三陽商会は29日、2020年春夏から販売開始するスペイン発のサステナブルブランド「エコアルフ(ECOALF)」の事業戦略説明会を開いた。来春に東京・渋谷に旗艦店となる1号店を出店するのを皮切りに、初年度は20店舗を出店し、5年で売り上げ60億円を目指す。
同社は「エコアルフ」をグローバル展開するエコアルフ リサイクルド ファブリックス(以下、エコアルフ社)と共に合弁会社エコアルフ・ジャパンを9月に設立した。日本での初シーズンとなる20年春夏はメンズ・ウィメンズアパレルとシューズ・バッグを輸入販売し、将来的にはキッズ商材への拡大も計画する。「将来的には日本国内で調達した素材で、日本企画の商品を作る仕組みを整えていきたい」と慎正宗エコアルフ・ジャパン社長。商品はカジュアルテイストが中心で、価格はアウター類で2万~3万円、Tシャツやスエットなどで1万円前後。
エコアルフ社は09年創業。ペットボトルやタイヤなどの廃棄ゴミから作るリサイクルファブリックを研究開発し、それらを使用したアパレルや雑貨などを製造・販売する。「アップサイクリング・オーシャン」を掲げて、各地の漁師の協力を得て、漁網にかかった海洋ゴミを回収・分別・再生し、製品化するプロジェクトを進めている。現在はスペインをはじめドイツ、オーストリアなど欧米6カ国に直営店と卸事業を展開し、19年12月期の売上高は2000万ユーロ(日本円で約25億円)を予想する。
慎社長は、「新しい自然原料を使わなくても、服を作ることができるという考え方が新しい。ファッションという限られた範囲にとどまらず、日本人の消費行動そのものを変えられるよう、他とは圧倒的に差別化されたブランドにしたい」と期待を寄せる。この日来日した、エコアルフ社のハビエル・ゴジェネーチェ(Javier Goyeneche)創業者に、ブランドの哲学から日本事業の今後の展望について聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):まず、「エコアルフ」の哲学について教えて下さい。
ハビエル・ゴジェネーチェ・エコアルフ創業者:“Because there is no planet B”だ。僕たちは、2つとないこの地球に生きている。実は雑誌を読んでいるとき、偶然思いついたスローガンなんだけど(笑)、力強いメッセージだろう?このスローガンに、「エコアルフ」の全てが詰まっている。実は以前にもアパレル企業を経営していたんだけれど、毎年同じようなことが繰り返しのファッションにはもう飽き飽きして、2008年に売却したんだ。「エコアルフ」で今、僕たちがやっているのは全く新しいこと。ファッション業界だけじゃなく、世界中の人々のマインドを変えることにつながっていくと考えているよ。
WWD:商品はシンプルなものが多いですね。
ハビエル:トレンドファッションの寿命は5カ月程度と考えている。飽きずに、できるだけ長く使ってもらいたいからね。
WWD:独特の色味も特徴的ですね。
ハビエル:天然素材で作ったテキスタイルの染色には大量の水を消費する。これは大きな問題だ。君たちが今着ているパーカーの色を出すためにも、何リットルもの水を消費しているはず。だが、海に眠るゴミを使えば、水は一切使わなくて済むんだ。僕たちのリサイクルファブリックは、原料となる廃棄物を色ごとに分別して分解し、糸にして再生ポリエステルやナイロンを作るから、商品が原料そのものの色に仕上がる。現在、スペインでは3000人以上の漁師たちが僕たちに協力してくれていて、漁網にかかったゴミを回収してくれているよ。
WWD:日本では機能性の高い衣料がどんどん増えています。
ハビエル:「エコアルフ」でも2時間雨に打たれても大丈夫な商品も存在するし、もっと高い機能を持たせるのは、実はカンタンだ。でも大事なのはそこじゃない。高機能なものほど、ケミカルな処理を何層にも重ねて出来上がっている。それをやることは、僕たちの哲学に反している。今、僕の情熱のベクトルは、全く水を使わず生産できるリサイクルコットンの研究開発に向いているよ。
WWD:日本の消費者は、品質に対する目が厳しいと言われている。
ハビエル:そうだね。でも、同じく目が肥えているといわれているドイツでも、私たちの商品がとてもよく受け入れられている。19年12月期の売上高は前期比6倍に伸びる見込みだ。商品の素材で言えば、ナイロンやポリエステル素材に関しては、すでに非再生素材のものと遜色ないクオリティーを実現できている。ペットボトルから再生したスニーカーは大人気だ。一方で、綿に関してはもう一歩だね。Tシャツやスエットみたいなカジュアルなアイテムには全く問題ないレベルだけど、繊細なテイストを求めると、耐久性が足りなくなってしまうんだ。
WWD:日本では大量のアパレルが廃棄されています。生産量の半分以上が廃棄されていると分析しているデータもあります。
ハビエル:驚いたよ。在庫に対する意識も、私たちは他とは違う。全てのアイテム品番の内、在庫をストックしておくのは売れ筋の20%だけで、あとは売り切れ御免だ。売り上げを求めて在庫を積むようなことはしないし、“ブラックフライデー”(米国の11月の一大セールイベント)にも参加しない。15年から販売しているフリースは、最近、家庭洗濯をする際にマイクロプラスチックゴミを排出してしまうことが分かったんだ。このフリースはトップ5に入る売れ筋品番だったんだけど、もう作るのをやめる。ビジネスとしては賢くないかもしれないけれど、目先の売上よりも、大事にしなきゃいけないのは自分たちの哲学なんだ。
WWD:地球上からゴミがなくなれば、「エコアルフ」のビジネスも成り立たなくなる?
ハビエル:そうなったらすごいことだ!引退してサーフィンでもするよ(笑)。でも残念ながら、それは現実的じゃない。人口が減り続けている日本にいると分からないかもしれないけど、例えばインドでは毎年6500万人も増えていて、僕の母国のスペインが、毎年新しく生まれてるようなものなんだ。人が増えれば、ゴミも増えるのは必然。だから皆、今すぐにでもアクションを起こさなきゃいけないんだ。
WWD:三陽商会と日本で目指すゴールは?
ハビエル:まずは、僕たちのビジョンがクールだという感覚を根付かせたいね。日本は伝統的なクラフトマンシップを大事にする文化がある。渋谷の店は、「エコアルフ」の哲学と、日本の伝統が融合したお店にするって決めているんだ。僕たちのやっていることが今までにないことなんだから、今までにない空間を作るのさ。グローバルでは、作って、売って、再利用するというサイクルを、完全にクローズなものにすることを目指していく。自分たちが売った商品を100%回収するためには、もっと店を作って、回収のためのハブを作っていかなくてはいけないね。