ドイツ・ベレンベルク銀行(BERENBERG)のアナリストが1月、スイスの高級時計ブランド「パテック フィリップ(PATEK PHILIPPE)」の身売りの可能性に言及したことで高級時計業界だけでなくラグジュアリー業界全体にそのウワサが広がっている。
スイス・バーゼルで開催中の世界最大の時計・宝飾の見本市「バーゼル・ワールド(BASEL WORLD)」で同社のティエリー・スターン(Thierry Stern)社長に直撃取材をすると、「身売りはしない。単なるウワサにすぎない上に30年前から言われていることだ。われわれは今の状態を楽しんでいるし、資金面からみても十分な事業規模だ。それに私はまだ若い」と身売り説を否定した。
ケリング(KERING)の18年12月期決算発表でフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)会長兼最高経営責任者が「ポートフォリオ強化のためにウオッチブランドの買収も検討している」と発言した際は、その候補に「パテック フィリップ」の名が浮上していた。
スターン社長によると、生産数を年間6万本に限っているため、中国市場の需要を十分に満たせていないという。「13億人以上の人口を抱える中国は巨大な市場で、同国のクライアントと組みたいとは思うがそれは最優先ではない。われわれは規模が小さく、膨大な数を提供するキャパシティーがないからだ」とコメントし、ジュネーブや香港といった地域のクライアントと組む方が好ましいとも付け加えた。
また、今後の特にデジタル領域のマーケティング戦略については「急いではいない。デジタルと紙媒体、どちらか一方を諦めて間違いを犯さないためにも双方と2つのミックス、それら全てを活用しなければならない。スピードに重きを置くのではなく、好機を待ち、状況を分析してから行動する方がわれわれには合っている。これまで行ってきたデジタル関連の施策はそれほど悪くなく、全般的にはよくやっていると思う」と語った。
大根田杏(Anzu Oneda):1992年東京生まれ。横浜国立大学在学中にスウェーデンへ1年交換留学、その後「WWD ジャパン」でインターンを経験し、ファッション系PR会社に入社。編集&PRコミュニケーションとして日本企業の海外PR戦略立案や編集・制作、海外ブランドの日本進出サポート、メディア事業の立ち上げ・取材・執筆などを担当。現在はフリーランスでファッション・ビューティ・ライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を行う。