「WWDビューティ」11月7日号では、異業種企業のビューティ参入を特集しました。2005年に改正薬事法施行により市場参入の規制緩和が行われてもうすぐ15年。これまでにもさまざまな企業がビューティ市場に進出しているため、今さら?と思うかもしれません。今特集では原料生産を行う中で自社ブランド立ち上げに至ったり、新たな顧客獲得のためにビューティに着目したりといった大手企業を中心に取り上げましたが、近年は異業種を手掛けるスタートアップ企業からも目立ちます。
ビューティ参入は
大手から個人へ変化
その変化をいち早く察知しているのが、化粧品製造を手掛けるOEM企業です。1999年に創業し、異業種参入企業と個人の起業家のブランドビジネス立ち上げを支援してきたサティス製薬は、「2000年頃と比べると相談件数は100倍以上増えている。一時は大企業の金余りの運用ターゲットとして、化粧品ビジネスに白羽の矢が立てられていたが、ここ3年ほどは個人やスモールチームのスタートアップがとても増えている」と語ります。その要因として、化粧品ブランドの立ち上げコストが下がったことや、ウェブサイトやSNSなどによる、D2Cのインフラが増えていることが挙げられそうです。
スタートアップ企業がビューティ市場に参入し、D2C戦略で成功を収めた近年の代表例といえば、ITベンチャーや飲食店の創業を経験した野口卓也社長が2013年に立ち上げた「バルクオム(BULK HOMME)」が挙げられるでしょう。洗練された世界観と巧みなマーケティングで“メンズ×美容”をいち早く体現して人気ブランドへと成長し、近年ではホテルアメニティー事業にも本格参入するなど、事業拡大にも力を入れています。米国発の「グロシエ(GLOSSIER)」は、ミレニアル世代からカルト的な人気を誇り、LAとNYにある旗艦店にも多くのファンが押し寄せています。異業種からというわけではありませんが、ブログを起点にブランドがスタートしてインスタグラムなどのSNSでの口コミで人気が広がり成功を収めており、今後もD2Cを視野に入れて立ち上げるブランドは増えていくでしょう。
ブランド数増加により
生き残りも熾烈に
しかし、新規参入の増加はそのままブランド数の増加につながるため、勝ち残るのは至難の技です。以前取材でお会いしたアパレル企業の方からは「機能や結果が重視される製品やサービスは、プロモーションが洗練されていないことがある。その傾向が強い市場には、世界観や洗練されたコンセプトを持ち込むことで一定の注目を浴びることができるが、化粧品は各社が品質と世界観をセットでマーケティングを行っているので入り込む隙がなく、新参者にはハードルが高く感じる」とビューティ業界参入の難しさを語ってくれました。金脈を探すフロンティア精神だけでは生き残れないビューティ業界。参入し生き残るにはどうすべきなのでしょうか。
その成功のヒントをつかむべく、今回の特集ではすでにビューティ市場に参入して一定の成果を収めている大手企業を中心に、成功の要因や現在感じている課題などを聞いています。例えば、キャラクタービジネスにコスメを掛け合わせたバンダイは、ターゲット層に合わせて製品の価格帯と販売チャネルを使い分けて成功を収めていますが、事業立ち上げ当初から「キャラクターだけに頼らない、化粧品の機能でも認められる製品作り」を肝としているそうです。特集で取材した各社に共通して見られるのは、自社の得意とするジャンルを最大限に生かすことと、製品開発やマーケティングも本業のメイン消費者にリンクさせつつ新規開拓を狙う緻密な戦略を立てていることです。
新規参入企業は
何を重視すべきなのか
新規参入で必要なこととは何でしょうか。サティス製薬は、「委託する製造会社の選択」「ブランドの思想(コンセプト)と顧客体験(プロダクト)を一致させ、その関係をストーリー化すること」「KPIマネジメントに徹すること」の3つをあげます。また、ユーザーが共感するコンセプトは欠かせないものの、それに製品が伴わないとビジネスにはならないため、コンセプト開発とプロダクト開発はセットで考え、プロモーションはコンセプトとプロダクトをストーリーで繋ぐための施策として考えることが大切です。「初期段階でSKUを複数にするのはリスクがあるので、まず1SKUに絞ってスタートさせる」(サティス製薬)といった戦略も重要です。
群雄割拠のビューティ市場はヒラメキや個人の知名度だけで生き残れる世界ではありませんが、異業種だからこその視点が新しい風をもたらし、業界を盛り上げることがあるはずです。「こんなコンセプト&プロダクトは今までなかった!」と叫ばずにはいられない、そんな企業やブランドが登場する日を毎日楽しみに待っています。