社会が急激に変化する中、消費者の動向も以前とは変わってきている。百貨店が直面している苦難やECの隆盛など小売業界の動きを投資家はどう見ているのか、米投資銀行コーウェン・アンド・カンパニー(COWEN AND COMPANY)のジョン・カーナン(John Kernan)小売り・消費財担当マネジング・ディレクターに米「ソーシング・ジャーナル(SOURCING JOURNAL)」が話を聞いた。
ソーシング・ジャーナル(以下、SJ):アパレルブランドに投資する際のポイントは?
カーナン小売り・消費財担当マネジング・ディレクター(以下、カーナン):まず見るべきは経営陣だ。優れた経営陣も多いとはいえ、アパレル業界がここ3年で急激に進化していることを念頭に評価するべきだろう。次に見るべきは会社の成長性とブランド力だ。ほかには収益性を細かく見ていき、会社の潜在能力を確かめる。これらが最も重要なポイントだ。
SJ:基準がそれほどはっきりしているなら、なぜ企業価値の評価がバラバラなのか?
カーナン:アパレルやバッグなどのアクセサリー類は百貨店が重要な販売チャネルとなっているが、百貨店はとにかく在庫回転率が低い。ただでさえ資本効率が悪いところに、最近は年を追うごとにそれが悪化しているような状況だ。余剰在庫を大量に抱えてしまった場合は値下げせざるを得ず、キャッシュフローや資本利益率に悪影響を与える。例えば、ナイキ(NIKE)、アディダス(ADIDAS)、ルルレモン・アスレティカ(LULULEMON ATHLETICA INC.)や、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ティンバーランド(TIMBERLAND)」「ヴァンズ(VANS)」などのブランドを擁するVFコープ(VF CORP)は投資家から非常に高い企業価値があると見なされており、株価もそれにふさわしいものとなっている。一方で、そこまで高値で取引されていない中堅ブランドを見てみると、主要な販売チャネルが百貨店やアウトレットであることが多い。
SJ:最初から実店舗を持たないECブランドの場合は?
カーナン:ITの発展によってECが台頭し、アパレル業界に参入しやすくなったので、D2Cブランドが急激に増加した。しかし、利益を上げられているブランドはまだそれほど多くないだろう。D2Cブランドは顧客獲得(カスタマー・アクイジョン)コストが非常に多くかかるが、その分ブランドへの忠誠心が強い顧客が多く、着実にマーケットシェアを拡大している。最近の消費者は、「すぐに捨ててしまうような安い服を買いすぎて、クローゼットがパンパンだ。こんなにたくさん要らない」という考えになってきている。半額セールをすることが前提の大量生産モデルは通用しなくなるだろう。
SJ:最近は従来の小売店なども、顧客の忠誠心を得るべくメンバーズプログラムなどを改善している。それについてどう思うか。
カーナン:従来の小売店やブランドの多くは、「これを買えばさらに25%オフ」などのお得感を強調しているが、これは顧客の忠誠心を育てるには間違った方法だ。もっと誠実に本心からのアプローチをしなくてはならないし、値引きやポイントカードでは本物の忠誠心を得ることはできない。それはただのプロモーションだ。「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」などのラグジュアリーブランドを見ると分かりやすいが、信じられないほど高い値段を払ってでもその製品が欲しいという熱狂的な顧客がいる。そうした熱意こそが忠誠心で、それはお得なポイントカードでは獲得できないものだ。
SJ:5年後、投資指標はどうなっていると思うか。
カーナン:アパレル業界への参入が容易になったので、投資家は事業が継続する会社はどこかを見極めようとしているが、どうすればいいのか分からない状態だ。小売りで完全に予測できることなどないし、今後もそれは変わらないだろう。新たな形態のECやリセールが登場するとは思うが、それがどれほど続くかは分からない。投資家は収益構造がしっかりとした会社を探している。
SJ:伝統的な小売りやブランドの今後について。
カーナン:ブランドが今後も卸を必要とすることは間違いないだろう。しかし卸先である百貨店などは、在庫回転率を上げるなど何らかの方法でより効率よく運転資本を回し、持続可能な資本構造にする必要がある。これからも新しい業態がいろいろと登場するだろうし、小売りはいっそう進化していくと思う。ECの台頭によって小売業界は変化を余儀なくされ、消費者が期待するものも大きく変わった。そうした変化の波に対応するべく、どの企業も生まれ変わろうと模索しているところだ。