須藤亮/1971年、茨城県生まれ。制作会社リミックス、メンズ誌「フリー&イージー」の編集者を経て2004年に制作会社モーグリーンの起ち上げに参加。セレクトショップを中心に、ファッションブランドのカタログや大手出版社のムックの編集、制作を手掛ける Photo by SHUHEI SHINE
今年5月に発売した最新号Vol.10
最新号の特集は“GIRLS, GO WEST”
ガイドブックには載っていない、ローカルに愛されている人物やスポット
2013年に創刊した「アンナ マガジン(anna magazine)」(mo-green)は、西海岸と旅をテーマにした女性向けのファッション&ライフスタイル誌だ。須藤亮・編集長自らの経験で得たネットワークとコンテンツの相乗効果で「アンナ マガジン」のスタイルが確立し、20〜30代の高感度な女性からの支持を集めている。情報発信が多様化する中でメディアに求められるのは、コンテンツの企画力と編集力。インディペンデントマガジンを通じ、これからの時代に求められる編集者の資質に迫る。
WWDジャパン(以下、WWD):編集者を志したきっかけは?
須藤亮「アンナ マガジン」編集長(以下、須藤):学生の頃、友人が編集者をしていて、日々のことを楽しそうに話すのを見て興味が湧いたからですね。その後、制作会社の編集者としてのキャリアをスタートしました。雑誌のタイアップがメーンでしたけど、今思えば広告制作の経験があったから、俯瞰でものを見る力が身についたと思います。ジェネラルなマインドというか、どこか引いてものを見るような。その後「フリー&イージー(FREE & EASY)」(イースト・コミュニケーションズ)の編集者になりました。
WWD:「フリー&イージー」を選んだ理由は?
須藤:元々、アメリカのカルチャーが好きだったからですね。きっかけは小学生の時、茨城県の東海村にあった外国人がたくさん住む地区に引っ越したこと。隣にメルバーさんという、アメリカのホームドラマに出てくるような幸せなファミリーが住んでいて、当時はあまり馴染めなかったけど、ライフスタイルがとにかくかっこよかった。みんなハイソックスを履いて、頭がモジャモジャの黒人の子どもが、ペニーみたいな小さなスケートボードに「キャー」って逆立ちして乗ったり、家の階段にはカーペットが敷いてあって、犬も走り回ってる。イメージしていたカリフォルニアがそこにあって、全てが眩しかった。その時の幸せな感じや憧れが刷り込まれているんです。あとから知ったけど、メルバーさんは思いっきりカナダ人だったんですけれども(笑)。
WWD:「アンナ マガジン」は西海岸と女性のカルチャーがテーマですが、「フリー&イージー」からの影響はありますか?
須藤:それはありますね。昔、タイアップの取材でLAに行った時、竹村卓さん(編集者、ライター)がコーディネーターで、女性のお客さんたちに気を使って、トレンドでモダンなスポットに連れて行ったのですが、みんなあまり喜ばなくて。結局、竹村さんがアメリカに住んでいた頃に、いつも行っていた昔ながらのハンバーガー屋とかマイナーなスケートパークに行ったら、みんなが大喜びしたんですよ。理由はトレンド誌やガイドブックに載っていない、“あたり前の風景”だから。その時の体験が「アンナ マガジン」の考え方のベース。全てのコンテンツは“女の子が、男の子のLA旅行について行って見える景色、女子旅では知れないことを体験する”という視点で作っています。
READ MORE 1 / 2 具体的なコンテンツ作りの秘策は?
これまでのカバーデザインの他、さまざまなグラフィックデザインが並ぶオフィス
WWD:編集者にとって企画力は必要不可欠ですが、各特集の企画骨子は?
須藤:玉石混交の情報でリアルを伝えること。先程アメリカが好きと話しましたけど、僕はアメリカの“無駄”が好きなんです。アメリカは最新テクノロジーを発明しても、ユーザビリティーが悪かったりとにかく詰めが甘いんです。結果、山ほどの“無駄”が生まれる。その感じがチャーミングで、アイデアと勢いだけで突き進むところにも夢がある。リアリティーを追求しているので、誌面では、かっこいいも悪いも、メジャーもマイナーもジェネラルな視点で並列に紹介しています。ガイドブックには載っていない、ローカルに愛されている人やごく普通の場所の空気感をどう伝えるかを常に考えています。
WWD:具体的にどんなコンテンツ作りをしていますか?
須藤:まずは、取材場所と対象をざっくりと決めます。例えばLA近郊のお金持ちのカルチャーを取材しようとか。あとは、取材対象者の記憶に頼るだけ。いざ取材となると、みんなトレンドにまつわる話をしがちですが、結局取り上げるのは、雑談の中の「あっ、そういえば……」に続くようなネタ。だから取材先には数日間滞在するようにしています。会話を重ねることで、徐々に僕らの意図を理解して、数珠つなぎのようにマニアックな情報が得られる。そのアプローチこそがドキュメンタリーなんだと思います。
WWD:誌面では、ドキュメンタリー写真が多い印象を受けます。
須藤:最近は西海岸というテーマに加え、“旅”にフォーカスしているからです。アメリカの自由な雰囲気とも親和性が高く、旅の途中で出合うローカルな情報にこそ価値があるので。今、メーンのカメラマンはゴトウ・ケン氏。元々スケートカメラマンだけあって、構図にこだわるというより、フォーカスする被写体の状況を撮ることに長けています。今、雑誌の写真のほとんどは狙って撮ることが多い中、「アンナ マガジン」はケンが大量に撮りためたドキュメンタリー写真を、ADがトリミングをしながらレイアウトしているので、迫力が生まれるんです。構図が決まっている写真は、全ページ通すと若干堅苦しい。このドキュメンタリー写真のおかげで、強いポートレートも生きてくるわけです。
WWD:写真をフィルムからデジタルにシフトしたきっかけは?
須藤:テクノロジーに抗っても仕方ないと思ったからです。新しいことにトライするなら、最新のテクノロジーをとことん利用すれば良い。最初はレタッチで粒子粗めのエフェクトをかけたりもしていましたけど、ケンの写真が生っぽくて問答無用にかっこよかったので、余計な加工は必要なくなりました。「アンナ マガジン」にオールドアメリカンなニュアンスを感じる方がいるようですけど、実際は全く逆の発想で作っています。
READ MORE 2 / 2 これからの編集者に必要な資質とは?
「アンナ マガジン」のブックインブックで発表した姉弟誌「ルーク」
WWD:「アンナ マガジン」の姉弟誌「ルーク(LUKE)」を発表したきっかけは?
須藤:20代の若い感性や発想が中心のメディアを作ろうと考えていた時、「雑誌を作りたい」という弊社スタッフの声が多かったので、まずはパイロット版として、「アンナ マガジン」のブックインブックで発表することにしました。元々メンズ誌を出版する構想はありましたけど、会社が今年で設立14期目を迎えて、まだ僕が編集長を務めることに違和感があったんです。
WWD:須藤編集長の関わり方は?
須藤:制作にはほとんどノータッチです。29歳の編集長、木村慶を中心に編成したチームが作ったコンセプトそのままで作りました。編集長もチームの中で自然発生的に決まったんですよ。
WWD:「アンナ マガジン」の姉弟誌という位置づけですが、方向性は合わせたんですか?
須藤:方向性もテンションも無理に合わせてはいません。ただ、「アンナ マガジン」のバリューは利用するようにアドバイスをしました。ゼロからのモノ作りは楽しいけれど、世間に認知されるまでが一番大変ですからね。利用できるものは利用するべきだと思います。
WWD:インディペンデントなメディアの今後をどう考えますか?
須藤:14歳になる娘が話していたんですが、中高生の“ネオ・デジタルネイティブ”はウェブやスマホでの情報検索を面倒に感じていて、逆に雑誌から情報を得ているようです。自分自身で情報を編集することに疲れているんでしょうね。専門誌の在り方次第ですが、今後はきちんと編集された雑誌の需要は高まっていくと感じます。オンラインで、信用度の高い情報を見極められるようなテクノロジーが現れたら話は別ですけど。結局、ユーザーはメディアの編集力を信頼しているわけですから。
WWD:これからの編集者に必要な資質は?
須藤:各編集者がコンテンツの企画、編集以外にメディアの運営や売り方までを考えることです。要は、潜在的な読者やユーザーにリーチするプラットフォームを生み出すこと。ローンチのタイミング、マネタイズの方法や流通、ウェブならタッチポイントを見通さなければ、これからは勝負できない。今は、「annamagazine.jp」とインスタグラムで毎日コーディネートを1ルックずつアップしています。季刊誌の場合はデジタルの活用方法を考えなければ難しいと思います。個人的には、インディーズのメディア同士が垣根を超えて新しいものを生み出すような、スケールメリットで大手メディアと勝負するのも面白いと思っています。どんな変化球で世の中に足跡を残すか。通常のメディアは広告出稿で成立しているわけですが、全く別のアプローチがあっても良い。そのために若いスタッフの感性や意見は必要不可欠。「昔は良かった」と話す年長者たちが口を挟むと、途端に懐古主義になってしまいますから。