阪急うめだ本店は、3階の婦人服フロアにイベントスペース「ポップアップ サーカス(POPUP CIRCUS)」を10月1日に新設した。同店はここを特別なショッピング体験を提供する空間と位置付ける。単なるイベントスペースとは一線を画した企画や演出で、関西圏のみならず、日本全国あるいはアジア各国からの集客も狙う。第1弾の「ジバンシィ(GIVENCHY)」は盛況のうちに幕を閉じた。
華やかなクチュールのドレスが並ぶ空間で、着飾った招待客らがグラスを傾けていた。
10月6日夜、ポップ アップサーカス(PUC)のこけら落としである「ジバンシィ」のナイトイベントが開かれた。PUCのスペースは囲いによってクローズド空間になり、その中ではドレスの試着会とともに、同ブランドのコスメを使ったメイクサービス、人気バイオリスト岡部麿知氏による「ムーンリバー」の演奏などが催された。「ムーンリバー」はオードリー・ヘップバーンが「ジバンシィ」のドレスを着たことで知られる映画「ティファニーで朝食を」の主題歌である。
PUCは百貨店内のブランドブティックや路面の旗艦店以上に、顧客をブランドの世界観に没入させることを目指して開発された。中でもナイトイベントは、目の肥えた上顧客の期待以上のものにしようと趣向を凝らした。担当の阪急阪神百貨店の江木瞳バイヤーは「ファッションが好きなお客さまの熱を超えた熱狂を生み出す場にしたい」と意気込む。
1カ月の営業で遠方からも人を呼ぶ
3階のモードファッションを集積したエリアに設けられたPUCは、広さ200平方メートルの楕円形のスペースである。自主編集売り場「D.エディット」の場所を刷新した。1カ月ごとにイベントが組まれ、第1弾の「ジバンシィ」は10月1日から29日まで行われた。第2弾の「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」が11月1日から28日まで、第3弾の「モンクレール(MONCLER)」が12月に開催される。
阪急うめだ本店には「コトコトステージ」と呼ばれるイベントスペースが各フロアにあるが、PUCはそれらの2〜3倍の規模になる。またコトコトステージの開催は基本1週間であるのに対し、PUCは1カ月間と長い。面積の広さはコトコトステージで表現できなかった世界観の表現と品ぞろえに、期間の長さは広域客の集客と再来店にそれぞれつながる。
「ジバンシィ」では1カ月間の前半を最新のイブニングドレス、後半の日本企画のデニムコレクションの先行販売と2つの目玉コンテンツを作った。特に同ブランドが誇るクチュールのドレスを間近で見られる機会は貴重なため、多くの女性を集めた。前半・後半と2回に分けることで、熱心なブランドファンの再来店が見込める。会期が長いため、遠方に住む人も来やすくなる。
阪急阪神百貨店は21年4月に中国の人口800万人都市である寧波に「寧波阪急」を開業したのを機に、中国での情報発信を強めている。特に富裕層の訪日客が阪急うめだ本店を訪れるケースが以前にもまして増えた。このネットワークを活用して、中国でファッションに関心の高い顧客にPUSの情報を伝える。
ブランドをもっと深く知りたい要望に応える
濵田尚子マーチャンダイザーは「モードのお客さまはブランドやデザイナーをもっと深く知りたいと考えている。しかし、既存のイベントスペースではその期待に応えきれないもどかしさがあった。百貨店として、ブランドの世界に没入してもらえる空間が必要だった」と説明する。既存のコトコトステージがブランドの新キャンペーンなどに使われることが多いのに対し、PUCは独自性を追求する。ブランドの本国側とも密接な話し込みを行い、国内外から人を呼べるポップアップストアにしようと知恵を絞る。
11月1日に始まる「マーク ジェイコブス」も独自性にこだわった。デザイナーのマーク・ジェイコブスが愛し、リゾートコレクションのテーマである真珠(パール)のオブジェを大胆に配した。パールをあしらったバッグやアクセサリーを豊富に揃えるとともに、国内外で活躍する4人のアーティストと協業したバッグを週替わりで販売する。
PUSは婦人のモードファッションのエリアにありながらも、今後はメンズファッション、ライフスタイル、アート、フード、インテリアなどもコンテンツも計画する。ブランド側の反応もよく、出店は1年先までは決まっているという。