大丸京都店は3月22日、4階リビング売り場に金継ぎサロンをオープンした。売り場面積は15平方メートル。金継ぎ相談窓口のほか、金継ぎした器の販売も行う。修繕作業は金継工房リウムや関係工房先が担う。常設だが当面の間は月1回、3日間の予約相談会を実施する。
世界初の“オープンな”金継ぎ相談所
金継ぎサロンの常設店を開いた理由を水嶋亜矢子・大丸京都店営業2部マネジャーは「小売りは販売が使命。でも販売して終わりではなく、長く使っていただくためにお客さまに何が提案できるかを検討した。衣料品は回収やリサイクルを始めていたが、器は提案できていなかった。そんな中でリウムさんと出合った」と振り返る。金継ぎは器の割れや欠け、ひびを漆を使って修復する伝統的な技法だ。「新たな価値を吹き込むことができる日本独自の技法である金継ぎを、伝統工芸が盛んな京都から発信することになった」。昨年京都店で12月に3日間の金継ぎポップアップストアを開催したところ、反響が大きかった。「百貨店は安心感があるところも奏功したのでは」と分析する。金継ぎはどこに依頼すればいいのか、費用がどの程度かかるか分からないなど不安な点がある。金継ぎサロンでは修繕する大きさや使用する材料に応じて事前に費用を決めることでその不安を解消した。サロンでの相談は、工房リウムに通いトレーニングを受けた3人の大丸京都店のスタッフが行う。
作らない製造業、売らない小売り
2016年に金継工房リウムを設立した永田宙郷氏は、「時間を越えることのできる本質的なものづくり」をテーマに、事業戦略策定から商品開発、コンサルティング、店舗プロデュースなどのプランニングやディレクションを行う。金沢美術工芸大学在学中に「エルメス(HERMES)」と日本刀を製作したり、デザイナート(DESIGNART)や全国各地の「中量生産・手工業」の作り手と、使い手、伝え手を繋ぐ展示会や販売会などの場づくりを行う合同会社ててて協働組合を立ち上げたりするなど活動は多岐にわたる。「ポメラート(POMELLATO)」の金継ぎコレクションを仕掛けたのも彼だ。「工芸は伝統のままでは続かない。新しい試みが必要だ。たとえ、文化を引き継いでも若い職人は食べていくのが大変。伝統工芸は育成と社会に浸透させることが重要で、今回のサロンも事業として継続していけるように計画している」と永田氏。金継ぎはこれまで職人の名が知られているが、あえてチームで対応できる工房を作ることで若い職人たちを引き受けているという。また、修繕だけではなく、新しい芸術的価値を生み出すことを目指し、芸術品として金継ぎした器の販売も行う。「金継ぎは稀な技法。傷を美しさとして愛でるのは世界的には新たな美意識であり、日本固有の文化である」。
金継ぎは世界的にも知られるようになった。「2020年、グテーレス国連事務総長は国際平和デーの演説でパンデミック以降に必要不可欠な世界の結集の重要性を金継ぎに例えて演説した」。海外の美術館や博物館のミュージアムショップで金継ぎセットをみかけることも増えた。「高級生活用品の中で、器だけが破損時の修繕サービスが見当たらない。創業300年という歴史ある大丸が金継ぎを行うことで、“直す”“高める”事業としてブランドとの協業も実現するかもしれない。器販売店舗にとっても未開拓な領域だとも言える。作らない製造業や、売らない小売りといった考え方はこれからの時代、大切になってくる。金継ぎはサステナビリティだけの文脈だけでない魅力がある」。
永田宙郷(ながた・おきさと)プランニングディレクター/TIMELESS代表/N-ARK取締役/ててて協働組合共同代表/金継工房リウム主宰/DESIGNART共同発起人 プロフィール
1978年生まれ。福岡出身。金沢工芸美術大学で美術史を学んだ後、金沢21世紀美術館(非常勤)やデザインプロデュース会社を経て現職。「時代を越えて求められる“ものづくり”をつくる」をモットーに、小さな事業者から大きな企業まで、規模や領域を問わず企業とのプロジェクトを進める2012年、作り手と伝え手をつなぐ『ててて商談会』、16年都内最大級のデザインイベント『DESIGNART』を立ち上げる。16年、伝統工芸職人の雇用と育成を目指す『金継工房リウム』を高級ホテル内に設立。グッドデザイン賞審査員、京都市伝統産業活性化推進審議委員、特許庁窓口機能強化事業専門家、越前市未来創造基地計画策定アドバイザー等多数