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そごう・西武売却「泥沼化」のなぜ

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セブン&アイ・ホールディングスによる子会社そごう・西武の売却問題が泥沼化している。昨年11月に米投資会社フォートレス・インベストメント・グループに売却を決めたものの、条件交渉が難航。セブン&アイ経営陣への不信感を強めたそごう・西武労働組合がストライキ権(スト権)を確立するに至った。8月3日時点での状況を整理した。(この記事は「WWDJAPAN」8月7&14日号の抜粋です)

Q そごう・西武の売却問題がこじれている理由は?

売却先のフォートレスは、そごう・西武の再建のパートナーとして家電大手のヨドバシホールディングスと手を組んだ。両者はテコ入れ策として、西武池袋本店の大規模な改装計画を策定した。同店は北館、中央館、南館が連なる細長い建物に約7万4000㎡の売り場を構える。改装計画では、駅改札に近くて通行量が最も多い北館・中央館の大部分のフロア(一部報道では地下1階〜地上7階の8フロア)にヨドバシカメラを入店させる。単に百貨店に家電量販店が入るというのではなく、立地や面積においてもヨドバシカメラを核にした“ヨドバシ百貨店”に転換することになる。必然的にアパレルや服飾雑貨などその他の売り場は大幅に縮小する。

これに反対の声が上がった。当のそごう・西武の関係者は、実質的にヨドバシ百貨店になってしまえば、百貨店としての事業継続と雇用維持が不可能になると主張。さらに地権者の西武ホールディングス、地元の豊島区までが街づくりの観点から百貨店業態の維持を求めた。ステークホルダーたちの反発もあり売却後のプランが固まらず、セブン&アイは2月1日に予定した売却時期を無期限延期した。

セブン&アイによる「そごう・西武」売却の経緯

2022年2月
そごう・西武の売却先の一次入札を開始する

2022年11月
米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却することを発表。フォートレスはヨドバシホールディングスとの連携を打ち出す

2022年12月
豊島区の高野之夫区長(当時)が、都市計画の観点から西武池袋本店の低層階にヨドバシカメラが入ることに異議を唱える

2023年1月
2月1日だった売却時期を3月中に延期

2023年3月
一部メディアに西武池袋本店の大部分をヨドバシカメラに改装する計画が漏れる。3月中だった売却時期を4月以降に再延期

2023年5月
そごう・西武の元従業員がセブン&アイ取締役に対する株主代表訴訟を提起

2023年6月
セブン&アイ、フォートレス、西武ホールディングス、豊島区による会合で、西武池袋本店の改装計画が示される

2023年7月
そごう・西武労組がスト権確立の賛否を問う組合員投票を実施。9割以上の賛成票でスト権が確立される

2023年8月
そごう・西武の新社長に田口広人氏が就任

Q 労組はなぜ「スト権」の確立に踏み切ったのか?

そごう・西武労働組合はスト権の賛否を問う組合員投票を7月に実施。投票総数3833票のうち、賛成が3600票、反対が153票となり、賛成率93.9%でスト権が確立された。この結果をもって、セブン&アイおよびそごう・西武の経営側に労使交渉の場を求める。決裂すればストも辞さない構えだ。

スト権の賛否を問う投票自体が近年では異例だ。労組が強硬姿勢に出たのは、井阪隆一社長らセブン&アイ経営陣への不信感がある。労組の寺岡泰博委員長によると、井阪社長ら経営陣との話し合いの機会は全くなく、池袋本店の改装計画も報道によって知らされている状態だという(7月25日時点)。

西武池袋本店は全国に10あるそごう・西武の1店舗という立ち位置ではない。売上高1768億円(2023年2月期)は国内百貨店で3位。そごう・西武全体の売上高の約35%を占め、利益ではさらに多くを貢献する。ファッションブランドなどの取引先は国内有数の稼ぎ頭である西武池袋本店と商売できるからこそ、そごう・西武の地方・郊外店にも出店するのだ。実際、今回の改装計画が浮上して以降、全国のそごう・西武の新規店舗導入や売り場改装の動きがストップする例が相次いでいるという。

生命線である西武池袋本店が失速すれば、他の店舗も総崩れになり、百貨店としての事業継続や雇用維持が不可能になる。スト権確立への9割以上の支持は、そんな危機感の表れだ。

小売業などが多く加盟する労組UAゼンセンは今春、雇用維持や情報開示を求めてセブン&アイに要望書を提出した。ライバルの三越伊勢丹、高島屋、阪急阪神百貨店などの労組も賛同している。

Q セブン&アイおよびフォートレス・ヨドバシ連合は何をしたいのか?

セブン&アイがそごう・西武の売却に動いたのは、アクティビスト(もの言う株主)である米投資会社バリューアクト・キャピタルからの圧力だった。バリューアクトはセブン&アイに対し、不振のそごう・西武やイトーヨーカ堂を売却し、セブン-イレブンのコンビニ事業に集中するよう強く要求。セブン&アイはこれに屈し、そごう・西武の売却やイトーヨーカ堂のアパレル撤退を決断した。

そごう・西武の売却は数社による入札の結果、フォートレスに決まった。提示された金額は2000億円超といわれている。ヨドバシと資金面で協力する枠組みを作り、高い値を提示したことが選ばれた理由だ。セブン&アイにとっての誤算は、西武池袋本店に関してフォートレス・ヨドバシ連合が当初の想定をはるかに超えた好立地とスペースを要求したことだった。ヨドバシとしては巨額を投じるからには、池袋の駅直結の一等地に旗艦店を作りたい。資本の論理としては当然といえる。

セブン&アイはそごう・西武の売却先の条件として「事業継続」と「雇用維持」を掲げていた。だが、西武池袋本店の改装計画はその条件とは相反する。ステークホルダーの利害調整を担うべきセブン&アイはその役割を果たせず、事態はこじれている。

Q ストは決行されるのか?

そごう・西武労組はスト権を確立し、経営側に交渉のテーブルに着くよう促す。具体的に何が合意できなければ、ストを決行するのか、取りやめるのかについては現時点では不明だ。ストを決行する場合の範囲も分からない。

仮に焦点の西武池袋本店でストを実行するとしても、店頭に立つスタッフの大部分は取引先の従業員であり、そごう・西武の社員ではない。理解がなければ、強硬手段であるストは世論の反発を呼ぶ懸念もある。寺岡委員長も「顧客や取引先に迷惑をかけるのは避けたい」と抑制的な考えを示す。

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