2020年春夏の東京のファッション・ウイーク、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」がいよいよ始まります。ですが、実は今シーズンは、東京のいくつかのデザイナーズブランドがショーや展示会のスケジュールを前倒しし、ニューヨークコレクションが始まる前の8月下旬や9月上旬に新作を発表していました。これまでも早めのスケジュールで発表するブランドはありましたが、今季はいっそう増えていた印象です。それらのブランドのショーや展示会を、2人の女性記者による対談形式で振り返ります。
五十君花実(以下、五十君):今シーズンの東京は、発表を前倒しするブランドがこれまで以上に増えましたね。みんな「今発表しておかないと、生地の作り込みや生産が間に合わない(注:春夏物は、一般的に秋冬物よりも生産のタイムスパンが短くなりがち)ので、前倒しした」と言っていました。ニューヨークやロンドン、ミラノ、パリといった海外のショーで出てきたものを見て、そこからトレンド分析して作って東京の展示会で見せる、みたいな手法は本当に過去のものになっていますね。トレンドを追うことよりも、ブランドらしさをシーズン毎にどうアップデートするかの方が重要です。
大杉真心(以下、大杉):そうですね。今までメンズ・コレクション時期にウィメンズのプレ・コレクションを出していたブランドも減りました。最近は年4回のメインとプレコレの体制(プレ・スプリング、春夏、プレ・フォール、秋冬)よりも、年2回のメインに集中して商品数を拡大するブランドが多い傾向ですよね。長い期間セールスもできて一石二鳥だと思います。さて、前倒しでショーをしたブランド群の中のトップバッターは「アキコアオキ(AKIKO AOKI)」でした。小規模のショーを撮影スタジオで開催したのですが、手作りの歪んだ鏡を無数に配置して、別次元に入り込んだような空気感が出せていて素敵でした。ウエアはブランドのアイデンティティーである制服をもとに、 東洋の文化を合わせてドレスに昇華するという内容でしたが、コレクションピースとして強いドレスがありながらも、実際に一般の女性たちが日常着として着用できるワンピースやトレンチコートもあって間口が広がったように思います。メイクアップブランドの「RMK」協力のメイクも透明感があって麗しかったです。また、10月11日にショーをした小高真理さんによる「マラミュート(MALAMUTE)」は、雨降る京都造形芸術大学の外苑前キャンパスが会場でした。これまでは映画や小説から着想を得ることが多かったですが、今回はデザイナーの日常の感覚が反映されていて、いつもと違ったアプローチが新鮮でした。それも “そわそわする” 環境問題に対して、「出来ることからやろう」と考え、カットロスを減らすことができる無縫製のニットも数型提案していて、東京のデザイナーズブランドからはあまり聞かない “サステイナビリティー”への考えが出ていたところもよかったと思います。またグリーンやナチュラルカラーを使った“ネイチャー フィーリング”を感じさせるカラーパレットもグローバルトレンドともマッチしていたと感じます。
五十君:私も「アキコアオキ」は展示会で見ましたが、強いピースもありつつ、ニットやカットソートップで着やすそうな、言い換えると売りやすそうなアイテムもしっかりそろえていたのが好印象でした。前シーズンからセールスエージェントが付いたことも影響しているのか、MD面もどんどん前進していますね。ランウエイショーでは「エズミ(EZUMI)」もありましたね。JALの新制服を手掛けるということもあり、久々のショーで話題性もあったけど、どう思いました?バイヤーさんがほしいと感じるだろうなと思うアイテムが多かった半面、ちょっと何かに似過ぎているような感じも受けましたが。
大杉:そうですね。あのダイナミックなハイブリッドは、どうしても既視感が否めません。海外を見据えているのであれば、もっと「エズミ」らしさを全面に出してもすてきなショーになるんじゃないかな、と私も思いました。会場も広くて、著名な女優やインフルエンサー、編集長が多く集まっていて、注目度の高さを感じたので期待している人は多いと思います。
五十君:大杉さんはもうロンドンコレクションに旅立っていたから見ていませんが、「サポートサーフェス(SUPPORT SURFACE)」も9月にショーをしていました。今シーズンも研壁(宣男)さんらしいカッティングで、安心して見られるショーでした。注目ポイントは足元が全部スニーカーだったこと。今はコラボでスニーカーを出すブランドが多いけど、ここのブランドは紳士靴の工場で、1つ1つ職人がソールから作っているそうです。そういう“いぶし銀”な感じはこのブランドならでは。さて。展示会で見たブランドはどうでした?
大杉:竹内美彩さんによる「フォトコピュー(PHOTOCOPIEU)」は、2シーズン目とは思えない完成度の高さですね。ゆるやかに誇張した肩シルエットなど強さが程よくて、シルクやオーガニックコットンなど天然素材を使用しているところも現在女性たちに寄り添っています。今季はロックT風のプリントも登場していましたが遊び心もあって、ほかのアイテムとのギャップにひかれました。「コトナ(KOTONA)」は、シーズンを重ねるごとに洗練されていっています。レイヤード風のパイル地スリーブのジャケットなど、新たなテーラードの挑戦は新鮮でした。「ミスターイット(MISTER IT.)」はシャツを中心にストイックに作ったコレクションでした。毎シーズン、しっかりと1着1着にストーリーが込められていて面白いのですが、若干マニアックな方向に加速しているようにも感じました。
五十君:私は「ニアーニッポン(NEAR.NIPPON)」「サカヨリ(SAKAYORI)」「ロキト(LOKTHO)」も面白かったです。「ニアーニッポン」では「ずっと取っておきたいと思うスペシャルな服を作ることがエコ」という話になったのが印象的。このブランドは、大人の女性が職場に着ていくことができて、でも色合いや素材がほかとはちょっと違う、というデザインが本当に上手です。あと、「来年は7月下旬からの東京五輪でホテル代が高騰するから、地方のバイヤーさんのためにも展示会はそれまでに終わらせる」とも話していました。こういう風に考えているブランド、他にもあるかもしれませんね。「サカヨリ」は、オパール加工やトーションレースで見せる凝った服作りがパワフルでした。日常着ラインの“ジードット(G.)”ができたことで、「サカヨリ」ではより強いものを出せているのかも。渋谷パルコにオープンする初の直営店も楽しみです。オリジナル素材の作り込みを好んできた「ロキト」は、インポート素材も取り入れるようになったことでエレガントな表情も強まり、ブランドの幅が広がりました。
大杉:ショーや展示会ではなく、ポップアップイベントでも面白い発見がありました。「ミヤオ(MIYAO)」の宮尾史郎デザイナーはニューヨークに住んでいたときに出会ったというイラストレーターの山本周司さんとのコラボレーションショップを東京と大阪で開いたんですが、それが楽しくて。古代エジプトの神話にも出てくるスカラベ(フンコロガシ)のかわいいイラストのアップリケをたくさん付けたチュールドレスなどを展示していました。スカラベは丸いフンを運ぶから、地球を運ぶ、みたいなイメージも感じます。そこに世界平和みたいなメッセージもあったんじゃないかな。イラストを使ったTシャツやバッグ、ステッカーから、コラボレーションのアート作品まで販売していて、“すぐ欲しい!”がかなういい企画でした。
五十君:本格的な東コレは10月14日からですね。今回からスポンサー変わって話題ですが、大杉さん的に注目ポイントは?
大杉:初めての「楽天 ファッション ウィーク東京」で、楽天のお手並み拝見と言いたいところなのですが、確かアマゾンがスポンサーに就いた最初の東コレは、まだ何ができるのか模索している状態だったので、今回の楽天もまだ100%の変化は起こせないのではないかと思います。XジャパンのYOSHIKIさんが久しぶりに着物ブランド「ヨシキモノ(YOSHIKIMONO)」のショーを行いますが、YOSHIKIは楽天モバイルのイメージキャラクターなので、きっと楽天と何かスペシャルなことをやるのではないか!と期待しています。また、世界から注目が集まる「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」や、ニューヨークを拠点にする赤坂公三郎さんの「コウザブロウ(KOZABURO)」、川西遼平さんのメンズブランド「ランドロード ニューヨーク(LANDLORD NEW YORK)」の合同ショーも目玉になると思っています。ユナイテッドアローズによる日本とアフリカの次世代デザイナーを支援するプログラムでは、今年のLVMHプライズで優勝した南アフリカ出身の「テーベ マググ(THEBE MAGUGU)」も来日ショーを行うので話題になりそうですね。そして、運営側の日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)も新たに就任した30代の今城薫ディレクターによる新体制。前シーズン、今城ディレクターが「アフリカを巻き込みたい」と話していたんですが、それをすぐに実現していて驚きました。