ファッション

大理石の扉が開くとそこには3億円のダイヤが! 改装した伊勢丹ジュエリー売り場が壮大過ぎる

 8月28日に、伊勢丹新宿本店(以下、伊勢丹)のジュエリー売り場が改装オープンしました。伊勢丹のジュエリー売り場と聞くと1階をイメージする方が多いと思いますが、今回改装したのは4階のジュエリー売り場。1階は比較的買いやすいファッションジュエリー(アクセサリー)も多数品ぞろえしているのに対し、4階はガチンコの“宝飾”売り場で、高額ジュエリーが充実しています。新しくなったこの売り場のプレス説明会にお邪魔したところ、純粋に「スゴイ……」と絶句してしまうような仕掛けが盛りだくさんだったので、その驚きを余すところなくお伝えします!

驚きポイント1
 “至宝”が買えてしまう売り場

 百貨店各社では近年、訪日外国人客(インバウンド)と国内富裕層に支えられ、高額品(ラグジュアリーブランドやジュエリー、高級時計など)販売が好調です。一方で、かつて百貨店の屋台骨だった婦人服の売り上げは低迷が続いており、その落ち込みを好調な高額品や化粧品で補う、というのが百貨店業界全体の潮流となっています。単館売り上げ(グループ全体ではなく1店のみでの売り上げ)日本一の伊勢丹もその傾向は同様で、だからこそ、今回のジュエリー売り場改装にかける伊勢丹の意気込みは並々ならぬものがあります。

 プレス発表会では、宝飾担当の市毛奈緒MDが改装の概要を紹介していましたが、その冒頭部分を聞いて私はまずたまげました。「“至宝”から買いやすいアイコン商品まで品ぞろえする」とサラッと話していたのです。アイコン商品というのは「このブランドと言えばコレ」的な、比較的買い求めやすい価格の商品のことを指しているんだと思いますが、気になるのはその前。……“至宝”ですよ?私、14年間ファッション業界紙の記者をしていますが、“至宝”という単語を店頭取材で聞いたのは初めてでした(展覧会の取材などでは聞いたことがあったかもしれませんが)。ジュエリーや高級時計の専門記者ならばもしかしたら聞きなれた言葉かもしれません。しかし、プレス発表会には一般紙の経済部記者も参加していたので、私を含め、皆さん市毛MDの発する「しほう」という言葉が「至宝」だと理解するのにしばらく時間がかかり、会場に一瞬「…四方?…至宝か!」といった間が生まれていました(そのように私は感じた)。

 では一体どんな“至宝”があるのかというと、まず前提として、「1000万円超えのハイジュエリーを多数そろえている」そうです。改装前から4階にあった「カルティエ(CARTIER)」「ショパール(CHOPARD)」「ブシュロン(BOUCHERON)」などと共に、「レポシ(REPOSSI)」「ウェレンドルフ(WELLENDORF)」といったジュエラーを今回新たに売り場に導入していましたが、各ブランドにしっかりハイジュエリーを品ぞろえするよう頼んでいるそう。そう書くと「なんだ、そんなことか」と思われてしまいそうですが、商品点数が世界でも限られている中、高額商品を確保するということは、ジュエラーの本店や他の百貨店との綱引きもあって非常に大変なのです。それを集めてきているというところに、単館売り上げ日本一に裏打ちされる伊勢丹のパワーを感じます。

 しかし、単に1000万円超えの商品というだけでは“至宝”とは呼びづらいですよね。「1000万円なんて、有り余る資産に対してどうってことない金額よ」というような富裕層も少なくないでしょうし、やはり“至宝”というからには、私個人の勝手な基準として「世の中に二つとなく、他の誰も持っていない」級のアイテムであってほしい。そんな商品が果たしてあるのか……!?というわけで、驚きポイント2に続きます。

驚きポイント2
 世界中を飛び回り、富裕層の「欲しい」に応える

 今回の改装では、ジュエリー売り場の入り口そばに、“アテンダントカウンター”というサービスデスクが設置されました。専任スタッフが常駐し、「彼女にプロポーズしたいんだけど、どんな指輪を渡したら喜ぶだろうか」「銀婚式に妻に記念となるジュエリーを贈りたい」といったロマンチックな相談に乗ってくれるそうです。すてきな話ですね。しかし同デスクでは、ロマンチックを飛び越えて「……そ、壮大過ぎる!!」と言いたくなるような相談にも乗ってくれるそうです。

 壮大過ぎる相談に乗ってくれるサービス、その名も“トレジャーハント(宝探し)”です。「某人気海賊漫画か!」と心の中で突っ込みを入れましたが、あの漫画並み、いやそれ以上にスケールは大きい。富裕層が繰り出す突拍子もない「アレが欲しい」に応えて、スタッフが世界を股にかけて要望に沿ったアイテムを探してくるんだそうです。実は、改装前から富裕層の要望に応じて同様のサービスは行っていたそうで、今までどんな要望が寄せられたのかを聞いてみました。個人情報なので詳しくは書けませんが、正直「そんなモノを欲しいと考える人がこの世にいるとは想像したことすらなかった」という内容。あれは確かに、いくらお金があっても、「どこで買えるのか」「誰に頼めば買えるのか」の見当が付かず、手に入れるのが難しいと思います。万人が欲しいと思うようなモノではなかった(と私は思う)ですが、依頼主にとってはまさに世界に二つとない“至宝”でしょう。

 “トレジャーハント”サービスの話を聞いて、「それって百貨店の外商サービスやクレジットカードの富裕層向けサービスでもやっていることだよね」と考える方もいるかもしれません。鋭い。確かに、「アメリカンエクスプレス(AMERICAN EXPRESS)」のブラックカード保持者などには、そういったサービスが提供されているのでしょうが、伊勢丹で驚くべきは、この“トレジャーハント”サービスを外商顧客やハウスカードの優良会員以外にも開放している点。極論、伊勢丹に足を踏み入れるのが初めてのお客さまでも、カウンターに行けば相談に乗ってくれます。もちろん冷やかしはダメですよ。

 百貨店、特に歴史の古い百貨店は、資産家を代々外商営業で囲い込み、一般客からは見えづらいところで富裕層ビジネスを行ってきました。しかし、伊勢丹に来るお金持ちはそういった旧来型の富裕層でなく、「まだリタイアしていない若年の新富裕層」(市毛MD)が多いんだとか。IT長者や人気ユーチューバー、仮装通貨で財を成した“億り人”などが当てはまるんだと思いますが、それもフレッシュなモードの館である伊勢丹を象徴していますよね。新富裕層は旧来型の外商営業にはなじまないので、“トレジャーハント”もそれ以外のアテンドサービスも、外商顧客以外に開放しているそうです。

 “トレジャーハント”はジュエリー売り場にカウンターがありますが、もちろんジュエリー以外も希望すれば探してきてくれます。「こういった内容のパーティーに行くので、それにふさわしいトータルコーディネートをそろえておいて」といった要望も想定しているとのこと。三越伊勢丹は2018年秋に改装オープンした三越日本橋本店を皮切りに、パーソナル接客を強化していますが、それの富裕層版のサービスデスクが4階ジュエリー売り場にある、という認識が正しいのかもしれません。

驚きポイント3
 気分はアラビアンナイト!?
 特別なおもてなしサロン

 “至宝”に関して、いよいよ真打ち登場となるお話がこちらです。今回のジュエリー売り場改装の注目点の一つは、売り場内にクローズドのサロンを設けたことです。「ジュエラーの本店にも入荷がないような、高額過ぎて店頭には出せない数千万円級の商品」(市毛MD)を富裕層に紹介するための特別なおもてなし空間です。

 こちらのサロンは売り場奥にありますが、一見、そこにサロンがあるとは気付かないような作り。読み取り機など何も付いていない大理石の壁に市毛MDがカードキーをさっとかざすと、同じく大理石でできた壁が左右に開きます。もはや気分は「開けゴマ!」のアラビアンナイト。扉の奥には「ミノッティ(MINOTTI)」の大きなソファが置かれたぜいたくな空間が広がり、さらに奥にはバーカウンターまで。壁には「京都の金糸織物(おそらく西陣織)で作った」という壁紙が使われていました。

 サロンに並ぶガラスケースに鎮座していたのは、「グラフ(GRAFF)」のダイヤモンドジュエリー。婚約指輪の憧れブランドとしても有名ですが、もちろん、ここに並ぶのはケタ外れのスペシャル商品です。高級一粒チョコ大(!)のダイヤモンドが付いた指輪やネックレスがうやうやしく並んでおり、その輝きに目がクラクラしましたが、価格を見て今度は頭がクラクラしました。私が確認した中で最も高額だったのは、3億7450万円の指輪。価格表示のゼロが多すぎて、数え間違いかと思ってしまいました。ボツワナ産の1109カラットのダイヤモンドを使っているそうですが、そもそも、そんなカラット数この世に存在するんですね。これぞまさに“至宝”と呼ぶにふさわしい逸品です。

 サロンには常に「グラフ」の商品があるというわけではなく、その時々によって商品は変わるそうです。また、“トレジャーハント”と同様に、要望を伝えればそれに沿ったジュエリーをサロンに集めてきてくれます。そしてこれも“トレジャーハント”と同様、外商顧客ではなくてもこちらのサロンでゆったりと商品を見ることは可能だそうです。もちろん、冷やかしはダメですよ。

モデレートゾーンの商品もあるので富裕層以外もご安心を

 以上が私がプレス発表会で聞いた新ジュエリー売り場の概要です。伊勢丹を含め、百貨店関係者からは「富裕層ビジネスとはこういうものであって、別段珍しい話ではない」という声も出そうですが、庶民代表としては驚きだらけの会見でした。「自分で買えそうな商品が何一つとしてない」なんて思う方も多いかもしれません。私も途中までそう思っていました。しかし、富裕層だけでなく「高感度な若年層も含め、全方位でお客さまを取り込む」(市毛MD)ために、モデレートゾーンのデザイナーズジュエリーも多数集積しているのでご安心ください。私にも買える商品がちゃんとありましたよ。

 話の方向性はやや変わりますが、ジュエリー売り場を訪れる客にはいろんなニーズがあるんだな、面白いなとしみじみと思ったのが、ルース(裸石)のコーナーです。指輪やネックレスなどにセッティングされていない、宝石そのもののことを業界用語でルースと呼ぶんですが、正直、ファッション脳に支配されていると「身に着けられない宝石を買ってどうするの?」と思いますよね。でも、「デザイン価値よりも、資産価値としてルースを求めるお客さま」(市毛MD)が実は少なくないんだそう。そんなお金持ちのために、今回の改装ではルースの集積コーナーを新設していました。同様に、資産として金(マネーでなくゴールド)を求める富裕層のために、金の量り売りコーナーも新設していました。金でできた新幹線の置き物や小判など、ザ・お金持ち的な商品が展示してあり、見るだけでも楽しいのでおすすめです。

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