2020年春夏シーズンのメンズコレクションを取材する記者2人が、見たまま感じたままにコレクションをレビューします。先輩記者Mは15年間メンズコレクションを見続けてきたベテラン、後輩記者Oは取材歴3年目。時には甘く時には辛口に、それぞれの視点で最新コレクションを語り合います。
後輩O:さあ、パリメンズがいよいよ本格スタートしています。2日目のラストは 「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」。いつも郊外の会場を選ぶことが多いですが、今回もやっぱり遠かった。中心地から車で40分、電車だと1時間ぐらいかかるショー会場でした。広々として会場内にはビニールがグルグルに巻きつけられたシートがランダムに置かれていて、何かが起きそうな空間のように感じました。ただ、ショー開始時間の21時は過ぎているのに、人の集まりがまばらだったような気がしました。
先輩M:もうね、マジ遠すぎる。こんな遠い場所、オートクチュール・コレクションでヴェルサイユ宮殿に行った時以来、経験がないもん(笑)。1回しかないけど。加えて21時って言う遅い時間帯だし、「『ラフ』だからきっと遅れるよねぇ。帰りは22:30?じゃあやーめた」なんて人もいたハズ。「ラフ」が大好きなボーイズが聞いたら、怒りそうな話だけどね。「怒る」と言えば、ラフ、このショーで誰かに怒ってたよね(笑)?
後輩O:激ギレでした(笑)。まず「STONE(D) AMERICA(アメリカに石つぶて)」という強いレタリングを見て、ああアメリカにメッセージを発信してるんだな思いましたけど、星柄のTシャツをペンキで荒々しく塗りつぶしたり、パンツをズタズタに引き裂いたりしていて、おおーこれはアメリカに怒ってるなと。そしてアメリカといえば、ラフを見放した「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」ですよ。
先輩M:「STONE(D) AMERICA」は、「STONE」だけだと「石を投げつける」だけど、「STONED」はスラングで「(薬物などで)イッちゃってる」という意味もあるんだね。「(D)」を末尾につけることで「アメリカ、イッちゃってる」という意味も込めているのかと。冒頭、BGMの中に「嘘つき!アメリカンメディアの嘘つき!アメリカの会社の嘘つき!独裁的なアメリカの嘘つき!」ってセリフがあったんだよね。その瞬間、「あ、こりゃ『カルバン・クライン』を手掛けるアメリカン企業PVHコープにキレてるな」って思った(笑)。コレクションは、「R&D(リサーチ&デベロップメント)」って文字を刺しゅうした白衣みたいなコートから始まったよね。「俺にもうちょっとやらせれば、いろんな実験を通して『カルバン・クライン』を変えられたのに」ーー。そんなメッセージに思えてしまった。
後輩O:ショー後のインタビューでは、何かに巻きつけられる、縛られることがコレクションテーマの一つだったと言っていたそうで、それも何だか意味深です……。最近では中国との貿易戦争が話題ですが、混迷の度合いを増しているアメリカという国、そのものに対しても怒っている印象を受けました。個人的にラフは好きだし、本当にアメリカやPVHコープへの直接的な怒りのメッセージだったら少し大人気ないなとは思いますが、怒りでも悲しみでも、デザイナー自身のパーソナリティーがにじみ出ているコレクションってやっぱり引きつけられます。難易度スーパーハードなアイテムばかりでしたけど(笑)。
先輩M:切って重ねてくっつけての“実験”ラインは、生産されるのかな(笑)?オーバーサイズの白デニム、チビ&ビッグシルエットのニットあたりは、着やすそうだけどね。これだけ怒ったコレクションを「大人気ないと思う」か、それとも「強い意志の結果だから共感する」かは人それぞれだけど、そもそもデザイナーズブランドって、「好かれるか、嫌われるか」のどっちかのハズだから、感情を喚起できるだけで成功だったんだと思う。最近はそのブランドも「一番コワいのは無関心・無反応」って思っていて、嫌われても意志を表明する勇気を持ち始めているから。数年後(来年じゃない、残念ながら。ラフは早すぎるw)のトレンドセッターのラフが、これだけ強い意志を表明したんだから、数年後のファッションの世界は、みんなの意見が渦巻いている面白い世界になっているかもね。