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特集 パタゴニアのビジネスに見る新しい資本主義 第9回 / 全9回

環境危機下での経営判断とビジネスの在り方とは? パタゴニア日本支社長に聞く

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マーティ・ポンフレー/パタゴニア日本支社長 プロフィール

1970年6月29日米国ミズーリ州セントルイス生まれ。ナイキジャパンでアナリストとしてキャリアをスタートし、後にカテゴリーセールスマネージャーに就任。その後、フォッシルジャパンでオペレーションズディレクター、マネージング・ディレクターを経て、アメリカ本社で複数のヴァイスプレジデントのポジションを務める。2007年以降、コンサルタントとして、また起業家として多数のビジネス開発プロジェクトに携わる。19年から現職

大洪水や山火事、強大化する台風や熱波など地球の危機的状況下で適切なビジネスとは何か。これまでと同じビジネスモデルでは地球はもたないが、会社を存続させるためには利益は必要だ。こうした難しい状況にどう立ち向かえばいいのか。営利目的でありながら「地球を救うためにビジネスを営む」パタゴニア(PATAGONIA)のビジネスにヒントを探りたい。マーティ・ポンフレー(Marty Pomphrey)=パタゴニア日本支社長に経営判断のときに重視することやこれからのビジネスについて聞く。(この記事は、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)

WWD:パタゴニアの現在の売上高の推移と今後の目標は?

マーティ・ポンフレー=パタゴニア日本支社長(以下、マーティ):コロナ前と比べて成長率は鈍化しているが、意図的にそうしている。この4年考え続けているのは、高い成長率は品質の敵であるということ。新しい服を作る点では成長率は下げたい。何を作るにしてもサプライチェーンと限りあるリソースにプレッシャーをかけてしまうから。その対極にあるリセールビジネスは拡大していきたい。新しい製品を販売するよりもはるかに環境影響が少なく、日本国内でビジネスが完結するからだ。成長率を下げたほうがいいと感じているもう一つの理由は、カスタマーとの関係をより深めていきたいから。カスタマー中心のビジネスを構築したいと考えており、そのためには私たちに時間の余裕がないと取り組めない。

WWD:日本では循環型ファッションや日本発の食品事業に注力している。今後の事業計画は?

マーティ:日本のビジョンは明確だ。製品の寿命を最大限に延ばし、使用済み製品に責任を持つこと。このビジョンをビジネスの一部として、拡大することが日本での優先事項だ。22年初頭、リペア、リサイクル、ウォーンウエア、そして新しい“ジャパン リクラフテッド(Japan Recrafted)”プログラムに重点を置くサーキュラリティ部門を設立した。23年7月に京都店で開催した最新のポップアップ・イベントはその好例だ。最終的には通常のビジネスの一部として拡大していきたい。

食品ビジネスについては学んでいる最中だが、もっと地元産製品を日本で販売する方向に進みたいと考えている。このビジネスを成功させるためには多くの課題がある。とはいえ、プロビジョンズのビジネスは、気候危機に対処するためのスケーラブルな(拡張できる)解決策を見出す重要なツールとして大きな可能性を感じている。気候変動と生物多様性の損失は、現代の最も深刻な環境危機であり、私たちの食料システムがその大きな原因となっているからだ。

WWD:古着の再販やリペアなどの「ウォーンウエア」では利益を出すのが難しいのではないか?

マーティ:私たちの目的は正しいことをして利益を上げること。さらに私たちは社会に影響を与えていきたい。その両方をこなしながら、成長を強制せずに利益を出さなければならない。とても難しくて、本当にビジネスが上手でなければいけないが、それが創業者イヴォン・シュイナード (Yvon Chouinard)からのメッセージだ。大変だが入社前から予想していたことだし、私自身この仕事を愛している。

WWD:理想的な成長率とは?

マーティ:自然な成長を目指している。新店舗のオープンなどの要因でも変わってくるので具体的な数字を出すのは難しい。具体的数値目標を掲げるのではなく、Eコマースと直営店、卸ビジネスの3チャネルそれぞれで適切な成長を検討し、その結果が成長率になる。これが上場企業の成長とは少し異なる点だ。それを物語るエピソードを紹介したい。私が入社した直後の2019年5月、(パタゴニア本社がある)ベンチュラで出席した理事会初日のこと。8時間ずっと話合っていたのは「最高の素材とよくない素材について」だった。会議の合間にコーヒーを飲んでいたらイヴォンが私のところにやってきて、「全然売り上げの話とかしないでしょ?」と言って立ち去ったんだが、目からうろこの体験であり、教訓を得た日でもあった(笑)。創業者がこうした考えや理念を持っていることが幸せだと感じたし、四半期や1年ではなく長期的な視点で考えることが大事だと学んだ。

WWD:営利企業であり、活動家的側面を持つ企業としてのビジネス運営について、経営判断で重視している点は?

マーティ:ミッションステートメントに基づいて決断を下している。私のマネジメントスタイルは本能的な部分と科学的・現実的な部分を見るミックススタイルだ。このスタイルに至った背景には、アラスカに住んでいた幼い頃の体験が影響している。サバイバル気質がある父の影響も大きい。幼い頃から自分の中にある動物的な感覚を信じていて、これがいい、これはよくないという本能を頼りにしてきた。父と2週間、誰もいないような遠くに旅に出たときに、父に「私が死んだらどうやって帰るか、これからどう生きるか」と聞かれたことがある。そうした経験によって、遠くに答えを求めるのではなく、自分の身の回りにあるものでどうにかすることや自分で考えて行動することが訓練されたように思う。イヴォンには「未来の世代のことを考えなさい」と言われている。1970年代、自分が子ども時代に楽しめたような自然の環境が今の子どもたちには残されていないと考えると悲しい気持ちになるが、決断を下すときにはそういう気持ちを大事にしている。

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