南貴之によるファッションブランド「グラフペーパー(GRAPHPAPER)」と久﨑康晴が手掛ける「エイトン(ATON)」は、コラボレーションしたコレクションを発売した。
商品は「グラフペーパー」定番のメンズのシャツ生地で作った「エイトン」の新型のウィメンズ商品、「エイトン」のオリジナル生地を使った「グラフペーパー」メンズの定番人気のシャツやパンツ、2人がこだわって選んだコットン生地に「グラフペーパー」でグラフィックをのせたユニセックスTシャツの3種類で構成。全12型は潔く白とネイビーだけのシンプルな色展開でラインアップする。
広島のセレクトショップ「レフ(REF)」では4月7日まで、コラボ商品のポップアップストアを開いており、3月29日からは「グラフペーパー」の東京・神宮前店、東京ミッドタウン日比谷「ヒビヤ セントラル マーケット」店、仙台店の3店舗で取り扱いを開始する。
南と久﨑は、超が付くほどの素材オタク。2人は出会った当初に素材について語り合い意気投合して、現在はプライベートでも交友があるという。初のコラボの経緯や、素材やデザインへのこだわりを2人に聞いた。
WWD:2人が出会ったきっかけは?
久﨑康晴(以下、久﨑): 4年半前に広島の「レフ」のイベントで会ったのが最初。怖い人がいるな……と思ったら、それが南さんでした。
南貴之(以下、南):共通の友人がいることが分かり、次に「エイトン」の展示会におじゃましました。そこで僕らは素材に“変態的”なので(笑)、すぐ意気投合。何度か食事して仲良くなりました。
WWD:お互いに共感した部分は?
久﨑:「エイトン」が一番大切にしているのはファブリックで、パターンやデザインも重要ですが、最初に目にとまるファブリックをどう作るか、と毎シーズン力を入れています。南さんは服を触ってすぐに「これやべぇよ……」と見抜いてくださいましたね。そんなに素材の話で盛り上がると思わなかったのですごく驚きました。
南:告白されてる女の子のような気分になりました(笑)。本当に「エイトン」の素材の作り込みはすごいですよ。ちょっと失礼な言い方かもしれないけれど、ウィメンズの洋服を作っている人でここまでこだわる人ってあまり知らないですね。「こんなにしちゃって、大丈夫なんですか?」みたいに心配になるほど。“産地をまたいでしまう”ところは、「お客さまにはちゃんと伝わるんですか?」って思いましたね。
WWD:“産地をまたぐ”とは?
南:生地の縦糸と横糸で、別の産地を掛け合わせた生地作っているんです。業界の人でも“訳の分からない生地”だと思います(笑)。とてもマニアックな話ですが、異質で面白いし、すばらしいなと思います。
久﨑:正直、普通に着てくださる人は特に気にしないことなのですが、綿のコート地は浜松、ウールのコート地は尾州など、地域で得意な素材があります。そこには糸を作る人、織る人、仕上げする人、地域に根付いた職人がいて、土地ごとに完結しているのが普通なんです。でも僕は「このウールをもうちょっとコットンっぽく仕上げたい」と、いろんな組み合わせしている。それは“ウールのここ嫌だよね”と思うところを解消するためにやっていて、着れば大概の人が分かるんですが、触ってすぐに気づける人は少ないです。
WWD:今回のコラボレーションのきっかけは?
南:両ブランドの卸先であり、出会いのきっかけにもなった広島の「レフ」さんのお声がけで、「何か一緒にやりませんか?」ということになり、「どうせやるならちゃんと作りたい」という話になって準備をしました。そこから、お互いの定番アイテムと生地を交換したらどうか、というアイデアが浮かびました。
久﨑:最初は「レフ」さんから120平方メートルのスペースを僕ら2人に任すとお願いされたのですが、お互いの別々のコレクションを持ち込むのではなく、数型の白とネイビーだけのストイックな服をちょっと置こうという話になったんです。去年の10月から何となく話し始めて、ゆっくりスタートして最後はバタバタと(笑)。かなりこだわっていますが、合理的でスムーズに進みましたね。
それぞれの定番素材をトレードしたコラボ商品
WWD:それぞれが交換したこだわりの生地について教えてください。まずは、「グラフペーパー」の定番シャツ生地で仕立てたウィメンズアイテムはいかがですか?
南:「グラフペーパー」のメンズのシャツ生地は、細番手の超長綿を高密に打ち込んでいて、ハリがありながらも柔らかい。高級なベッドシーツなどにある素材と一緒です。僕は寝るのが大好きなんで、シーツに包まれたまま外に出るような感覚をイメージしました(笑)。ものぐさなもので……。
久﨑:その生地がとてもキレイだったので、コラボではあえて生地に洗いをかけた方が引き立つかなと、ワンピースなどに使ってみました。これらは「エイトン」の定番型ではなく、春夏新型を中心にこの素材が生きるものを選んで使用しました。
WWD:「エイトン」の定番生地で仕立てた「グラフペーパー」の定番アイテムがあるが?
南:「グラフペーパー」は店の制服を作ることからスタートしていて、一番最初コート、シャツ、コックパンツを作っていました。ラフなシャツとワークウエアのパンツをどれだけきれいに作れるかという考えで、シャツは両胸にポケットを付けて、販売スタッフたちがモノを入れやすいようにしたり、シャツジャケットっぽく使えたりと工夫している。この2つは店でもずっとベストセラーです。あと僕は販売出身だから、サイズの概念をなくすためにフリーサイズにしているんです。接客していた時にパンツのサイズで「Sありますか?」って聞かれて、なかった場合に断られるのがすごく嫌だった。断る理由を作るためにないサイズを聞かれているんじゃないかって思うこともあって(笑)。「グラフペーパー」の基本概念は“楽でキレイに見える”こと。特に今、ITの業界の人たちが僕らの服を好んで着てくださることが多いんです。それはガチガチのスーツ着て会社に行くっていう人が少ない中で、結局着やすいけれど、“ちゃんとして見える”みたいなところがあって。僕は別にデザイナーのつもりは全くないんです。ディレクション側の目線でプロダクト作るみたいな感覚で服を作っていますね。ポップ作るのも、空間作るのも、建築作るのも、服作るのもそんなに違いがないっていう風には思っていますね。だから、ファッション的な観点ではないかもしれないですね。
超自信作の“ヤバイ”Tシャツ
WWD:Tシャツはユニセックスで、さらっとした手触りの透けない生地で作られていますね。
南:これ素材がヤバくて、超自信作です(笑)。
久﨑:本当にヤバイです(笑)。一般的に透けないよう肉厚にしたTシャツってもっこりしてしまいがちで、カジュアルな雰囲気になる生地が多いんですが、僕らはヨーロッパのキレイすぎるのも、アメリカの伝統的な肉厚な紡ぎ方もやりたくなくて、その中間の生地ってどうやって作ったらいいのかなっていうので、この素材を開発したんです。肌離れがよくて、真夏でも着やすく、何度も洗っていくと良さが分かる。インドの手摘みのコットンを使用した糸を和歌山で編んでいるんですけれど、「エイトン」の定番生地になっています。
WWD:「エイトン」はカットソー生地を得意にしている。
久﨑:「エイトン」ではTシャツがベストセラー商品です。1枚で着てもいいし、レイヤードしやすいように少し裾を長めに設計しています。シンプルなラウンドヘムから、オーバーサイズのデザインまで、頻繁に欠品するくらいの人気があります。僕らはジャージーのカットソーブランドなので常にTシャツを中心に考えていて、作っているジャケットやコート、スカートは、Tシャツと合わせる用のアイテムとして構成しています。
南:コラボのロングTシャツは、僕の好みで袖をリブにしてもらっていてますね。素材を交換するようなこういう取り組みって見たことないからおもしろいと思う。
WWD:「エイトン」は昨年12月に東京・青山に路面店を開いた。
久﨑:表参道駅の近くではありますが裏通りなので、ふらっと入ってくる人は一人もいらっしゃらなくて、来店されるお客さまは目的を持って来られますね。
WWD:「グラフペーパー」は今年2月に仙台にフランチャイズの新店舗を開いたが。
南:他の店舗はセレクト商品も一緒に販売していますが、この店舗は唯一ブランドの商品だけを置いています。まだ予定はありませんが、今後そのような店を東京にも構えたいと思っています。ちょうど「グラフペーパー」神宮前店も増床して手を加えたばかりです。
WWD:昨年、東京ミッドタウン日比谷に開業した「ヒビヤ セントラル マーケット」は1周年を迎える。
南:1年経ったと思うと感慨深いですね。「ヒビヤ セントラル マーケット」では29日からは花見をテーマにした「春祭り」を開催する予定で、通路に桜を飾って屋台が出て、それぞれのお店でポップアップも予定しています。春、夏、秋、冬と、お酒のイベントを企画していて、要は僕が飲みたいだけなんですけど(笑)、ぜひ皆さまいらしてください。
WWD:「エイトン」の今後は?
久﨑:今は開いたばかりの青山店を軌道に乗せることですね。企画の話でいうと、来年の2020年春夏コレクションの制作がピークで、並行して20-21年秋冬のコレクションの素材の仕込みもしています。