洋服やアクセアリーのレンタルサービスを提供する企業が急激に増えており、新たなアパレル・小売事業として注目を集めている。ストライプインターナショナルは2015年9月、「アース ミュージック&エコロジー」や「イーハイフンワールドギャラリー」など自社6ブランドの最新ウエアをレンタルできるサービス「メチャカリ」をスタート。スタイリストが選んだウエアをレンタルできる「エアークローゼット」の利用者はすでに7万5000人を超えており、ウェイティングが出るほどの人気だという。他にも高級バッグのレンタルに特化した「ラクサス」や実店舗・自社ECへの送客もできる「サスティナ」、主婦の友社と協業したウェブマガジンと連動し、コーディネートをそのままレンタルできる「エディストクローゼット」など、多種多様なサービスがある。
とはいえ、小売業界からは「店舗の売り上げを下げてしまうのではないか」などとサービスを不安視する声も少なくない。それに対してサービス提供企業が口をそろえるのは、「業界内外に対して、まずは啓蒙活動をしたい」ということだ。澤田昌紀ストライプインターナショナルメチャカリ部部長は、「テスト段階では、店舗売り上げを下げるどころかむしろ伸ばすことができた。顧客の月額購入額が20%程度上がったケースもある。新規顧客の割合が想像以上に高く、新たな集客手段になっている」と話す。天沼聰エアークローゼットCEOも、「レンタルをするから新しいものを買わなくなるという考えではない。レンタル事業は新しい洋服との出合いを提供するマッチング事業でもある。小売り企業と一緒に業界を活性化できるはずだ」と考える。若年層の消費マインドの低下を懸念し、購買意欲を刺激したい狙いがあるようだ。
レンタルという概念が普及すれば、新しい洋服の楽しみ方、新しい消費のあり方としてサービスが成長する可能性は高い。アパレル・小売企業の新規参入も続きそうだ。ここではレンタル事業のビジネスモデルと課題について、先行3社に聞いた。
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注目3企業に聞くレンタルビジネスの可能性
1. エアークローゼット
“限られた時間で出合いたいものに出合える場”
エアークローゼットはITコンサル出身の3人が2014年に設立したレンタルサービスを提供する企業だ。今年1月、寺田倉庫やクリーニング事業「ホワイト急便」を手掛ける中園ホールディングス、クレディセゾンなどから10億円弱の資金調達を発表した。天沼聰CEOは、「サービスの事業基盤のプラットフォームを整え、オペレーション面を充実させることが目的。倉庫機能やクリーニングのノウハウ、クレジット・ポイント機能などを上手く活用したい」という。
最大の特徴は、自分の好みを登録するだけで、スタイリストが洋服を選び、届けてくれる点だ。気に入ったウエアは購入もできる。「貸衣装としてのレンタルは経済的な理由で普及したが、われわれが提供するのは“せっかく借りたから着てみよう”という新しい価値。限られた時間の中でワクワクするものに出合える場作りをしたい」と話す。
新しい取り組みも多い。ビームス創造研究所のEC限定ブランド「カロリナ グレイサー」の試着キャンペーンは、EC専用ブランドとユーザーの接点を生むための施策。4月にはガールズアワードのランウエイに出ることで認知度拡大を図った他、ファッション業界のこれからを考える場としてバンタンとの産学協同事業も実施している。
2. メチャカリ
“まずは使ってみるという意識付けが必要”
ストライプインターナショナルが掲げる成長戦略の大きな柱にEC事業の強化がある。その一つとして2015年9月にスタートしたのがレンタル事業「メチャカリ」だ。特徴は商品全てが自社の新品で、出荷完了から60日経つと返却が不要になる点だ。自社EC「ストライプクラブ」と在庫連携をしており、小売りとレンタルで商材を区別していない。返品後にウエアを再度使用することはなく、ユーズド商品として自社のユーズドサイトや「ゾゾユーズド」などへ展開する。
始めたきっかけは、石川康晴・社長との会話だったという。「アパレル業界だけが生産・販売で完結している業界だと話していた。なぜ裾を広げるビジネスをやっていないのかと。レンタルやユーズドが裾を広げるビジネスの一つだった。F1層女性が中心顧客の当社では、20代が買わなくなっているからといってターゲットを変えることはできない。だからこそ、20代の消費意欲を喚起したい」。課題について、「昔のビデオのように、レンタルに対するハードルがまだ高い。まだ普及するフェーズにはたどりついていない。CMや初月無料キャンペーンを行い、『まずは使ってみる』という意識付けを行っている」。4月時点での利用者は約4000人だが、年内に1万人を目指す。
3. ラクサス
“小売業界とともに成長していきたい”
「ラクサス」は2015年2月にIT企業のエスがローンチしたレンタルサービスだ。月額6800円で1点のバッグをレンタルでき、何度でも取り替えられる上、無期限レンタルもできる。「商品は全て単品管理している。例えば、タバコを吸う、香水を使うなどのユーザー属性を把握しているため、一度タバコの臭いがついたバッグはタバコを吸うユーザーのみに表示する。コミュニティーをしぼって商品を回すことで手入れにかかる維持費を削減している」と児玉昇司・社長。ビジネスの利点は、在庫を手元に置かなくていいことだ。「バッグを保管するための倉庫を持っているが、ほとんどの在庫は利用者の手元にあるため、利用者が増えるほど、倉庫に在庫をかかえる必要はなくなる。バッグにはシーズン性がないこともメリットで、年中全ての在庫を活用できる」。
「今年の夏以降、マンハッタンをはじめローマやパリでサービスを展開していく予定だ。来年はニーズのあるアジアでもサービスを展開したい」と児玉社長。近いうちに国内大手商社とウエアのレンタル事業において提携する可能性もあるという。「われわれの事業の目的は、買うから借りるへと顧客を奪うことではない。バッグは高いからと買うのを我慢してきた人は多いはず。潜在ユーザーを活気付け、小売業界とともに成長していきたい」。