夏も終わる8月30日、東京を拠点とする「ダイリク(DAIRIKU)」の岡本大陸デザイナーと「シュガーヒル(SUGARHILL)」の林陸也デザイナーによるオールナイト音楽イベント「HUE」が東京・渋谷のコンタクト トーキョー(Contact Tokyo)を会場に開催される。
「HUE」は昨年10月に初開催され、今回が2回目と産声を上げたばかりのイベントだ。しかし、出演するのはサイケデリック・ロックバンドの踊ってばかりの国や、奈良発の気鋭ロックバンドAge Factory、シンガーソングライターでプロデューサーのNTsKi、森敦彦「ワコマリア(WACKO MARIA)」デザイナーがプロデュースするサウンドクルーKILLER TUNES BROADCAST、4人組のDJコレクティブCYKのKotsuなど、多様なジャンルから強力なラインアップ。聞けば、ブランドと密接な関係にあるアーティストとDJを中心に集めたという。
今回、開催にあたり主催する岡本デザイナーと林デザイナーに加え、出演するKotsuの3人に話を聞いた。ごく感覚的な話ではあるが、94年から96年生まれにはセンスのある人たちが多い。何を隠そう岡本デザイナーは94年生まれ、林デザイナーとKotsuは95年生まれだ。彼ら同世代の東京ユースが見るリアルの先にあるという「HUE」の開催の意義とは?
WWD:まずは2人の出会いから教えてください。
岡本大陸:僕は奈良出身で3〜4年前に上京したんですけど、その頃から「僕の1つ下で『シュガーヒル』ってブランドをやっている子がいる」というのは友達から聞いていたんです。いつか会えるだろうと思っていて、知り合ったのは約2年半前ですね。
林陸也:プレス会社が同じということもあって僕も噂ではずっと聞いていました。でもいざ会おうとすると、展示会に来てくれたのに前日なくした携帯を買い直しに出ていたり、半年くらいすれ違いが続いて(笑)。18年3月頃に、受注会をやる場所と日程が近かったのでようやく大阪で初めて会いました。それから昨年9月に合同展示会を行うことになったタイミングでせっかくだから何かやろうと話が膨らみ、「HUE」の開催が決まったんです。
WWD:ひと昔前と比べてブランドが音楽イベントをオーガナイズすることが少なくなってきたいま、なぜ「HUE」の開催を決めたんでしょうか?
林:親父の趣味で昔から家にバンドセットがあったり、一瞬だけですがバンドを組んだり、音楽がずっと好きで生活の一部としてあったからですね。「シュガーヒル」もアイテムに暗喩的に歌詞が載っていたり、ミュージシャンのスタイルにデザイン面で影響を受けたり、音楽からインスピレーションを受けることが多いので。
岡本:僕は陸也ほどストレートに音楽に影響を受けてはいないんですけど、アメリカ古着やアメリカ映画から影響を受ける中で映画にはBGMとして音楽が使われていて、「空気感として、あの映画ではこういう音楽が流れていたから展示会でもこういう音楽を流したい」というのがあったんです。それで2人で、2つのブランドで何かをやるってなったとき、それぞれのコミュニティーが混ざっていくのが面白いかもしれないという発想から、音楽をきっかけにプラスアルファで何か違う広がり方をしたいと開催に至りました。
WWD:あくまでも2つのコミュニティーを混ぜたいからやる、という趣旨ではないですよね?
林:混ざればいいなくらいの願望で、演奏やDJを通してブランドと僕らの思いが伝わって結果的に面白いことが「HUE」をきっかけに起きればいいなと考えています。
WWD:イベント名の由来は?
林:僕らはバックボーンが本当に全然違うので、まとめようと思ってもまとまらない。だから会場で化学反応みたいに混じり合えればいいという思いから、英語で「色相」や「型」を意味する「HUE」と名付けました。
2ndアルバムのタイトルにもなっているAge Factoryの代表曲「GOLD」
WWD:初回はヒップホップ色が濃かったようですが、今回のバンドからDJまで多様なラインアップにした意図は?
岡本:今回は“自分たちとなんらかのつながりがある”という点が大きいですね。Age Factoryはボーカルの清水エイスケが高校の同級生で友人だし、めちゃくちゃかっこいいから絶対に出演してほしくて声をかけました。エイスケは繊細なセンサーを持っていて、バンドマンなんですけどヒップホップもK-POPも幅広く聴くしファッションにも興味があって、「こういうイベントがあるんだけど」って話をしたら「いつでも誘って!」って言ってくれたんです。エイスケだけじゃなく、ちょうどいまバンドシーンの人たちがファッション系の人と関わりたいっていうのがあるみたいですね。Kotsuは高校生の頃からツイッターで知っていたし、彼が所属しているCYKも聴いていた。(この関係について)掘って深い話があるかって聞かれると難しいんですけど、「この人は絶対に出てほしい」「ジャンルは違うけどこの先一緒に戦っていきたい」って気持ちがあるんです。
林:踊ってばかりの国は、ギターの丸山康太さんを「シュガーヒル」2019-20秋冬コレクションのモデルに起用させていただいたことがきっかけです。もともと僕が学生時代に毛皮のマリーズとドレスコーズの大ファンで、いつか一緒に仕事がしたいと思っている中でラブコールしたんです。そしたら撮影のときに「僕のことを好いてくれるのはうれしい、だけど僕がやってるバンドも素晴らしいからぜひ見てほしい」ってライブに呼んでもらって、ライブ終わりに「HUE」への出演を打診したんです。そのあと丸山さんから、バンドの皆さんがライングループで「ファッション系のイベントに出たことないからこのオファーはうれしいね!出よう!」みたいに「HUE」についてやり取りしてるのを見て、うるっときました(笑)。ほかにも「シュガーヒル」と「ダイリク」でそれぞれ出演してほしいアーティストやDJがいて、調整してくれる人として普段イベントをオーガナイズしているKotsuに声をかけたんです。
Kotsu:もともと初回も、大陸と知り合いたっだし世代も近いしってことで出演者として声をかけてもらっていたんですが、今回は出演と併せてDJのブッキングを手伝っています。クラブに通うようになってから、僕自身がナイトタイムで遊ぶクラブやパーティーをブランドが打ち出すみたいなのがずっといいと思っていて、事あるごとに全部行ってたんです。今回の「HUE」も昔の僕みたいにファッションという文脈があるからこそ行きやすいって人もいるだろうし、初めてクラブに来るって人がいると思う。そういう人たちに対して、今リアルなラインアップを体感してほしいという思いはあります。そういう意味では、僕と同い年のMayu Kakihataさんは同世代の中でもレコードディガーとして尊敬していますし、Little Dead GirlはVERDYさん主宰のWasted Youthとコラボでパーティーを敢行したばかりの注目コレクティブtokyovitaminのメンバー。なかなか共演はないラインアップではありつつも、何か似ているものを抱えた人たちかなと。
WWD:ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)もジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)もマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)も、いま一時代を築いているデザイナーは夜遊びがうまかったりDJをやっていたり、ナイトライフは大事ですよね。
Kotsu:僕にとっても大事だったタイミングが多々あるように、音楽やファッション以外の業種でもナイトライフでの出会いから仕事になったり、違う界隈の友達ができたりっていう経験は多くの人があると思います。2人から話をもらったときも、普段の活動だけを続けていたら築けない関係性が新しく生まれるイベントになるだろうなって。僕自身も初めて共演する人ばかりですし。実際に「HUE」で夜遊びすることで、そういうきっかけが生まれてほしい。そういうカルチャーをこの世代でつくるっていうのを僕はやりたいんで、いろんな人に来てほしいです。
WWD:出演陣の中に森「ワコマリア」デザイナーのKILLER TUNES BROADCASTの名前があったことが意外でした。
林:「ワコマリア」のブランドとしてのクルー感みたいなのにすごく憧れていて、世代としては完全に僕らの父親世代。“父親”にすがる思いで「一緒に遊んでくれませんか?」ってお願いしたところ快諾してくれました。僕らみたいな若手デザイナーのイベントに出演してくださるのがうれしいです。KILLER TUNES BROADCASTさんの出演が決まる前からですが、すでにジャンルレスでボーダーレスな感じだったんですけど、よりそれが濃くなりましたね。
Kotsu:全世界的に僕らの世代は、音楽とかファッションだけでなく何でも区切ることなくフラットに見ているんですよ。だからこそいろいろな壁を超えた「HUE」ってイベントが成り立っている。本末転倒になってしまうんですけど、今回のイベントについては探っても掘っても深い話は出てこないと思うんです。でもそれこそが僕らの世代のリアル。僕もDJとして本気で活動していますけど、ファッションやアートが気になるから情報を追うし、洋服も買う。本当に音楽だけが好きだったらボロッボロの洋服を着て、レコードだけ買ってればいい(笑)。でもいろいろな世界に興味があるんですよね。
WWD:みなさんの世代は、片手間で済ませるのとは違い興味があればとりあえずチャレンジするという意味合いで、物事にトライするハードルが低いですよね。
林:すごい自然な流れで「HUE」が出来上がっているんですよ。
Kotsu:この自然さが超リアルだなって。でも僕らからしたらここ(2人)を誘えないんですよね、実は。デザイナーに対するリスペクトもあるし、ブランディングもあるだろうから言えなくて。だから誘ってくれた時はうれしくて即答しました。
WWD:「HUE」ではみなさんのコミュニティー以外の人も巻き込みたいんでしょうか?
岡本:客層は僕らの周りの人、いわゆるファッション系の人たちが多いと思うんですけど、「このバンドめっちゃかっこいいじゃん」とか「あのDJいいね」みたいに広がっていったら、やった甲斐があるなって思います。「HUE」と「ダイリク」と「シュガーヒル」のそれぞれの違う入り口から知ってもらうのはいいことだと思うし、その逆も起きてほしいです。
林:僕らが本当にいいと思った人を集めたので、より広い層に届いてほしいし巻き込みたいですね。ボーダーレスに混じり合って、化学反応的に何かが起きるのを俯瞰で見ることを楽しみにしています。
岡本:とにかくファッションでも音楽でも、何かのきっかけになれればいいんです。僕が服を作るようになったきっかけは、大阪のアメ村のいろんなイベントに行って先輩と遊んでいたから。そこできっかけになる人と出会ったから今の俺がいる、みたいな。
WWD:2ブランドが主催するということは、出演者はブランドのアイテムを身につけて出演するんでしょうか?
岡本:それはないですね。僕とエイスケは同級生という関係性があるからこそ出演してもらっているので、コマーシャル目的で着てもらうという考えはありません。
林:僕は丸山さんに影響を受けてきたからこそ無理に着させたくないし、彼らのスタイルは触ったらいけないんです。偶像崇拝みたいなもので仏様と一緒です。丸山さんたちバンドメンバーの皆さんが自分の意思で着たいって言ってくれたらめちゃくちゃうれしいですけど(笑)。
WWD:今後、「HUE」は定期的に開催していくつもりですか?
岡本:陸也とは、同世代で頑張っている人たちと一緒にやれるのはすごい恵まれていると話していて、年に1回この世代でこういうことができればいいなと思っています。今回は夏の終わりに楽しいことがしたくて、8月30日の開催になりました。「HUE」で稼ぐつもりはないですけど、自分たちが打ち出したいものをちゃんと出せた上で利益が出たら素晴らしいとは思いますね。それこそ前回は赤字でしたけど、それでも今回またやる。だからこそ生まれるものがあると思っています。
林:今は“僕らのイベントにイケてる人たちを呼んでいる”って感覚なんですけど、将来的には“僕らのイベントに出ているからイケてる”みたいになってほしいんです。「HUE」に行けばイケてる音楽と出会える、みたいな。アーティストたちのプロップスになるようなイベントにもしていきたいですね。
■SUGARHILL & DAIRIKU presents HUE
日程:8月30日
時間:22:00〜
場所:Contact Tokyo
住所:東京都渋谷区道玄坂2-10-12 新大宗ビル4号館地下2階
入場料:3000円 / 前売り券 2500円 / 23歳以下 2000円
出演アーティスト:踊ってばかりの国、Age Factory、NTsKi feat. Yosuke Shimonaka、American Dream Express × MES、Kotsu、bungo、KILLER TUNES BROADCAST、Mayu Kakihata、LITTLE DEAD GIRL、Kohei Nishihara、Soichiro