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「H&M」は増税後も価格据え置き 日本法人社長に聞く今後の成長戦略

 10月1日からの消費増税を前に、H&Mジャパンが増税後も価格を据え置くと発表した。「H&M」の他、「無印良品」や「ファッションセンターしまむら」なども増税後の価格据え置きを発表している。ルーカス・セイファート(Lucas Seifert)H&Mジャパン社長は、価格据え置きを「長期的に日本で成長していくためのお客さまへの投資」と語る。セイファート社長に、価格に対する考え方や、上陸10年を越えた日本での成長戦略を聞いた。

WWD:増税後も価格を据え置くのはどんな意図から?

ルーカス・セイファート社長(以下、セイファート):今599円で販売しているものは10月1日以降も599円で販売する。現状の内税表示のままで、価格は上げない。これはお客さまへの投資だ。お客さまが「H&M」で買い物をする際、今後も低価格をベネフィットだと感じていただけるようにする。「H&M」が日本で消費増税に向き合うのは、2014年に続き今回で2回目。前回も価格は据え置いた。それに手応えを感じたので今回も同様の戦略を取るという面はもちろんある。ただ、前回の結果がどうだったかは別にして、買いやすい価格で販売することをお客さまが求めている。お客さまは価格に対して敏感で、それに応える。10月の単月売り上げを伸ばすために価格据え置きを実施するのではない。もっと長期的な視点だ。

WWD:実質値下げになるわけだが、コストをどう吸収しているのか?

セイファート:これは(コストを負担するというよりも)お客さまの要望に対する投資だ。価格を据え置くことは1年以上前に決め、実現のためにさまざまな分野で企業努力を進めてきた。どこか特定の分野でコストを圧縮したということではない。長期的な目で価格戦略を考え、据え置きを可能にした。昨日今日決めたことではない。

WWD:08年の上陸以来、今回に限らず価格帯は下げてきているのか。

セイファート:上陸後の10年間で、09年と12年に価格改定を行い、価格を段階的に下げてきた。上陸当時は日本市場を学ぶ段階だったが、学ぶ中で日本のお客さまは非常に価格に敏感だと気付いた。よい商品というだけでなく、低価格であるということが求められている。それで09年に価格を下げた。その後店舗が日本各地に広がると、地方都市のお客さまは都市圏のお客さまよりも価格に対する視点がよりシビアだと分かった。郊外のお客さまの要望にも対応するという形で、価格改定を決めた。

WWD:日本の消費者は他国に比べて価格志向が強いということか?

セイファート:これまで自分が働いたことがある国としか比較はできないが、日本のお客さまが価格重視型なのは間違いないと思う。ただ、買い物の際に最も重視しているのは商品が気に入るかどうかで、手に入る価格かどうかというのは二番目だ。それら以外にも、日本のお客さまは品質や商品がサステイナブルに作られているかどうかなど、さまざまな要素を考えながら商品を選んでいるし、知識も豊富。また、日本を含め世界的に経済環境が厳しいため、以前よりも価格が重要な要素になっていると思う。各国ごとに戦略があるため、あらゆる国で日本と同様に価格を下げるということはない。ただ、私が把握している限りでは、最近中国でも価格が下げられている。

WWD:2018年11月期の日本の売上高は、前期比2.3%増の45億7300万スウェーデンクローナ(約503億円)だった。かつてに比べると成長率は鈍化している。

セイファート:日本のアパレル市場自体の規模が伸びていない中で、われわれはマーケットシェアを拡大しようとしている。われわれの売上高の伸びが小さいと感じるかもしれないが、確実にシェアを取っていきたいと考えて動いている。それに、店舗数が少ない時期は成長スピードが速く感じるものだ。ある程度まで成長した現状から、さらに拡大していくというのは難しい。われわれがかつてとは違う規模にあるということを理解してほしい。

WWD:現状の日本の店舗数は?

セイファート:94店舗で、11月に100店舗になる。以前のインタビューで、20年の東京五輪までに国内100店舗を達成すると話したが、それが前倒しで達成できた。まだ店舗がない都道府県があり、出店余地、成長余地は大きい。例えば富山県には、9月14日に初店舗をオープンする。東京に限っても、上野、池袋、吉祥寺などにはまだ店がない。ただ、出店は短距離走ではない。マラソンだと捉えている。EC売り上げも伸ばしていく中で、国内の実店舗数の上限を予測することは難しいが、150店はゆうに超えるだろう。しかし、何年までにそれが達成できるか断言はできない。繰り返しになるが、スピード優先で出店を進めるわけではない。

WWD:EC強化はH&Mのグローバルでも強化ポイントの一つだが、現状の日本のEC化率はどれくらいなのか。

セイファート:各国のEC化率は公表していないが、グローバルでは約13%だ。もちろん、日本でもグローバルでも、ECが非常に成長余地が大きいチャネルであるということは間違いない。日本では、間もなくラインショッピングでの販売が始まる。自社EC以外で日本では販売してこなかったので、純粋に拡張となる。物流の強化も行っているし、ECでオーダーして店頭で受け取るクリック&コレクトも日本ではまだ実施できていないので、それも順次導入していきたい。

WWD:08年の上陸時は、“ファストファッション”ブームをけん引した。ただ、日本の消費者も低価格のトレンド品というファストファッションのコンセプトには慣れてきている。今、客は何を求めているか。

セイファート:当時に比べて、求められるものは多岐に渡っている。買いやすい価格は変わらず期待されているし、スピード、品質への要望も高い。買い物をする時の環境の向上は実店舗でもECでも非常に求められるようになっており、ECでのカスタマーエクスペリエンスはわれわれも強化を進めてきた。同時に、商品そのものに対して求められることのレベルも上がってきている。それに応えるために、アジア人向けのアンダーウエアを開発した。アジア人の体形にあったフィッティングを採用した商品群だ。

WWD:グローバルSPAの基本は1プロダクト、1キャンペーン(世界共通商品、共通キャンペーン)だと思うが、国や地域別で異なるMDに注力するということか?

セイファート:ファッションはグローバルというわれわれの大枠の考えは変わらない。ただ、グローバルキャンペーンに追加する形で、日本のお客さまに親近感を持ってもらえるようなキャンペーンや商品企画は行っている。アジアフィッティングのアンダーウエアもそうだし、安室奈美恵さんを起用した昨年のキャンペーンもそう。今年の5月のキャンペーンでは黒柳徹子さんを起用した。いくつかの国・地域で同様のローカルが主導するキャンペーンを行っているが、全ての国で行っているわけではない。日本でこのように多数のローカルキャンペーンを行えていることは誇らしいし、こうした企画は楽しいものだ。

WWD:18年12月には、ショッピングバッグをプラスチックから紙袋に切り替えると発表した。その進捗は?

セイファート:紙袋への切り替えには2つの狙いがある。1つは、より環境に配慮した素材のショッピングバッグを使用するということ。そしてもう一つは、ショッピングバッグの使用総量自体を減らすこと。20年には、使用総量を従来の半分にまで削減することを目標として掲げた。19年11月期通期ではどうなるかは分からないが、現在までの時点では従来の半量に削減することができており、目標を達成している。

WWD:サステイナビリティーへの意識が高い企業の一つとしての認知も高まっている。サステイナビリティーについて今後計画していることは?

セイファート:サステイナビリティーは大きな取り組みであり、一言で説明できるようなものではない。プラスチックバッグの廃止は分かりやすいためニュースとしても広がりやすかったが、リサイクルコットンへの切り替えや、サステイナブルな新素材からコレクションを作ること、バリューチェーンを通した温室効果ガス排出量の削減、工場で働く人の労働環境の向上など、さまざまな面でのサステイナビリティーに向けた取り組みがある。これも短期で考えることではなく、長期で考えるものだ。

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