カニエ・ウェスト(Kanye West)は先日、昨年削除したツイッターアカウントを突如復活させて以降、「イージー(YEEZY)」未発売モデルの大量公開や建築事務所の設立宣言、ニューアルバムのリリース、政界進出の示唆など、何かと話題が絶えない。プライベートではインスタグラムで1億フォロワーを抱えるモデルのキム・カーダシアン(Kim Kardashian)を妻に持ち、本業の音楽活動では2000万枚近いアルバム総売上を記録し、「グラミー賞(Grammy Awards)」には57回もノミネートされるなど、向かうところ敵なしだったが、その“政権”も終わりに近づいているかもしれない。
事の発端は、4月25日のツイッターでの発言まで遡る。この日カニエは以前から親交のあるドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領を支持するようなツイートを立て続けに投稿。これにトランプも返信するなど友好的な関係を見せていた。だがその後、「オバマは8年間も大統領を務めていたというのに(地元の)シカゴは何も変わらなかった」とバラク・オバマ(Barack Obama)前大統領を批判。続けて「もうマネージャーはいない。俺は誰にも指図されない」と長年連れ添ったマネジャーを解雇し、自身が自由の身であることを明らかにした。
この「人種差別的発言の多いトランプ米大統領の支持&“黒人”のオバマ前大統領への批判」に対し、ジェイデン・スミス(Jaden Smith)やフランク・オーシャン(Frank Ocean)をはじめとする黒人アーティストやファンがSNS上でカニエをバッシングし、ちょっとした“炎上”騒ぎとなっていた。
さらに5月1日、火に油を注ぐが如くカニエの今後を決定づけることになるかもしれない事件(失言)が起きた。
ウェブメディア「TMZ」がアップしたカニエのインタビュー動画でカニエは、「奴隷制は400年続いただろ?400年なんて、もう自分で選んだようなものだ。400年間ずっと奴隷だったから、奴隷制は黒人全員の思考に深く刷り込まれている。俺は『投獄されている』ってワードが好きだけど、牢獄こそが俺たちを1つの人種として団結させているんだ。黒人と白人は同じ人種になれる。俺たちは同じ人間だ(一部抜粋)」と持論を展開。これに対し「TMZ」のスタッフが、「あなたも1人の人間なので自分の意見を持って発言することも、信じるものを信じ続ける権利もある」と前置きをした上で、「浮世離れした生活を送るあなたと、いまだに差別の脅威にさらされて生きる一般の私たち黒人の間では、周りの環境に大きな違いがある。400年前に自分たちが選んだとあなたが言う奴隷制で、私たちはなんで耐える生活を送らなくてはいけないんだ。ハッキリ言って失望した(一部抜粋)」と反論。その場でカニエは謝罪したものの、動画を見た視聴者からは非難が相次ぎ、「もちろん奴隷が自ら鎖につながれて奴隷船に乗ったわけではないということはわかっている。俺が言いたかったのは、俺たちは多数派になったのにいまだにそのポジション(奴隷)のままだということ。これは俺たちが精神的な奴隷状態であるということだ」とツイッターで釈明した。
このカニエの発言に多くの黒人が激怒。ラッパーのミーク・ミル(Meek Mill)はインスタグラムに「今までのカニエよ、安らかに眠れ」のテキストとカニエの画像を投稿。同じくラッパーのスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)も「これが新しいカニエだ。あいつはもう白人として生きていくみたいだ」とカニエの肌を白くした画像をインスタグラムに投稿した。また、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)は「歴史を知っているのであれば、あの発言が間違っているとわかるはずだ」とコメントし、ナイジェリアの上院議員も「奴隷制は選択したものだとカニエが考えているのならば、彼に奴隷が歩んだルートと宿泊地を巡るツアーを提供しよう」と皮肉。多くの反発を呼んだ。
一連の動きを受けてかどうかは判断しかねるが、先週の土曜日にシドニーで開催された「イージー」とインナーウエアブランド「ツー・タイムズ・ユー(2XU)」のゲリラポップアップストアには誰も訪れず閉店を余儀なくされた。
これまで黒人というバックグラウンドとカリスマ性を武器に多くのファンを獲得してきたカニエ。異常な熱狂ぶりで世界を席巻してきた「イージー」すらこのような有様となってしまい、現在も誹謗中傷のコメントがSNSで相次いでいる。アディダス(ADIDAS)のカスパー・ローステッド(Kasper Rorsted)最高経営責任者もカニエを「非常に重要な存在」としつつも「一連の動きに関しては支持しない」と契約解消を匂わせる発言をし、本来ならば頼るべきマネージャーも欠いたいま、失われた信頼をどう取り戻すのか。一度失われた熱狂や信頼は取り戻すのが難しい。6月1日にリリースされる2年ぶりとなるアルバムは、そんな熱狂や信頼を取り戻すキラーコンテンツとなり得るのか。