が著しく落ちていることに気づいた。『ヴェトモン』は倒産とは無縁だが、われわれが集めた情報では“終わった”ブランドだ」と説明した。
各国の主要百貨店、セレクトショップのバイヤーは、おおむねヴァザリア兄弟支持している。「ハイスノバイエティー」の記事で、『ヴェトモン』のフーディーの着用画像を掲載されたティファニー・シュー(Tiffany Hsu)「マイテレサ(MyTheresa)」ファッション・バイイング・ディレクターは、自身のインスタグラムに同記事のスクリーンショットを投稿し「私はまだ『ヴェトモン』を買っているわ。インタビューも受けてない記事で私の写真を使わないで」と訴えた。2006年に創業したラグジュアリーECサイト、「マイテレサ」は15年から「ヴェトモン」を取り扱っている。
セレクトショップ、ジェフリー・ニューヨーク(JEFFREY NEW YORK)のジェフリー・カリンスキー(Jeffrey Kalinsky)=オーナーは、「ヴェトモン」の売り上げは年35万〜45万ドル(約3640万〜4680万円)で、ソックスブーツ、十二星座をプリントしたTシャツ、レインコート、「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」とのコラボ商品が人気だという。さらに、ほぼすべて定価で販売しており、「今のところ、売れ行きには満足している」と語る。
昨年から「ヴェトモン」を取り扱い始めたハロッズのヘレン・デイヴィッド(Helen David)=チーフ・マーチャントは、予想の4〜5倍の売り上げで、ユニコーンのフーディーが特に人気で買い足そうとしたができなかったという。「高すぎる、安すぎるという議論は無意味だ。商品の価値を決めるのは消費者。ハロッズで飛ぶように売れていることを考慮すれば、高すぎるとは思わない」と語る。また、デムナが「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のアーティスティック・ディレクターを兼任していることが「ヴェトモン」に影響するかという質問には、「両ブランドは比較的似ているが、デムナの『バレンシアガ』での仕事と『ヴェトモン』での仕事はかなり違うと思う」と答えた。
ザ・ウェブスター(The Webstar)のロドルフィー・ナンタス(Rodolphe Nantas)=ヘッド・メンズ・バイヤーは、「バレンシアガ」の方が価格は若干手頃なため販売数量は「バレンシアガ」の方が多いが、「ヴェトモン」も好調だという。最近ではラッパーのトラヴィス・スコット(Travis Scott)とカイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)のカップルがマイアミ店を訪れ「トミー ヒルフィガー」とコラボしたフーディーを購入したと明らかにし、「ヴェトモン」は「他よりも売れている。価格について顧客から苦情を受けたことはない」と話した。
サックス・フィフス・アベニューのシン・ユミ(Shin Yumi)=シニア・バイス・プレジデント兼ウィメンズ部門ジェネラルマーチャンダイジング・マネジャーは、目新しい商品に欠けることは問題でないとし「16-17年秋冬から『ヴェトモン』を扱っているが、デムナの影響力には今も感心させられる。十二星座のTシャツやユニコーンのフーディーなど、ブランドの個性を反映した商品は絶えず売れ続けている」と語った。
ただアジアの有力店は、「バレンシアガ」が一番人気のブランドとした上で、「『ヴェトモン』のピークは過ぎた。2年前から昨年が頂点だった。皆、『バレンシアガ』にシフトした。新しいスタイルが生まれないのは問題だと思う」としている。