デザイナーの田中文江は、自身の名前を冠したファッションブランド「フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)」を2020年春夏シーズンにスタートさせる。これまで手掛けてきたウィメンズブランドの「ザ・ダラス(THE DALLAS)」は現在店頭で販売中の2019-20年秋冬をもって終了する。
前身「ザ・ダラス」では15〜19年の4年間で、女性の気分に寄り添うエキゾチックな色柄使いや、クラフト感のあるレザーやメタルパーツを使ったアクセサリーが人気となり、東京でのファッションショーやプレゼンテーションでも着実にファンを獲得してきた。日本では有力セレクトショップを含む約60アカウント での取り扱いがあるが、海外ビジネスでは苦戦を強いられてきた。新ブランド「フミエ タナカ」では来シーズン(20-21秋冬)にメンズも発表する。先日「東京ファッションアワード 2020(TOKYO FASHION AWARD 2020)」を受賞したことで、受賞特典としてピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)とパリ・メンズ・ファッション・ウイークでの海外展示会支援を受けることになった。メンズから海外での卸先を開拓する計画だ。田中に、新ブランドでウィメンズだけでなくメンズもスタートする理由や今後の目標を聞いた。
WWD:「フミエ タナカ」をスタートさせる理由は?
田中文江デザイナー(以下、田中):「ザ・ダラス」のラストコレクションとなった19-20年秋冬の制作時に、一つのブランドとして完成したように感じました。モノづくりに対して真剣に取り組んでいることはスタート当初から変わりませんが、もう少し自然体な自分らしさを出してもいいのではないかと思うようになったんです。自分のクリエイションを「ザ・ダラス」のフィルターを通して出していくことが、“ブランド名を盾にしている”ような気がして、違和感を覚えるようになっていました。自分の名前を出すことで責任の大きさも変わってきますし、ちゃんと個を出して面白いことを発信していけると思いました。また、「ザ・ダラス」という名前はとても気に入っていたのですが、海外に出たときに“日本ブランドなのにアメリカの地名をつけている意味”を問われてしまうこともありシンプルにしたいと考えたのも理由の一つです。
WWD:ブランドロゴは“FUMIE=TANAKA”と名前の間にイコールが入るのはなぜ?
田中:最初は「フミエ」という案もあったのですが、このブランドは私1人ではなく夫と2人で作り上げたブランド。フミエとタナカは一緒という意味があり、互いの覚悟でもあると思います。
“特別な日の服”よりも
“毎日着たい服”の強化
WWD:ブランド名を改称するのではなく、新ブランドとして再出発する。これまでの「ザ・ダラス」と「フミエ タナカ」の違いは?
田中:今までも全力で服作りをしてきたので、これからも洋服に対する考え方は変わることはありません。「ザ・ダラス」でやってきたことが間違いだったとは感じていないので、大きな方向転換はないと思います。人気だった葉っぱのモチーフのアクセサリーや革小物、メンズらしいメタルパーツ使いなども継続したいと思っています。でも、一つ挙げるとしたら「フミエ タナカ」では“毎日着たい服”をしっかり打ち出していきます。「ザ・ダラス」の商品は “特別な日の服”とよくお客さまから言っていただけることが多かったのですが、これからはもっと日常的にコーディネートに取り入れていただけるような服を作りたい。
WWD:「フミエ タナカ」デビューコレクションとなる20年春夏で“ヌード”をテーマにした理由は?
田中:裸という意味ですが、ブランドを1からスタートさせるのに自分をさらけ出すという考えです。それに、単純に今私が着たいものがベージュや自然のイメージということもありデザイン的にもふさわしいと思いました。一方でヌードというと、女性のセクシーなイメージもあっていろんな意味が込められています。
WWD:20-21年秋冬からメンズをスタートさせる予定だが、なぜ?
田中:前回のショー(19-20年秋冬)の後にルックを客観的に見て、「ここに男性像が入れば表現が深まるのではないか」と感じたことや、男性バイヤーやお客さまから「この服のメンズが欲しい」と言っていただけることがあり、“メンズを作りたい”という思いが高まっていました。私は「ザ・ダラス」を始める前にもともとメンズブランドでの経験があったので、初めてメンズをデザインするわけではないのですが、昨今女性デザイナーがメンズをスタートさせるという話はあまり聞かないので挑戦してみたいという思いもありました。
WWD:「フミエ タナカ」のメンズのイメージは?
田中:私が知るおしゃれが好きな男性は、いろんなファッションを試した後1周回って、結局自分の居心地のいいスタイルを見つけています。そういう人たちが着るファッションを作りたいと思っています。ウィメンズの場合はトレンドやその時の気分によってスタイルの変化が早いですが、男性は“長く着られるもの”を探しているように思えます。女性名のタグが付いた洋服を男性が着ることは勇気がいることだとは思いますが、素材にこだわりながら、トレンドを強く意識しない安心できる“いいもの”を作っていきたいですね。
“日本には素敵なウィメンズブランド
があるのに海外ビジネスを広げる
支援体制がないのはなぜ?”
WWD:東京ファッションアワードを受賞したが、応募した理由は?
田中:アワードを受賞させていただいたことは本当に光栄なのですが、賞をいただくということよりも、受賞特典である海外での展示会発表のサポートでしっかり海外でのビジネスを開拓したいという思いがありました。これまでも「ザ・ダラス」で海外を見据えていましたが、ビジネスに結びつけることの難しさを痛感していて、もしこのアワードの支援がウィメンズ・コレクションの時期を対象にしていたら、もっと前に応募していたと思います。今回はメンズのスタートに合わせてエントリーしました。
WWD:海外で苦戦した理由は?
田中:まず有力なショールームの方に洋服を見てもらいたいと何度もアプローチをしましたが、言葉の壁もありビジネスにつなげることができませんでした。簡単な言葉で説明はできるのですが、通訳がいなかったということもあり深い話が一切できなかった。相手は本気のビジネスで時間をとっているのに、どうしたらいいのか分からず対応力が欠けていました。現在も海外卸先は決まっておらず、このアワードの受賞をきっかけに行動を起こして、今回はしっかりと取引先を獲得したいと思っています。
WWD:海外ではウィメンズも一緒に見せるのか?
田中:展示会はピッティ(・イマージネ・ウオモ)とパリ・メンズ・ファッション・ウイークで開かれるため、メンズを中心にして、少しだけウィメンズも見せられたらと考えています。女性の作るメンズ服は海外でどう評価されるのか挑戦したいという気持ちがありますが、本音を言えばウィメンズでもチャレンジしたい複雑な思いもあります。日本には素敵なウィメンズブランドがあり、女性デザイナーもたくさんいますが、海外に出て行くためのサポート体制がありません。それがずっと疑問でもったいないと感じていました。あったら、すごく夢のあることだし、もっと市場も活気づくと思います。
WWD:今後の目標は?
田中:まずこの新ブランドでメンズとウィメンズの両方のイメージをしっかり確立することです。次の秋冬では男性のお客さまに認知してもらえるようすることが目標。また「ザ・ダラス」ではできなかったような異業種との取り組みも行なっていきたいと思っています。実は先日、プロバスケットボールチームの川崎ブレイブサンダースを応援するチアリーダーたちのユニホームのデザインを担当しました。9月から着用されていて、多くの人に「これまでなかったアイデアだね」と言っていただけて嬉しかった。本業のファッションもしっかりやりながらも、美容や飲食にも興味があるので、一つ一つできることに挑戦していきたいと思っています。そして、社内のチーム体制をしっかりと整えたいという目標もあります。今のスタッフは基本的に私と夫の2人で、アルバイトさん1人と営業さん1人に協力いただいているところ。ずっと人手不足で、もう一人自分がいたら……と思うこともよくあります(笑)。特に今は生産管理の経験者を募集中で、行動力がある方と一緒に働きたいです。