アディダス(ADIDAS)はこのほど、100%リサイクル可能なランニングシューズ“フューチャークラフト.ループ(FUTURECRAFT.LOOP)”の “第2世代”を発表した。 “第1世代”は今年4月に発表し、同社が“クリエイター”と呼ぶ世界各国の200人に配って、それらを回収・リサイクルしたものを“第2世代”と呼ぶ。外見が真っ白だった“第1世代”と比べて、“第2世代”は少し青くなって戻ってきた。リサイクルを終えて見えた課題とは?2021年春夏に予定している一般販売に向けての戦略を含めて、同社のジェームス・カーンズ(James Carnes)グローバル ブランド戦略バイスプレジデントに話を聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):4月にニューヨークで発表会を開き、“リーディング クリエイター”と呼ぶ200人のランナーやジャーナリスト、インフルエンサーを招いて製品を配った。その後5月10日までに回収したと聞く。そもそも全員から回収はできたのか?
ジェームス・カーンズ=グローバル ブランド戦略バイスプレジデン(以下、カーンズ):実は全員ではない。コレクターアイテムとして手元に置きたいと思った人や、履き続けたいと思った人もいたからだ。ただしこの結果は予想していたことなので、全員からは返却がなくても次の生産にインパクトが出ないよう、社内でもサンプルを配って同様のテストを行っていた。
WWD:回収・再生産する過程で、想定外だったことは?
カーンズ:予期しなかったことは、200人のクリエイターたちによる使われ方が多様だったこと。走り込んだ人もいれば、希少だからと履かないまま戻してきた人もいる。ジーンズに合わせて履いていたためはき口が青くなっているスニーカーもあった。
WWD:それにより変更を余儀なくされた技術もあるのか?
カーンズ:ある。むしろ、予期しない使い方が出てこないとダメだった。使い方に合わせた生産工程の見直しや新しい技術開発をそこから行うからだ。例えば石などが入り込み非常に汚れて戻ってきたものもあった。水を極力使わずにそれを洗浄するにはどうしたらよいか、リサイクル後の素材に汚染物質が残らないようにするためにはどうしたらよいか、など予期しなかったことがプロセスやテクノロジーを作り上げてゆく。
WWD:ジェネレーション1で使ったTPU(100%再利用可能な熱可塑性ポリウレタン)はジェネレーション2にどのくらい含有されているか?
カーンズ:ジェネレーション1のTPUを100%投入したが、テクノロジーの限界上他のTPUを混ぜている。現在のテクノロジーでは200足から200足を作ることはできないので、ここの精度は上げてゆく必要がある。つまり現時点では1足から新しい1足を作るまでにはいたっていないということだ。
WWD:“ジェネレーション2”はどうして青いのか?色はリサイクルプロセスに影響する?
カーンズ:“ジェネレーション1”の段階で青と赤を使ったアッパーはできていた。消費者に選択肢を提供できることがビジネス上重要となるため、さまざまな色を継続的に実験してゆく。リサイクルプロセスは、アウトプットする原材料の色とその濃淡に影響される。色についてはまだ学んでいる過程で、完全に理解するために懸命に取り組んでいる。
WWD:2021年には一般向け販売を予定している。ビジネスとして成立するためにクリアすべき課題とは?
カーンズ:3点ある。1点目は量産するための素材生産技術の拡大だ。TPUのヤーンの生産量を拡大するための技術や、接着剤を使用しない組み立てのプロセスの技術を向上させ、スケールアップする必要がある。2点目はどのような流通システムを作るか。購入した消費者をトラッキングして回収できるシステムが必要だ。3点目は回収拠点をしっかり設けること。リサイクルできる靴を作ってもそれが捨てられてしまっては意味がない。戻ってくる場所を作ること、つまりリサイクルインフラが重要だ。そのためには行政との取り組みも必要になる。
WWD:販売チャネルはどうなる?
カーンズ:非常に重要なのは、商品が今どこにあるのかトラッキングすること。だから主要チャネルは直営オンラインとなる。メンバーシップ制「クリエイターズクラブ」を用意して登録していただき、オンラインで販売するプランを検討している。そうすることで関係性を維持し、フィードバックを得ることができる。どういう履き方をしたのか、なぜ返却しようと思ったのか、などについてだ。
WWD:サブスクリプション(定額制)モデルなど新しいビジネスモデルも考えられるか?
カーンズ:長期的にはサブスクリプションモデルも検討している。同じ素材を繰り返し使うことによって持続可能なループを完成させることに参加してもらい、消費者にもメリットを感じてもらいたい。
【エディターズ・チェック】
“フューチャークラフト.ループ”は、海洋プラスチック汚染問題をきっかけに開発を始め、10年の歳月をかけて今春“第1世代”が完成した。今回の発表では、「シューズからのリサイクル材料を用いて、アスリートの使用にも耐えうるパフォーマンスシューズを初めて作ることができた」点がポイントだ。2021年の一般販売に向けては、リサイクル技術の向上に加え、「消費者からいかに回収するか」が課題。スポーツを軸にした大小のコミュニティーを持つ点が同社の強みだから、それらや行政を巻き込んだ仕組み作りがポイントとなりそうだ。