松岡那苗:早稲田大学を卒業後、リクルートに就職。フィリピン・マニラに勤務し、プロジェクトマネージメントを担当。その後、ラグジュアリーブランドのデジタルマーケティング部門で主にeコマース事業に従事。現在サンフランシスコ発のストリートブランド「ナードユニット」の日本代表を務める傍ら、アジア発セレクトEC「シックスティーパーセント」の共同代表も務める。
今年9月にアジア各国のハイブランドを集めたオンラインセレクトショップ「シックスティーパーセント(SIXTY PERCENT)」が本格オープンした。代表を務めるのは、ストリートブランド「ナードユニット(NERDUNIT) 」の日本展開も手掛ける、26歳の若手起業家の松岡那苗だ。学生の頃からアジアの国々で活動をしており、アジア各国のファッションに対する熱量を肌で感じてきたという。そんな松岡代表に、「シックスティーパーセント」の立ち上げの経緯から、アジアのファッションブランドの今について聞いた。
WWD:「シックスティーパーセント」をスタートしたきっかけは?
松岡那苗(以下、松岡):前職はラグジュアリーブランドのデジタルマーケティング部門に在籍していたのですが、その時からアジアのブランドとのコネクションがあり、日本に進出したいというアジアのブランドをサポートするコンサルティングのような立場で会社とは別に個人で動いていました。「日本に上陸してみたいけど、やれる人がいない」という状態でもどかしい思いをしているブランドが多かったんです。そうしているうちにブランド数が10ブランドくらいになってきて。そんな時に、今の共同代表で、ファッションメディアやクリエイターのマネジメント事業を手掛ける真部(大河)にインタビューをされ、一緒にやろうという話になり立ち上げました。いつかは独立したいと考えていたのもあり、タイミングを見て会社化させました。
WWD:ブランド名の由来は?
松岡:世界の人口の60%がアジア人で構成されているからです。それに、ハイブランドの購入者の6割がアジア人なんですよ。実はアジア人がファッションのマーケットを回しているんだよというのを伝えたかったので。
WWD:そのように思ったきっかけは?もともとアジアに興味があった?
松岡:ニューヨークでファッション系のインターンをするなど、学生の時から海外にいる事が多かったのですが、ドイツで仕事をした時に現地の人に“アジア人女性”と一括りで見られることが多く、若干のもどかしさがありました。アジアのブランドはハイブランドの生産国というイメージを持たれることもあリます。でも、アジア各国を歩いていると店舗拡大のスピードも早いし、勢いもすごいし、ファッションブランドがこのレベルできたのかと驚きました。アジアのブランドだって、世界に通用するブランドがあるということをもっと表に出したいと思っています。
「シックスティーパーセント」で取り扱っている韓国発「アター」
WWD:アジアのブランドの勢いがすごいのはここ最近の話?
松岡:2016年頃からアジア各国でストリート領域の盛り上がりがきていましたね。シンガポールに行ってもタイに行っても、1つのブランドに交渉しに行っているのに、界隈のデザイナーさんたちが8人くらい集まってくるんです。「どのようにしたら日本進出できるのか?」と熱量がすごくて、本当にすごいなと肌で感じました。常にチャンスをうかがっていて、話していてもあまりマイナスの話も出ません。収益を全部投資にまわしてでも次に進もうとしていました。そういう人達が集まるブランドでセレクトができれば、伸びていくんじゃないかと思っています。
WWD:なぜそんなに勢いがある?
松岡:今は、ニューヨークのパーソンズ(・スクール・オブ・デザイン)などの主力の大学は2割強がアジア人が卒業していく時代になっています。卒業して自国に帰って独立していくわけですが、ハイブランドの生産を担ってきたから生産のノウハウがしっかりあって、さらにデザインができるのは強いですね。それに、マレーシアだと4ヶ国語話せるのが基本なので、情報も好きなところからとってくることができます。だからこそ、自分たちのクリエイティブが生まれてくるのかなと思ったりもします。
共同代表の真部大河(左):ファッションメディアやクリエイターのマネジメント事業を手掛ける会社の代表を務める。「シックスティーパーセント」では、エンジニア周りやeコマースの基盤作りを担当
WWD:アジア各国は日本のことをどう見ている?
松岡:いまだにやっぱり世界5大都市の1つだと見ています。日本のお客さんに認められるプロダクトかどうかを意識していて、「日本に認められたら世界でやっていける」と口をそろえて言います。
WWD:アメリカやヨーロッパに進出する前に、やはりまずは日本?
松岡:配送やアイテムの値動きなども考えると日本はすごく楽なはずなので、本当はトライしたいマーケットではあります。でも日本は言語の面で進出しづらいという概念があります。アメリカの方がディーラーも多いし、入り口としては簡単だと思っています。日本は窓口になる人が少ない。誰に連絡したらいいか分からないとよく言われます。
WWD:取り扱っているブランドで、人気のブランドは?
松岡:韓国の「モアザンドープ(MORE THAN DOPE)」や「サーティーンマンス(13 MONTH)」は、日本でもポップアップを何回も仕掛けていて人気です。タイ・バンコクの「アンダーグラウンド(UNDERGROUND )」はハイストリート系のブランドで、最近人気になってきています。このブランドの初めての日本の取り扱いもやらしてもらうことになっています。取扱ブランドを国別に見ると、1番が韓国で、香港、シンガポールと続きます。立ち上げの時は16ブランドからスタートしましたが、今は38ブランドです。ウェブサイトに上がっているのは21ブランドくらいですが、最近は毎日新規ブランドをアップしています。今でも1週間に5〜10ブランドのペースで連絡をいただいています。
韓国のユニセックスブランド「サーティーンマンス」
韓国のユニセックスブランド「サーティーンマンス」
韓国のユニセックスブランド「サーティーンマンス」
WWD:ブランドを選ぶ基準は?
松岡:定性的にいくつか指標は用意しています。他にも売り上げ規模とか、海外にいくつ展開しているのかなどのチェックなど。でも最終的には、代表の方やデザイナーに会ってみて、どれくらい投資しようとしているかや、拡大期かどうかは見るようにしています。あとは、デジタルのノウハウを根本的に持っているとか、eコマースの運用経験があるかも大事ですね。
WWD:在庫はどのように?
松岡:ドロップシッピングなので、在庫は持っていません。注文が入ったら、ブランドから直接発送します。アジアなので4日間くらいで届きます。ロジスティック周りや関税周りは社内で整えています。
WWD:手数料は?
松岡:10%です。eコマースは30%が相場の中で、もう少し上げた方が良いと言われたりもします。でも、アジアのブランドが海外に進出できない理由がそこにあります。10%だからこそ、試そうと思ってもらえる。そこは量で勝負して、私たちがお客さんを増やせばいいわけで。今後もイベントとかポップアップとかイベントを世界で仕掛けて、そっちで利益を作りたいです。
WWD:今後の目標は?
松岡:LAでポップアップをやろうと思っています。売れ行きのいいブランド10だけを集めて、4カ国周るとか。eコマースなので、汎用性を持ってオフラインでイベントをして拡大をして行きたいです。来年の夏以降には動こうと思っています。「シックスティーパーセント」がきっかけでアジアブランドが盛り上がってきたと言われるようにしたいです。