ファッション
連載 自遊人の嗜み

ネクタイを締めないライフスタイルが増えている今、スーツも時代の変化を楽しむべき 〜ラルディーニ編〜

 クラシックバレエから歌舞伎の世界を経て舞踊家へ。梅川壱ノ介は“舞う”ことにこだわり、情熱の赴くままに異色ともいえる道を歩んできた。舞台では、古典演目にクラシック音楽から現代アート、Jポップまでを組み合わせ、斬新な表現を繰り広げる。自身が掲げる人生のテーマは“伝統と革新”だ。そんな梅川が彼自身と同様に“伝統と革新”を掲げるクラシコイタリアを巡る対談企画「自遊人の嗜み」。第3回は来日したラルディーニ(LARDINI)のアンドレア・ラルディーニ(Andrea Lardini)最高経営責任者(CEO)とルイジ・ラルディーニ(Luigi Lardini)=クリエイティブ・ディレクターが登場。“伝統と革新”を地で行く、クラシコイタリアの雄が見据えるメンズファッションの次代とは?

梅川壱ノ介(以下、梅川):対談が決まった日、偶然「ラルディーニ」のセットアップを着ていたんですよ。お気に入りのブランドの一つなので驚きました。まずは、洋服のこだわりと時代の変化に対応するための多様性についてお聞きしたいです。

ルイジ・ラルディーニ(以下、ルイジ):生地やスタイルを常にアップデートすることが大切だと思っています。5年前と比較すると、スーツやジャケットの生地は飛躍的に軽くなりました。一方、生地が分厚くなければ表現できない柄もあるので、軽い素材でその色や柄、風合いをどう表現するかが差し当たっての課題です。

アンドレア・ラルディーニ(以下、アンドレア):現状までは時代の要望をクリアしていると思います。実際は軽いけれど奥行きと深みがあり、立体感のある生地が提供できています。今後は、より機能的な素材で何を作るかということに尽きます。

梅川:生地の軽さが染色に影響を及ぼすんですか?

ルイジ:糸が細くなればなるほど、生地の立体感を表現することが難しくなるんですよ。

梅川:僕は日本舞踊家ですが、昔は“正しい”と考えられていたことでも、現代ではその解釈が異なる場合があります。今は古典だけでなく現代の曲で踊ったり、衣装を変えたり、日本舞踊の入り口をどう広げようかと悩んでいます。今後は、着物の生地でスーツを作るのも面白いなと。「ラルディーニ」は、どのような提案をしていますか?

ルイジ:今はスーツを着ない、ネクタイも締めないライフスタイルが増えてきていますが、美しい装いにスーツは欠かせない。「ラルディーニ」は、スーツを着る文化がなくならないように、トレンドも含め常に魅力的なスーツの提案を心掛けています。

梅川:日本において和服は、スーツ以上に需要が少ないんです。

ルイジ:日本の伝統文化を忘れちゃダメですよ。

梅川:そうですよね。だから和服をどう着るか、若者にどうかっこよく、気楽に“良い”と思ってもらえるかを追求しようと思います。「ラルディーニ」のパッと目を引く花のモチーフはとても素敵ですよね。

ルイジ:ありがとう。花形のブートニエールは「ラルディーニ」の象徴で、商品を際立たせるために加えるアクセントなんです。このモチーフが付いたジャケットを見れば、誰でも「ラルディーニ」とわかるでしょう。ジャケットやスーツの違いを見極めるのはとても難しいですから。

梅川:ラペル以外にも付けられるんですか?

ルイジ:どこにでも付けられますし、花はロマンチックなので女性へのプレゼントとしてもOK。女性にアプローチするとき、なかなか使える小道具だと思います(笑)。昨日も食事に行ったとき、偶然隣のテーブルに知り合いの女性がいて「きれいな花ね」と言われたので、その場でプレゼントしました。

梅川:どの商品にも付いているのですか?

ルイジ:はい。基本的に「ラルディーニ」の商品には全て付いています。ネクタイでも、シャツでも。

梅川:素敵なこだわりですね。着物も羽織の裏に描かれている絵や色柄など、見えない部分のこだわりがあるんです。

ルイジ:着物は見るたびに印象に残ります。身のこなしというか体の動かし方にも特徴がありますよね。

梅川:足の開きを大きくするとガサツに見えますし、袖から肘が出るのも無作法なんです。昔から日本は所作を気にする文化ですから。

アンドレア:日本の伝統芸能でも作法や所作は重要なんでしょうね。日本舞踊や歌舞伎は何年くらい続けているのですか?

梅川:12年です。歌舞伎では、所作や着物の着方をとても厳しくしつけられました。

ルイジ:なぜ着物の袖口は大きく開いているんですか?

梅川:身の回りのものを収納する役目があるからです。例えば財布や名刺入れ、手ぬぐいを入れたり、扇子は帯に挟んだりもします。意外に和服は機能性が高いんです。先程軽い素材への追求についてお聞きましたが、色に対するこだわりはありますか?

ルイジ:強い色どうしを組み合わせないようにしています。真っ赤なシャツに、黄色いパンツのコーディネートなんて目も当てられないでしょう。強い色にはベージュや白といった、落ち着いたトーンの色で中和するように組み合わせています。

梅川:好きな色は?

ルイジ:白です。チーフのような小物でもいいですし、スタイリングに必ず白を取り入れるようにしています。白が持っているエレガントさは他の色にはないものです。とてもフレッシュな印象になります。

梅川:実は今日、襟の色を紺色に、帯を金にしようかと迷いましたが、結局白にしました。

ルイジ:とても似合っていますし、白がエレガントで正解です。もしアップルグリーンのような派手な色だったら僕は帰っていましたよ(笑)。

梅川:ちなみに日本の江戸時代の終わりには、ぜいたくを禁止する決まりがあって、庶民は派手な色の着物を着られなかったんです。その結果、茶色とグレーのトーン違いの色合わせを表す“四十八茶百鼠”という言葉も生まれ、地味な色の微妙な違いを楽しむ文化が誕生したんです。

ルイジ:イタリアでも30〜40年くらい前までは、夫を亡くした妻はその後7年間、黒い服を着なければならない習慣がありました。今では次の日から派手な洋服を着ていますけれど。

梅川:ライフスタイルの変化は、ファッションに大きな影響をもたらしますね。「ラルディーニ」はどうですか?

ルイジ:「ラルディーニ」には40年の歴史があります。その歴史が品質保証書のようなものです。「ラルディーニ」のスーツに袖を通すと身も引き締まり、スタイリッシュに感じでもらえるはずです。

梅川:僕も「ラルディーニ」のスーツを着たときには、身も心も引き締まりました。

アンドレア:「ラルディーニ」では40年間ずっと一緒に仕事しているスタッフが多いんですよ。チームが長く続くことで息の合った仕事ができる。そうすると、製品の精度もどんどん上がります。

梅川:約40年間もスタッフが変わらないのは、みんな「ラルディーニ」を愛しているからですね。

アンドレア:私はスタッフをただの生産者だと思っていません。むしろアーティストだと思っています。その働き方や情熱を目の当たりにして、自然にそう思うようになりました。

梅川:僕も支えてくれるスタッフを信頼しています。

アンドレア:ファッションも日本舞踊も農業でさえも、情熱を持って取り組んでいる人はみんなアーティストです。「ラルディーニ」にはそんな人々が集まっているんです。あなたにも良いチームがあるでしょう?

梅川:そうですね、一人では何もできません。最後にお二人にとってファッションは何かを聞かせてください。

ルイジ:自分らしさを表現する最も効果的な方法ですね。

アンドレア:自分が素敵と思う洋服を着ていたら1日を気持ちよく過ごせるはずです。

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