コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)の2018年4〜9月期決算は売上高が前年同期比21.1%増の68億1000万ユーロ(約8780億円)だった。純利益は同131.3%増の22億5000万ユーロ(約2900億円)だったが、これは主に大手EC企業ユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)を完全子会社化する前から保有していた同社株式の再評価により、税引き後の含み益が13億8000万ドル(約1780億円)発生したことによる。
ジュエリー部門も業績に貢献している。「カルティエ(CARTIER)」と「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」が好調で、売り上げは9.1%増の34億5000万ユーロ(約4450億円)、営業利益は18.9%増の11億7000万ユーロ(約1510億円)となった。また、全体として直営店とオンラインストアの売り上げは中東およびアフリカを除く全地域で好調で、特に香港、韓国、アメリカでは2ケタ成長となった。
リシュモンはEC事業の拡大に積極的に取り組んでおり、10月にはYNAPと中国のEC最大手であるアリババ・グループ(ALIBABA GROUP)との戦略的パートナーシップ契約を締結した。YNAPの取り扱い製品を、中国の消費者や観光客に幅広く届けることが狙いだ。
なお、YNAPおよび6月に買収した高級時計の2次流通会社ウオッチファインダー(WATCHFINDER)の寄与分を除くと、上半期の売り上げは5.2%増となる。4~8月の5カ月間における成長率が10.0%程度であったことを考えると、9月に需要が減速したことがうかがえる。
ヨハン・ルパート(Johann Rupert)=リシュモン会長は、「中国市場の可能性に大きく期待している。アリババとの提携は、ラグジュアリー製品のオンライン販売に関して新たなスタンダードを作りたいという考えが一致して実現したもので、YNAPの取り扱いブランドと顧客に喜んでいただけると思う」と語ったが、「中国は経済的・地政学的に不安定な要因があるため、消費者需要の変動性が増している」とも発言した。
ブルクハルト・グランド(Burkhart Grund)=リシュモン最高財務責任者(CFO)は「中国の消費者による売り上げは中国国内と観光客の2種類に分類でき、観光客による売り上げの方が3倍多い。中国国内の消費は引き続き好調かつ成長しており、満足している」とした。
アジア太平洋地域における上半期の売り上げは17.1%増の25億5000万ユーロ(約3290億円)となっており、リシュモン全体の売り上げの37.4%を占める。YNAPとウォッチファインダーを除いた同地域の売り上げは14.0%増であり、香港、マカオ、韓国で2ケタ成長、中国本土で8~9%程度の成長だった。
一方で、中国人観光客による消費は予測が難しいとグランドCFOは言う。「夏以降、人民元が軟調だ。米中の貿易摩擦が続いた場合、為替レートがどう動くか、またそれがわれわれの事業にどう影響するのかが問題」と指摘し、「中国人観光客は為替差益を利用した買い物が上手い。他国でより低い価格で買えるとわかれば、予定していたヨーロッパ旅行を取りやめ、行き先を即座に変更する」と加えた。
9月中旬に超大型の台風22号が発生してフィリピンを直撃し、タイ、中国南部、香港に大きな影響を与えたのも不運だった。これにより、リシュモンはいくつかの店舗を休業にしなければならず、観光客による売り上げが打撃を受けた。
問題はそれだけではない。リシュモンは増益こそしているが、営業利益は3.0%減の11億3000万ユーロ(約1460億円)となっている。これはYNAPとウォッチファインダーの買収および統合などにかかった費用が影響しており、両社の買収に伴う無形資産の償却で1億1500万ユーロ(約148億円)の損失が計上されている。
リシュモンの将来的な計画について、グランドCFOは「新たな買収は優先事項ではない。緒に就いたECへのシフトをさらに推進することに注力していく」と語った。