コロナ禍を受けてファッション消費が冷え込む中で、消費者の間で「本当に必要なものだけを買う」「賢く買う」といった傾向がいっそう加速している。有力ブランドやショップは改めて自らの個性や強みを考え、顧客やファンに提供できる価値を追求。在宅ワークが増加し、家の中と外の境界線がシームレスになったことで、キレイ目のリラックスウエアを推す声や、シーズンレスで着られる定番品を強化するといった声がMD面では目立ったが、「こんな今だからこそファッションのポジティブなパワーを打ち出したい」というメッセージも非常に多かった。ここでは、コロナ禍でも絶好調な「アメリ(AMERI)」や「ノーク(N.O.R.C)」といったD2Cブランドも含め、17ブランド・ショップの2021年春夏物を紹介する。(この記事はWWDジャパン12月14日号の記事に加筆しています)
【ファッションビル系&D2C】
リモート会議でも“映える”ブラウスや気分の上がる華やかなワンピースやセットアップなどの打ち出しが目立った。イエローを中心としたパステルトーンのきれい色は大本命だが、クリーンな白を打ち出すブランドも多かった。
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RIRANDTURE
リランドチュール/アルページュ
リランドチュール/アルページュ
20代後半向けのカジュアルスタイル。売れ筋のワンピースの新作はしわ加工の素材と細かいタックがポイント。デザイン性の高いブラウスにも注力する。“エアリーフリルブラウス” (1万4000円)は大きく波立ったようなカッティングと艶感ある素材でジーンズ合わせでオフ、スカートならオンに対応。家庭洗濯可能など「商品を選ぶメリット」も重要視する。インスタの「リール」で投稿したアイテムが売れ筋1位に浮上することもあるという。
REDYAZEL
レディアゼル/バーンデストローズジャパンリミテッド
レディアゼル/バーンデストローズジャパンリミテッド
2020-21年秋冬(11月末まで)の売上高は前年同期を上回っており、来春夏も大幅な成長を見込む。フリンジデザインが特徴のワンピース(1万1000円)など、独自性のあるデザインが支持を集めそうだ。リラックスシルエットのパンツとジャケットとのセットアップにも注力。「1つの大ヒット品番を狙うより、中〜小ヒットを多く作る」戦略で新規客獲得を狙う。猛暑が予想される夏はMDを3つに細分化、店頭の鮮度アップを図る。
LOUNIE
ルーニィ/アイア
ルーニィ/アイア
40周年企画として、イラストレーター佐伯ゆう子氏と協業したペイズリー柄のセットアップ(ブラウス1万8000円、スカート2万2000円)などを販売する。リモートワークを意識したニットやジャージー素材のトップスの仕入れは前シーズン比30%増。ベストとブラウスの組み合わせやポンチョも推す。「トレンド感と機能性ニーズのバランスがいい提案が重要」。ライブコマースで登場したアイテムをすぐチェックできる特設ページをEC上に作り、放送拠点は本部から各店舗に拡大中。
AMERI
アメリ/ビーストーン
アメリ/ビーストーン
“ユーラシア”をテーマに、オリエンタル柄やシノワズリ調ディテールをポイントにする。ペットボトル再生糸を使った生地を取り入れるなど、サステナビリティにも配慮した。「売れたものに依存していては飽きられる」として、定番人気だったバックプリーツのトレンチコートやシャーリングワンピースはやめ、新たにテーラードコートや刺しゅうのワンピースなどを企画。コートの上にニットベストを重ねるなど、レイヤード提案もカギ。写真のジャケットは1万7500円。
N.O.R.C
ノーク/クロスプラス
ノーク/クロスプラス
2020年秋冬にダブルフェースコートが大好評だったことを受け、21年春夏も軽いアウターを充実させる。家で過ごす時間が増えたからこそ、「外出の際に家着+αのアウターが求められる」として、ワンピースコートやポケッタブルトレンチコートなどをそろえる。ボトムスは今秋冬からパンツの流れがきているため、来春夏も「圧倒的にパンツ推し」。パンツに合わせるために、シャツやブラウス、アウターの丈にはバリエーションを持たせている。写真の羽織りは1万9000円(税込)。
DRESSTERIOR
ドレステリア/ワールド
ドレステリア/ワールド
30代以上向けのキレイ目スタイル。「これからは買う理由があるものしか選ばれない」という前提に立ち企画した一例が、ボリュームスリーブワンピース(2万6000円)。目を引くロイヤルパープルと、味のあるテンセル混のフィブリル素材が特徴。客の来店頻度減少を見込み、納期を前倒しするようMDを再設計し、商品の販売期間を長くする。新設した「ショッププレス」職は店頭販売とSNSを駆使したEC上の販促を兼務。
【セレクトショップ系】
コロナ禍でなかなか消費が戻ってこない中、“銘品”として打ち出しているようなベーシックアイテムに期待するという声が目立っている。ベーシック商品は「2020-21年秋冬の店頭でも反応がいい」というショップも。
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RAY BEAMS
レイ ビームス/ビームス
レイ ビームス/ビームス
「心地よさと洗練」をキーワードに、女性らしくエレガントな着こなしを提案。ウエストゴムのパンツやシアーなワンピース(写真のシアーシャツワンピはオリジナルで1万2000円)などの軽やかなアイテムや、程よく肌見せができる変形カットアウトのTシャツに、大ぶりアクセサリーやミュールでスパイスを加える。仕入れは各アイテムで2~3割減らしつつも、型数は維持。期末に一気にセールをするのではなく、シーズン中に数回に分けてプライスダウンを行う。
UNITED ARROWS
ユナイテッドアローズ/ユナイテッドアローズ
ユナイテッドアローズ/ユナイテッドアローズ
消費が冷え込む中、2021年春夏はクローゼットにない商品、オン・オフのシーンを超えて、ストレスなく着られる商品などが求められると分析。トップス、ボトムス共にカットソー素材などでリラックスして着られる商品に注力する。トレンドが辛口から甘めに変化していることを受け、フリルやギャザーのブラウスやワンピースは拡充。シーズンレス商品を増やすとともに、適量を追求してセールの極小化を目指す。写真のジャケットはオリジナルで6万円。
IENA
イエナ/ベイクルーズ グループ
イエナ/ベイクルーズ グループ
2021年でブランド設立30周年。「心地よくファッションを楽しんでほしい」という考えから、2021年春夏は色柄のミックスでポジティブなムードを発信する。ここ数シーズン、ジャケットを打ち出してきたが、在宅ワークをする30~40代といった中心客層に向け、21年春夏はジャケットを減らしてニットパンツやブラウスを増やす。現在、カーディガンやシャツなどの定番品が売れていることから、引き続き定番品の磨き上げに注力する。シャツで1万5000円前後。
ADAM ET ROPE
アダム エ ロペ/ジュン
アダム エ ロペ/ジュン
シンプルな中にほどよくトレンドを取り入れ、働く女性を中心に支持されている。「これまでもオン・オフ兼用できるものが人気だったが、コロナによりオン・オフの境目はさらに薄まった。“らしさ”を追求していきたい」とする。強化するのはジャケットスタイル。メンズライクなハウンドトゥースのダブルジャケット(3万6000円)にはイエローのベアトップ、スリット入りデニムスカートを合わせて女性らしく落とし込む。気温に連動する消費動向への対応として、カーディガン、べストなどの羽織りを強化する。
【ショッピングセンター系】
リモートワークの拡大で家の中と外のシーンの境界が曖昧になったことは、コロナ禍がファッションにもたらした大きな変化の1つ。各社リラックスした着心地ながら、クリーンなイメージや華やかさを打ち出すことができる商品の提案に力が入っている。
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UNIQLO
ユニクロ/ユニクロ
ユニクロ/ユニクロ
在宅ワークやちょっとした外出を意識した商品群、パジャマなどのリラックスウエア、スポーツやアウトドアシーン向け商品群の3カテゴリーでシーズンを構成する。コロナ禍を背景にして高まっている快適性や心地よさへのニーズに応えるべく、ウォッシャブルなどの機能性も改めて打ち出す。在宅ワーク対応のカテゴリーでは、肉厚なニット地のプルオーバー(1990円)、パンツ(1990円)、ノーカラージャケットのセットアップなどを提案。ほかはサテン地のリラックスパンツなど。
GU
ジーユー/ジーユー
ジーユー/ジーユー
コロナ禍による消費の冷え込みを受け、強みであるトレンド商品を前春夏に比べて最大で30パーセント値下げする。注力商品は、「(在宅ワークなどの)家の中のシーンでも外出でも着られるアイテム」であるワンピース。袖のみを布帛に切り替えた天竺のワンピースは1990円。前年の類似商品より1000円値下げした。トレンドのデザインブラウスも2000円以下でバリエーション豊富に提案する。
LOWRYS FARM
ローリーズファーム/アダストリア
ローリーズファーム/アダストリア
従来のような「いかに売れ筋を作るか」といった発想ではなく、「誰にどんなシーンで着てもらうか」を意識し、客に寄り添うモノ作りを強化している。2021年春夏で推すのは、着こなしにパッと新鮮さを加えられるロマンチックなブラウス類(4000~5000円)。シーズンを超えて着られる羽織りや、何通りにも着られる商品も拡充した。初回発注は抑え、EC先行予約やSNSでの反応を見ながら適時追加生産を行い、MDの精度を高めていく。
【百貨店系】
リラックスのムードが市場に広がる中で、もともとキレイ目の通勤スタイルを主力としてきた百貨店ブランドもぐっとカジュアルな方向に舵を切った。市場として弱くなっているオケージョン商品を、「ブランドの強みとしてあえて強化する」という声も。
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BEIGE,
ベイジ,/オンワード樫山
ベイジ,/オンワード樫山
30代以上の働く女性に向けたジャケットとパンツのセットアップが強み。2021年春夏は「気分を豊かにしたい」「レイヤードスタイルを楽しみたい」という顧客ニーズに応え、ドレスライクなワンピースに注力する。麻のストライプ柄カフタンドレス(3万6000円)は襟元を抜き、太めの袖をざっくりとまくって、ラフに着こなす提案だ。長引く夏には、商品を売ったきりではなく、「時期に応じて何を合わせれば新鮮なスタイリングにできるかを考え、継続提案していく」。
EPOCA
エポカ/三陽商会
エポカ/三陽商会
2021年春夏は正価での消化率を重視し、仕入れの総量は前シーズンの3割減とする。型数を絞った分、「長く着用できるクオリティーを追求する」。ニットコレクション“ラ・マリア”のワンピースは立体的なニット成形による美しいシルエットながら、自宅でもくつろげる素材感。また、 “ファブリカ”のブラウス(3万6300〜3万9600円)とスカート(5万3900円)も同じくストレッチ素材で、腰元のアクセントがスタイルアップをかなえる。
ANAYI
アナイ/ファーイーストカンパニー
アナイ/ファーイーストカンパニー
着心地の良さが従来よりも必要とされる中、2021年春夏は「#おうちでエレガント」を提案し、ポンチやジャージー素材を使いながらも気分を上げてくれるような服をそろえる。コロナ禍でマーケットが縮小しているオケージョンアイテムもブランドの強みとして強化、着用シーンや着回しの汎用性を高めて打ち出す。インポート素材を使ったアイテムも毎シーズン支持されていることから、欧州の状況が不安定ながら早期で素材を手当てした。写真のコートは5万4000円。
JILL STUART
ジルスチュアート/サンエー・インターナショナル
ジルスチュアート/サンエー・インターナショナル
商品型数は実売期に2割減、端境期に4割減を計画。オケージョン商品は大幅圧縮する一方、得意とするフェミニンなデザインでデイリーに使えるワンピースを強化する。3月はレース素材のアイテムにバリエーションを持たせ、中でも淡いグリーンのワンピース(3万2000円)はレースから透ける背面クロスのストラップがポイント。秋から本格導入したワンマイルウエアも好調。