キャリアコラム

アパレル業界から北海道発お菓子メーカーに転身 クリエイティブ視点を生かすキャリアの築き方

INDEX
  • PROFILE: 千葉真由美/COC取締役マーケティング本部長
  • 「地元に貢献できるのは幸せなこと」
  • “ちょっとした違和感”を誘う店作り
  • 長く愛される“名品”をいかに作るか

PROFILE: 千葉真由美/COC取締役マーケティング本部長

千葉真由美/COC取締役マーケティング本部長
PROFILE: (ちば・まゆみ)1978年生まれ、札幌出身。99年ジュンの内装設計部門に入社し、6年間にわたって商業空間のデザイン業務を担う。その後、シューズ、コスメ、カフェ、ウエディングブランドなどの新規立ち上げや運営に従事した後、2016年にフリーランスに。22年に北海道コンフェクトグループに入社し、同社が手掛ける菓子「スノー」「札幌農学校」などのブランディングやマーケティング全般を担当 PHOTO:SHUHEI SHINE

「スノー(SNOWS)」「札幌農学校」など、北海道みやげとして話題のお菓子を多数手掛ける、北海道コンフェクトグループのCOC。同社でマーケティングの指揮を執る千葉真由美取締役マーケティング本部長は、アパレル業界での経験が長く、当時は「WWDJAPAN」をはじめとした業界紙もその活躍をよく取り上げていた人物だ。アパレル時代に培ったブランディングのスキルを生かし、現職ではお菓子ブランドのリニューアルや新規立ち上げを次々と仕掛けている。北海道と東京を行き来しながらマルチに活躍する千葉取締役に、お菓子業界に移った経緯や、アパレル時代に身につけたクリエイティブな発想について話を聞いた。

ーーアパレル時代はどのような仕事をしていたのか。

千葉真由美COC取締役マーケティング本部長(以下、千葉):美術系の学校を出た後に、総合アパレル企業のジュンに入社し、内装設計部門からキャリアをスタートしました。ブランドごとに相性の良さそうな内装デザイナーを選んだり、デザインコンペをしたりと、ブランドの事業部と内装デザイナーとを橋渡しするような仕事をしていました。その部門には6年ほど在籍しましたが、内装の仕事は若手であっても事業部長や社長などとやり取りする機会が多く、刺激的でした。

店舗設計の後に担当したのは雑貨ブランドです。雑貨強化の一環で、シューズとバッグのショップを作ることになり、企画・立案からイタリアでの買い付け、PRまでいろいろ担当していました。当時は毎日のように靴の産地である浅草に行き、メーカーや問屋を回っては「モノはこうやって作られるんだな」と学ばせてもらいました。その後は、ライフスタイル型の新しいセレクトショップのローンチプロジェクトに参加。どういう空間にどういう物を置くか、新しい発想で考えるのが楽しかったですね。

結婚を機に退職し、1年ほど仕事から離れていたのですが、再び職場に戻り、ウェディングのセレクトショップを立ち上げました。きっかけは、自分自身の結婚式の準備での体験です。当時は、予約をしてウェディングサロンに行って、ドレスや小物を決めていくというのが主流だったのですが、仕事をしていると予定を調整するのが難しく、働きながら準備するのが本当に大変でした。「今日行って、その場ですぐ選んで買える」。そんな自由な発想の新しいお店を作り、運営していました。

「地元に貢献できるのは幸せなこと」

ーーお菓子業界に転じることになったきっかけは何だったのか。

千葉:仕事はすごく楽しかったんですが、もう少し結婚生活に比重を置きたいと思って、退職することにしたんです。会社を辞めた後もそれまでの取引先などの方々からお声掛けいただき、セーブしながらもフリーランスで仕事はしていました。そんな中、北海道コンフェクトグループの社長である長沼(真太郎)が当時、東京で経営していたBAKEというお菓子メーカーを、週に1回ほど手伝うことになりました。もともと、長沼のお姉さんと高校時代の友人だったことからの縁です。それがお菓子業界に入るきっかけになりました。

ーー今は、北海道コンフェクトグループのCOCで取締役マーケティング本部長を務めている。

千葉:長沼が北海道に戻り、家業の老舗洋菓子メーカーを継ぐことになったので、私もそちらの仕事も手伝うようになりました。当初は業務委託で仕事をしていたのですが、徐々に東京オフィスの人数が増え、さまざまな指示を出す立場になっていったので、私も22年7月に北海道コンフェクトグループに入社。札幌の本社にも部下がいて、北海道と東京を行き来しながら仕事をしています。時期にもよりますが、月に2回ほど出張があって、ならすと1年のうち約3分の1は札幌にいます。

生まれ育った街の活性化に関わり、地元に貢献できることは、とても幸せなことです。それに、今も札幌には実家があり、親のこれからのことを考えても故郷で仕事ができるのはありがたいこと。私は東京の感度やスピードをキャッチしつつ、地元・北海道で幅広い層に受け入れられるお菓子の温度感も分かる点が強み。パティシエブランドではない私たちのお菓子は、世の中の8割くらいの人に買いたいと思ってもらえないと成り立ちません。よくあるようなものではダメですが、凝り過ぎたお菓子でも難しい。そのバランスを追求しています。

ーー具体的に、COCではどのようなお菓子を作っていて、自身はそこにどう関わっているのか。

千葉:注力ブランドのひとつである「札幌農学校」は、25年に20周年を迎えました。元々はミルククッキーのみを展開していましたが、ここ数年でプリンやタルトなど商品ラインアップを増やし、ブランド化を進めています。新千歳空港ファクトリー店限定の「焼きたて酪農チーズケーキ」と「焼きたて北海道アップルパイ」は特に人気で、2時間待ちの行列ができることもあります。

私たちはおいしいお菓子づくりのために「いい原材料を使う」「手間をおしまない」「フレッシュな状態で提供する」という三原則を大事にしているのですが、そのほかにパッケージデザインやネーミング、プライシング、店舗デザインにもこだわっています。

“ちょっとした違和感”を誘う店作り

ーー確かに、COCが手掛けているお菓子は、どれもパッケージやお菓子そのものの形、ポップアップストアの空間など、デザイン面も目を引く

千葉:お菓子は食べたらおいしいのは当たり前として、いかにして手に取ってもらうかが重要です。どうやったら買いたくなるかを常に考えています。例えば、生チョコレートを使用した冬期限定販売の「スノー」は、木の枝をイメージした形のチョコレート“森ノ木”やバウムクーヘンの“森ノ幹”など、自然の中にあるものからインスピレーションを得た商品をそろえていて、パッケージは版画家・大谷一良さんの作品をデザインとして使わせていただいています。大谷さんへのリスペクトを込めて、パッケージにはロゴを入れていません。店舗も空間にゆとりを持たせていて、かなりぜいたくな作り方をしています。普通のおみやげ屋さんではやらないようなことをして“ちょっとした違和感”を演出できたらと思っています。

「スノー」以外のブランドの店舗でも、ディスプレーとしてどれくらい箱を重ねるとすてきに見えるか、お店の人にはどういう制服を着てもらうとブランドらしさを出せるかなど、「ヒト・モノ・器」について常に考えています。これは、ファッションの世界でやってきたことと近いですね。

ーークリエイティブな視点を持ち続けるために、心掛けていることは何か。

千葉:お菓子業界に移ってからも、駅ビルや百貨店、有力なデザイナーズブランドの直営店など、ファッションやビューティ関連のさまざまなお店を見るようにしています。何を見たら新しいと感じるのか、どういうものを今っぽいと感じるのか、空間の見せ方やデザイン、色使いなどからヒントを得ています。

価格設定に関しても競合他社をリサーチするより、お菓子に関わらずマーケット全体を見ることを重視していています。街ではいま何が売れているのか、どうしてそれが売れているのかと常に考えている。マーケットを見続けていると、売れている理由がなんとなく分かってくるようになるんですよね。

長く愛される“名品”をいかに作るか

ーーアパレル業界とお菓子業界の違いに戸惑うようなことはなかったか。

千葉:アパレルは、ブランドごとにある程度、対象とする年齢層やターゲットが決まっていますが、お菓子が対象とするのは子どもからおばあちゃんまで幅広い。そこは違います。みんなに好かれて「買いたい!」と思ってもらえるお菓子を常に目指しています。また、お菓子業界に入って、チーズケーキならチーズケーキだけといったように、1つの商品しかないブランドがあることには驚きました。1アイテムしかないなんて、「コーディネートが組めない!」とアパレルではなってしまいますよね(笑)。

(シーズンごとに新商品がどんどん投入されるアパレルの世界と違って)お菓子は「1つの商品をどれだけ長い期間売り続けていくか」が重要です。言うなれば、「カルティエ(CARTIER)」の“タンク”のように時代を超える名品を作っていく必要がある。そしてそれを店舗での見せ方やSNSなどでお客さまを飽きさせることなく、楽しませ続けなければいけません。

24年には、北海道では多くの人が知っている「山親爺(やまおやじ)」という1930年からあるお菓子をリニューアルしました。「山親爺」を手掛ける老舗の菓子メーカー、千秋庵製菓が北海道コンフェクトグループに加わり、リニューアルすることになったんですが、パッケージデザインを変更すると共に、テレビCM(記事末尾のYouTube参照)のリバイバル放映を実施。CMの歌はYUKIさん、アレンジは蔦谷好位置さんという、北海道出身のお二人に手掛けていただきました。リニューアルによって、名品を蘇らせることができたと思います。全てのブランドをずっと続けることは難しいかもしれませんが、1つでも多くのブランドをできるだけ長く続けていきたいと思っています。

ーー改めて、今の仕事のどんな部分に醍醐味を感じているか。

千葉:お菓子を通して、北海道の美味しいものの魅力を1人でも多くの人に知ってもらえるのは、本当にうれしく思っています。それから、新しい業界で仕事をするのはアドレナリンが出てすごく楽しい。今までの経験をもとにアイデアも湧きやすいので、やってみたいことはたくさんあります。コラボができたらすてきだなと思うアパレルのブランドもありますよ。ノベルティーなのか制服なのか、どういう形で取り組むのがいいかを想像しているところです。

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