コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)は、傘下のラグジュアリーブランド8つを一堂に集め、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を活用したポップアップの「アーケイディアム(ARCADIUM)」をニューヨークの大型複合施設ハドソンヤード(HUDSON YARD)内で7月12~25日に開催する。
参加するのは「カルティエ(CARTIER)」「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」「IWC」「ジャガー・ルクルト(JAEGER LECOULTRE)」「モンブラン(MONTBLANC)」「オフィチーネ パネライ(OFFICINE PANERAI)」「ピアジェ(PIAGET)」「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」とそうそうたる顔ぶれだ。いずれも長い歴史と高いクラフツマンシップを誇るブランドばかりだが、リシュモンはそれらのストーリーが顧客や見込み客にうまく伝わっていないのではないかと考え、若い世代にもそれを広めるべくARなどを活用した今回のポップアップを企画したという。これだけのラグジュアリーブランドが同じイベントに参加するのは珍しいが、実験的な試みであるため、会場で商品の販売はせずに展示のみとなっている。
「アーケイディアム」に入場すると、まず入り口付近のメインルームでiPadを渡される。そこにはブランドのストーリーがそれぞれ2分程度にまとめられた映像が入っており、それを楽しんだ後でブランドごとにしつらえられたブースを訪問するという仕組みだ。例えば、「ヴァン クリーフ&アーペル」のブースは“アルハンブラ(ALHAMBRA)”コレクションの世界観を反映して作られているという。メインルームのデザインは、ニューヨークを拠点に活動する若手アーティスト、ジャスティン・テオドロ(Justin Teodoro)が手掛けている。
英金融グループHSBCのエルバン・ランブール(Erwan Rambourg)調査部門マネジング・ディレクター兼小売株リサーチ・グローバル共同ヘッドは、「若い世代はブランドに対して上の世代とは異なる見方やアプローチをするので、リシュモンは彼らに“驚き”や“楽しみ”の要素を提供しようと考えたのだろう。何かを学ぶことや、こうしたインタラクティブな体験は消費者の心に強い印象を残す。ラグジュアリー分野ではストーリーが非常に重要だが、ジュエリーやウオッチの販売方法は昔からあまり変わっていない。このようにARやVRを活用した試みは面白いアイデアだし、うまくストーリーを伝えられる可能性があると思う」と語った。
同氏はまた、「ラグジュアリー業界は一般に古くさい価値観を持っており、やや傲慢でもある。しかし時代が変わって消費者は以前より若くなっているし、アジア系の人たちや女性も増えた。そうした“20代の中国人女性”にものを売るには、若いマネジメントチームが必要だ。ここ数年、リシュモンは傘下の17~18ブランドで最高経営責任者を若返らせるなどの対応を取っており、消費者動向により敏感であろうとしている」と説明した。
新しい試みを行っているのはリシュモンだけではない。「シャネル(CHANEL)」は2019年1月に、「ATELIER BEAUTE CHANEL (アトリエ ボーテ シャネル)」という接客なしで同ブランドの化粧品を好きなだけ試せる施設をニューヨーク・ソーホーにオープンした。また「エルメス(HERMES)」は4月に、ニューヨーク・ミートパッキング地区に3層約930平方メートルの新たなコンセプトショップをオープンしている。いずれも若い新規客の獲得を狙った動きだ。
HSBCのランブール調査部門マネジング・ディレクターは、「ラグジュアリー製品は基本的には必要のないものだ。それでも欲しいという感情や衝動によって購入するものだが、若く富裕な中国人女性をターゲットにした市場は競争が厳しくなっているので、そうした衝動をうまく引き出す必要がある。従来通りの堅苦しいやり方では、もはや競争に勝ち抜けない」と話した。
18年下期の株式市場が世界的に軟調だったこともあり、ジュエリー類はハイジュエリーを中心として売り上げが減速している。リシュモンは第1四半期決算を7月18日に発表するが、ジュエリー事業は“クラッシュ ドゥ カルティエ(CLASH DE CARTIER)”が好調の「カルティエ」がけん引して堅調なのではないかと同氏は予測している。