左から、ショック-1、フレデリック・ドゥ・ナープ=バリーCEO、スウィズ・ビーツ。ショック-1の作品の前で撮影。ショック-1は応用化学の学位を持ち、スウィズはハーバード・ビジネススクール卒と2人ともインテリだ PHOTO BY SHUHEI SHINE
「バリー(BALLY) 」は、グラミー賞受賞経験のあるラッパーでプロデューサーのスウィズ・ビーツ(SWIZZ BEATZ)との協働プロジェクトとして、X線写真をモチーフにしたストリートアートを描くアーティスト、ショック-1(SHOK-1)とコラボレーションしたカプセル・コレクションを発売した。スイス発のラグジュアリー・ブランドとして知られる「バリー」とストリート出身のアーティストらとの協業は、一見すると“異色のコラボ”に見える。しかし、意外にも彼らの間には親和性があるようだ。コラボコレクションの発売に合わせ来日したスウィズとショック-1、そして「バリー」のフレデリック・ドゥ・ナープ(Frederic de Narp)最高経営責任者(CEO)の3人と共に「バリー」とストリートの関係性を探った。
WWD:協働プロジェクトの相手にスウィズを選んだ理由は?
スウィズ・ビーツ(以下、スウィズ):アプローチは私からした。2年半ほど前だったが、SNSで「バリー」のスニーカーを投稿したところ、友人のアーティストたちから非常に好評で、私自身も驚いたことがきっかけだ。
フレデリック・ドゥ・ナープCEO(以下、フレデリック):スウィズからの連絡を受けて、ニューヨークでのVIP向けの食事会にスウィズも招待した。そこでスウィズの価値観や「バリー」への思いなどさまざまな話を聞き、私たちと共通する点がいくつもあると知った。話が盛り上がり過ぎて他の方とも話さなければならないのに4時間近く話し込んでしまうほどだった(笑)。スウィズはアートへの理解があり、ディーン・コレクション(スウィズの本名はカシーム・ディーン)など、アーティストの権利を守る活動もしている。彼の活動を見て、「何か一緒にできないか」という話になった。そこで彼からアーティストを紹介してもらい、「バリー」とコラボレーションする、というプロジェクトになった。
スウィズ・ビーツ PHOTO BY SHUHEI SHINE
WWD:スウィズは「バリー」をどのように理解した上でアーティストを選んでいる?
スウィズ:「バリー」は持続性のある豊かな歴史を持つ、オーセンティックなブランドだ。そのイメージを持った上でフレデリックCEOと話し、「バリー」への思いがさらに強まった。「バリー」とのプロジェクトは今回で2度目。1度目はグラフィック・アーティストのリカルド・カボロ(Ricardo Cavolo)を選んだ。彼のエネルギッシュでカラフルな作品は、最初のコラボにふさわしく、人々の「バリー」へのイメージと全く違うアイテムができると確信したからだ。そして今回は、モノクロのX線写真をモチーフに作品を作るショック-1を選んだ。人々の予測をいい意味で裏切ると思うし、今やSNSの普及で写真を撮ることが当たり前になっている中で、ショック-1はX線という、人と違った方法で写真にアプローチしている点で面白いコレクションになるはずだ。このプロジェクトを通じて、コラボにおいてブランド側からお金を払っても、アートの権利は本人のものだ、ということを伝えることもできる。
ショック-1:今回のコラボは、ブランド側と平等な立場で「やらされている感」が全くなかった。私が作りたいと思うものを作らせてもらった。甘やかされている子供のようだったが(笑)、だからこそいい作品を生み出す力を持てた。
ショック-1 PHOTO BY SHUHEI SHINE
WWD:ショック-1は今回のコラボアイテムをどのように作った?
ショック-1:スウィズからオファーがきたときまず考えたのは、格式高いイメージがある「バリー」と自分との関係性だ。そこで思い至ったのが、ヒップホップに「バリー」が強く根付いていた、ということ。1980年代後半から90年代にかけてのニューヨークのヒップホップではよくリリック(歌詞)に「バリー」の服や靴が登場していた。当時の私は憧れつつも、お金がなくて買えなかったが(笑)、今回のカプセル・コレクションでは当時の「バリー」に思いを馳せつつも、コンテンポラリーな形に仕上がった。
WWD:フレデリックCEOは「バリー」がストリートに根付いていたことをどのように捉えている?
フレデリック:80年代にニューオーリンズを中心に、著名なラッパーたちがリリックで「バリー」を取り上げていた。CEOに就いてから豊富なアーカイブを見て知ったが、非常に興奮したし、今も「バリー」のDNAとして受け継がれていると思っている。当時に立ち戻るために、今年の4月にニューオーリンズのヒップホップコミュニティーを訪ねた。そこで感じたのは、スイスで唯一のラグジュアリー・ブランドとして品質に一切妥協をしない「バリー」と、アーティストとして強いこだわりを持って音楽を作るラッパーたちの間には親和性があることだ。こういった過去のつながりこそが、「バリー」が目指すアーティストとの“オーセンティック”なコラボレーションにつながっている。
WWD:フレデリックCEOの考える“オーセンティック”とは?
フレデリック:80~90年代にはマーケティングやPRの意識がヒップホップに対しては向いていなかった。それにも関わらず、自然に「バリー」がストリートコミュニティーに受け入れられ、PRするかのようにラップされていた。リアルでピュアな関係だ。これこそ“オーセンティック”だし一般的なコラボと違う点でもある。
ショック-1:全く異なるように見えるスイスの「バリー」とアメリカのストリートが、音楽で交わっているのが非常に面白い。今回のコラボコレクションでは、「バリー」の過去と未来をつなぐことができるよう、使うアートピースを厳選した。作品全てに意味がある。詳しくは説明しないが、商品を手に取って感じてほしい。
WWD:ショック-1は応用化学の学位を持ち、スウィズはハーバードビジネススクールを卒業している。ストリートカルチャーにとって“知性”とはどのような存在か?
スウィズ:ブロンクスで育った私は、教育がいかに必要かということを今までずっと考えてきた。クリエイティブな活動をする人たちは、ついビジネスの観点を忘れがちだが、結果的にはビジネス的な思考がなく、パワーを失っていく人たちをたくさん見てきた。だからこそ、私もハーバードのビジネススクールに進んだ。ハーバードでは社会にあるいろいろなシステムをいかに正確に理解し、応用していくべきかを学んだ。教育があれば多角的な視野で先を見越した選択ができるはずだ。
ショック-1:ストリートの世界では、無法者のイメージが強く、教育は不要だと思われているかもしれない。学位を持って、ストリートアートの活動をしていることを「変わっている」と面白がってくれる人もいるだろう。その中には、私のように化学とアートを組み合わせた活動をしようと考える人もいるかもしれない。そういった人が一人でもいてくれたらこれ以上のことはない。