伊勢丹新宿本店のフレグランス戦略が進んでいる。10月20~23日、第7回目となる香りの祭典「イセタン サロン ド パルファン(以下、サロン ド パルファン)」を開催して売り上げを拡大し、最終日の23日には1階フレグランス売り場面積を約1.5倍に広げてリニューアルオープンした。日本のビューティ市場ではまだまだ数パーセント規模のフレグランス市場だが、百貨店の化粧品売り上げ中1~2番を争う同店舗のフレグランス強化は、業界内外に大きな存在感を示している。
「サロン ド パルファン」は今年、会場をこれまでの7階から6階の催物場に移した。伊勢丹新宿本店の催事場と言えば6階が最大規模のスペースとなり、英国展やイタリア展など同店主要イベントは6階で行われている。「サロン ド パルファン」は過去6回は7階の催物場での開催だったが、年々来場者数が増加し売り上げも初回比で7回目は約4倍に増えており、見た目にも手狭感は否めなかった。今年は7階の改装もあり6階の大きい催物場に満を持して移動し、売り場面積は約1.5倍となった。一方、開催期間は昨年の6日間から4日間に短縮した。これは1階のフレグランス売り場リニューアルオープンに向けた動線として送客も積極的に行っており、リニューアルに弾みをつけるのが狙いだったのではないか。実際、会期は2日減でありながら売上高は前年比14%増、来店客数(購入客数)は同23%増と伸長した。
今回のイベントでは、日本初上陸を含む初出展12ブランドをはじめ国内外の約40ブランドを集めた。日本フレグランス協会と協力し、ブランドを横断して香り選びをサポートするコンサルテーションや、有識者の審査と売り上げ実績で選ぶアワードの開催のほか、同店ではフレグランス“上級者”が顧客の中心であることから、若年層の獲得を目指し、アーティスト兼モデルで若い人からも支持が厚い加治ひとみをアンバサダーに起用。SNSを使ったキャペーンなどで盛り上げた。
昨年を上回った売り上げをけん引したのがメゾンフレグランスで、ファッションフレグランスの動きが鈍く課題が残った格好だ。岡部麻衣・三越伊勢丹化粧品統括部 新宿化粧品営業部マーチャンダイザーによると、「フレグランスに関心の高いありとあらゆる層から来店があった」といい、「ゲラン(GUERLAIN)」「ジョー マローン ロンドン(JO MALONE LONDON)」などの定番ブランド、初出展となる「フエギア1833(FUEGUIA 1833)」「エルメティカ(HERMETICA)」が売り上げ上位を占めた。そのほか「クヴォン・デ・ミニム(LE COUVENT DES MINIMES)」「トバリ(TOBALI)」「シロ(SHIRO)」などの中小規模のブランドも健闘した。同店は他の百貨店に先駆けて2007年からフレグランスに注力してきており、順調に顧客の育成が進んだことでメゾンフレグランスニーズが拡大し、エントリー層からの需要が比較的高いファッションフレグランスの伸びが鈍化した。狙いとする若年層も取り込めたが、それはフレグランス“マニア”に絞られたようで、若年層全般に広がるにはもう少し時間が掛かりそうだ。
それでも1階フレグランス売り場の拡張は、イベントの売り上げ拡大で弾みがついた。リニューアルでは、「ブランドごとのストーリー性や世界観をより深く見せる」ことに注力。特に、メゾンフレグランスの打ち出しを強化した。例えばディフューザーやボディーケアなどライフスタイルをトータルで提案するブランドを“トータルメゾン”と位置付けて、「バイレード(BYREDO)」「ディプティック(DIPTYQUE)」「ジョー マローン ロンドン」の3ブランドを独立したショップとして展開。エングレービングやカスタマイズラッピングなどの販売サービスを充実させる。これらのブランドはフレグランス“初級者”にも入りやすく、裾野を広げる役割を担う。
また、ブランドごとのコーナー展開エリアでは、壁面をブランドサインやキービジュアルで装飾する仕様に変更した。そのほか大型のプロモーション什器を導入したポップアップスペースを設け、これまで統一環境の中で同列に並べていたことで表現しきれていなかったブランドの世界観を大きく発信する。加えて、海外の未上陸ブランドなど希少性の高いブランドを積極的に紹介していく。
今回のリモデルにより、フレグランス売り場の売上高は既存部分で前年比20%増、増設部分(単独でショップ化した3ブランド)を含めると同40%増を目指すという。若年層まで広がるコアなファンを獲得する年に一度の香りの祭典「サロン ド パルファン」と、1階に誕生した、エントリー層から上級者までをカバーする国内随一のフレグランス売り場との相乗効果でフレグランスの存在感を高めて、日本のフレグランス使用率向上に資することを期待したい。