パリでファッションを学んだ中嶋俊太と、さまざまな企業やブランドのメンズウエアを手掛けてきた川瀬正輝によるメンズブランド「オールモストブラック(ALMOSTBLACK)」は、“ポスト ジャポニスム”をコンセプトに掲げて2015-16年秋冬シーズンに始動した。両デザイナーがこれまで影響を受けてきた音楽やアートなどのカルチャーと、日本古来の伝統文化を融合した無二のクリエイションで徐々にファンを獲得し、セールスを伸ばし続けている。
彼らの服は、ストリートやモードといったカテゴリーに収まらない。レジェンド的デザイナーのクリエイションを継承しているわけでもない。一見、挑戦的に見えるクリエイションの土台には、服作りに対する2人の確かな技術と経験があり、シーズンテーマによってガラリと様相を変えても揺るがない安定感がある。現在は国内外の25アカウントに卸し、18年春夏シーズンは伊勢丹新宿本店メンズ館でプロパー消化率95%を達成。同店バイヤーも「独自性やアイデアが断トツ」と絶賛する他、阪急メンズ東京・大阪のバイヤーも一押しブランドに挙げるなど、有力百貨店からも期待は大きい。19年春夏シーズンには、実用性を重視し、流行に左右されない普遍的デザインにこだわった新ライン“プロダクト オールモストブラック(PRODUCT ALMOSTBLACK以下、プロダクト)”を立ち上げる。なぜ、先鋭的なコレクションラインとは真逆のモノ作りに挑むのか。また2ラインの体制となってブランドを今後どう成熟させ、進化への道筋を思い描いているのか。9月に開いたばかりのアトリエ兼ショールームで2人に話を聞いた。
WWD:卸先から評判が高くセールスも好調とのことだが、その要因は?
中嶋俊太デザイナー(以下、中嶋):17年春夏シーズンから「2人の感覚をもっと大事にしよう」と決めた。まずは2人でトワル(仮縫いサンプル)を作り、お互いの気持ちが上がった瞬間を実際のデザインに落とし込むようにした。服は正直なので、そういう作り方をした方が自分たちのいい部分がより出せるようになり、結果としてセールスも上がってきた。
WWD:「オールモストブラック」はデリバリー時期が早いのも特徴だが?
中嶋:秋冬は6月に、春夏は12月に納品するので、シーズンアイテムをいち早く買いたいという購買意欲の高い方をつかめているのかもしれない。また決して安くはない価格帯なのに10代の顧客もいるし、幅広い客層に支えられている。最近うれしかったのは、アートディーラーの方が気に入って買ってくれたこと。立ち上がりからアートをテーマにして服を作ってきたので、アート界の方からも認められてありがたい。
WWD:コレクションラインが順調に伸びてきている中、新ライン“プロダクト”を立ち上げた理由は?
川瀬正輝デザイナー(以下、川瀬):ブランドを立ち上げた頃から構想はあり、コレクションラインのセールスが伸びてきたのでこのタイミングだなと。アート的なアプローチのラインと日常の道具的な感覚で作る“プロダクト”、両端のクリエイションに全力を注ぐことで、ブランドをどう成長させられるかを自分でも楽しみにしている。
WWD:ファーストシーズンのコートやジャケット、ブルゾン、Tシャツなど20型はすべて白か黒のモノトーンだが?
川瀬:“プロダクト”は自分たちのリアリティーを物作りに込めている。自分も中嶋もモノトーンを着ることが多く、ワードローブのトップ1と2のカラーを選んだ。ただ今後はモノトーン以外のカラーもシーズンにプラス1色のペースで増やしていく予定だ。
中嶋:カラーのことだけではないが、セールスも当然意識している。僕たちはデザイナーであると同時に経営者でもある。会社を法人化したばかりで、9月には東京・目黒にアトリエ兼ショールームも開いた。これまでよりも多くの人に着てもらえる服なので、卸先も広がることを期待している。“プロダクト”がコレクションラインを知ってもらうきっかけになることもあるかもしれない。
WWD:自分たちのリアリティーとは、具体的にどういった点を指す?
川瀬:2人とも昔のミリタリーアイテムが好きで、今も古着店やインターネットで買うことが多い。だからミリタリーの実用性から着想を得たディテールやシルエットを採用し、腕を動かしやすいとか、シワになりにくいなど、自分たちが着ていて快適な服かということに重点を置いている。アウトドアウエアのような機能推しの服ではなく、僕たちの経験を生かしたデザイン、パターン、縫製が一体になったモダンな服じゃないと「オールモストブラック」を掲げる意味がない。
中嶋:日常生活に必要な機能を備えつつ、服が擦れた時にシャカシャカ音が鳴らないとか、等身大の視点で便利かどうかを大切にしている。世の中にはさまざまなハイテク素材が開発されているが、実は天然のウール素材だって保温性だけでなく、湿気を吸収したり消臭効果があったりと快適性が高い。
WWD:ベーシックなアイテムが多い印象を受けるが、シーズンごとにアイテムは替わる?
中嶋:半分以上は入れ替えていく予定だ。他のアイテムもアップデートしていくという可能性もある。ただ次のシーズンになくなったとしても、その時の自分たちの考えや取引先、着てくれる人のリクエストで復活することもあるだろうし、単純に蓄積が増えていくという考え方。常にアップデートを繰り返していく工業製品のようなイメージだ。だからデビューシーズンは僕らが考える“19年版”。シーズンを重ねるごとに、どんどん時代に合わせて良くしていきたい。
川瀬:エモーションに訴えかけるクリエイションとは別に、実用的なデザインは誰のために作るかが大切だ。自分たちで着て便利なことも当然大切だが、道具としていいものであるかどうかが“プロダクト”の重要なポイント。デザインの一つ一つに理由がある。
WWD:2ライン体制となり、今後はブランドをどう成長させていきたい?
川瀬:コレクションラインは徐々に国内で浸透してきた手応えはあるので、次はグローバルへの拡販を目指している。逆に“プロダクト”は自分たちの生活のリアルな感覚を込めているので、共感してもらいやすい国内の市場に広めて両軸で売り上げを伸ばしていきたい。
中嶋:今はデジタル全盛で、好きな時に好きなものが買える時代。そんな中で1年に春夏シーズンと秋冬シーズンの2回しかビジネスチャンスがないのは違和感があった。“プロダクト”を立ち上げたことによって単純にそのチャンスが4回に増える。まだ先の話になるが、ECも検討中だ。また、ようやく構えることができた自分たちのアトリエ兼ショールームを活用し、別注やコラボレーション品の販売などを不定期で行っていきたい。それと、これまではPRや営業をあえて入れずに全て自分たちでやってきたが、ありがたいことに外部からオファーも届いているので、今後は伸びしろがある部分を積極的に伸ばしていきたい。