
日本の繊維産地は世界から見ても多様で、その技術は海外から高い評価を受けている。しかし、後継者不足など深刻な課題を抱えて久しい。その繊維産地から今、新たなリーダーが誕生し始め、一企業の枠を超えて地域と連携した活動が生まれている。日本のものづくりと産地継続に向けて、産地に関わるリーダーやデザイナー、識者がその可能性を語った。(この対談は2024年12月13日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2024」から抜粋したものです。)
向千鶴WWDJAPANサステナビリティ・ディレクター(以下、WWD):2つ目のセッションは日本の繊維産地の可能性について5名の方をお招きしてディスカッションをいたします。日本には素晴らしいものづくりを行う産地がたくさんあります。そして多くの課題を抱え、同時に可能性を秘めています。ファッションの持続可能性はものづくりの現場の持続可能性があってこそ。本セッションでは現場の声と、識者の声を交えてその未来を語っていただきます。オープニング映像で見ていただいたのはZOZONEXTさんから提供いただいた篠原テキスタイルさんのムービーです。ZOZO NEXTさんのユーチューブでもご覧いただけます。
それでは登壇者をご紹介します。スズサン営業・各種プロジェクト担当の井上彩花さん、糸編代表の宮浦晋哉さん、「フェティコ」デザイナーの舟山瑛美さん、オンラインから篠原テキスタイル社長の篠原由起さん、そして本セッションのファシリテーターを努めていただくA.T. カーニー シニアパートナーの福田稔さんです。福田さんにマイクをお渡しします。福田さんよろしくお願いします!
PROFILE: 福田稔/A.T. カーニー シニアパートナー

世界から見ても珍しい、日本の多様な産地
福田稔A.T. カーニー シニアパートナー(以下福田):まず「産地」と一口に言っても日本の繊維産地は非常に多様です。具体的にどのような多様性や魅力があるのか、詳しくお話していきたいと思います。その点について産地に詳しい宮浦さんからお話をいただければと思います。
宮浦晋哉・糸編代表取締役兼キュレーター(以下、宮浦):日本には和装の産地から、ファッション、インテリアの産地などたくさんの繊維産地があります。私たちがワークショップやファッション学校で教える際にはこのうち代表的な20の産地を例として挙げています。
北から南まで日本にはさまざまな繊維産地があるので、皆さまの出身地も実は繊維の生産地だったりしますが意外と知られていません。例えばお母さんやお父さん世代が「機織りの音が聞こえていた」「染めをしていた」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。実は繊維産地は日本の日常生活に非常に近い存在なのです。
繊維産地には日本ならではの文化や風土が独特の文脈で進化を遂げ、現在に至った背景があります。この小さな島国でさまざまな特徴を持つ繊維産地が存在していることは世界的に見ても非常に珍しいことです。
歴史を遡ってみると、綿花を栽培して木綿を織っていた産地もあれば、養蚕が盛んで蚕を育てて生糸を生産し反物にして発展してきた産地もあります。これからご紹介するのはもともと養蚕業を行い、シルクの織物を生産していた産地についてです。これらの産地はシルクの織物産地として発展しつつ、その後ナイロンやポリエステルへと進化を遂げたものもあります。それぞれの産地が独自の進化を遂げています。
例えば日本最大規模を誇る北陸の繊維産地は、ポリエステルやナイロンのテキスタイルの生産が盛んです。東京から近い群馬では桐生を中心にジャカード織りの柄を追求する産地として知られています。山形の米沢は、現在も高密度で非常に美しいシルクのテキスタイルを主力とし独自の地位を築いています。このように各産地がそれぞれの強みを活かして進化し、世界中にファンを持つ存在になっています。
続いて、綿花栽培を背景に持つ産地をご紹介します。これらの地域は日照時間が長く水はけが良いといった土壌や気候条件が綿花栽培に適していました。
オレンジ色の地域の出身の方はおおらかな性格の方が多い印象があります。日照時間が長く、太陽に照らされる環境の中で育まれる文化が影響しているのかもしれません。この地域では5月頃に綿の種を蒔き11~12月頃にコットンボールが弾けるというサイクルで和綿の栽培がされていました。ここから発展してきた繊維産地と言えば、世界に誇るジャパンデニムの産地である岡山から広島、今治のタオル、和歌山の丸編み、そして世界三大毛織物の一つである尾州などがあり、さまざまな製品が生まれています。
一気にお話しすると少し情報が多いかもしれませんが、日本全国にはさまざまな繊維産地があり、それぞれ独自の形で進化を遂げてきました。この多様性と進化こそが、日本ならではの魅力として世界中から注目され、毎シーズン世界各国のデザイナーやバイヤーが訪れるなど、日本の繊維産地は他に例を見ない特別な存在となっています
各産地に新しいリーダーが登場、斜陽産業からの脱却を目指す
福田:このように日本の繊維産地は非常に多様です。そして現在、世界から大きな注目を集めています。その背景には日本の繊維産業が持つ長い歴史があります。日本の繊維産業は、戦前から高度経済成長期にかけて国の基幹産業として大きく成長しました。しかしその後、生産拠点がコストの安い中国や新興国へと次々と移転し、それに伴い斜陽産業とも言われるようになりました。
ところが潮目が変わり、繊維産業が輸出産業として再び成長を始めています。実際、日本のテキスタイルの輸出額は3000億円以上でその金額は年々増加しています。また、近年では日本製のブランド、完成品の輸出も急速に伸びており直近では輸出額が1000億円を超えるまでになっています。
歴史を経て日本の繊維産業は再び成長しようとしています。この新たな成長期を牽引する新しいリーダーたちが登場しています。ここからは、そうしたリーダーの方々をご紹介したいと思います。まず、先ほどオンラインでご参加いただいた篠原テキスタイルの篠原さんをご紹介します。
篠原さんは40代で家業を継ぎ現在事業を拡大されています。ぜひ篠原さんから、新しい繊維産地をリーダーとしてどのように考えていらっしゃるのかお伺いしたいと思います。特に現在取り組まれていることやコメントがあれば、自己紹介を兼ねてお話しいただければと思います。
PROFILE: 篠原由起/篠原テキスタイル代表取締役

篠原由起・篠原テキスタイル代表取締役(以下、篠原):私は広島県福山市を拠点にしています。この福山市と隣接する岡山県の井原市と倉敷市が日本国内でも特に有名なデニムの産地となっています。
現在、同業他社さんと連携してデニム産地全体を盛り上げる活動に取り組んでいます。具体的には日本のデニム生地をさらに広めるために勉強会を開催したり、一般の方向けにはワークショップを行ったりしています。2024年はBtoB向けの展示会を実施したり、マルシェに参加したりして地元住民にも「福山にはデニムがあるんだ」と知っていただく活動を進めています。地域の皆さんに地元への誇りを持っていただきたいという思いもあり、シビックプライドの醸成にも力を入れています。
また、バイヤーさんを対象とした工場見学ツアーも行っており24年は30~40回ほど実施しました。現場を見ていただくことでデニムをより深く知っていただけたらと思っています。
さらに、私たちからも積極的に学校へ赴き「こんな面白いことをやっているんですよ」と紹介する勉強会を開催したり、他の産地を訪問して連携を深めたりしています。例えば、「ひつじサミット尾州」で交流したり、先週は播州を訪問してお互いの産地の取り組みを紹介、素材開発したりとさまざまな活動を行っています。
福田:続きまして他の産地のリーダーについてご紹介します。若い世代が新たなリーダーとして登場しており、この点については産地をつなぐ活動をされている宮浦さんにお話しいただければと思います。
PROFILE: 宮浦 晋哉/糸編代表取締役 キュレーター

宮浦:現在、篠原社長は5代目として活躍されていますが、他の産地でも代替わりが進んでいます。若い息子さんや娘さんが事業に参加するケースや外から移住してきた方が会社を経営する例も見られます。
例えば、世界三大毛織物の産地として知られる愛知県と岐阜県にまたぐ尾州産地でオープンファクトリーイベント「ひつじサミット尾州」を立ち上げたのが三星毛糸の岩田真吾さんです。尾州産地は大きい産地なのですが、岩田さんは旗振り役としてリーダーシップを発揮して、日々精力的に活躍されています。産地が自ら立ち上がり外に向けて楽しく開いていかなければならない、という強いメッセージを込めて活動をされています。このオープンファクトリーをはじめ、さまざまなインナーブランディングの取り組みも行っています。
遠州産地に目を向けると、綿の高級シャツ地を手掛ける古橋織布の4代目古橋佳織理さんがいらっしゃいます。男性だけでなく女性も社長や開発担当として活躍してそれぞれの産地で頑張っている時代になりました。和歌山産地ではエイガールズの山下智広社長など、各地で新しいリーダーが次々と現れ、それぞれの産地を盛り上げています。このように、日本全国で新しい世代が活躍している状況です。
福田:このように多くの新しいリーダーが登場している一方で、他の業界から繊維産地に飛び込む動きも見られるようになっています。そこで、経済産業省を経てMBAを取得し繊維産地に飛び込んだ井上さんにその経緯をお伺いしたいと思います。
PROFILE: 井上彩花/スズサン 営業担当

井上彩花スズサン 営業担当(以下、井上):私は現在、株式会社スズサンで営業などを担当しています。大学卒業後、経済産業省に入省し、クールジャパン政策を担当する部署に在籍していました。その際、福田さんに副座長、向さんに委員として参加いただいた有識者研究会「ファッション未来研究会」の事務局を担当させていただいたことがきっかけで、ファッション産業が抱える課題や向き合うべきテーマ、そして産業が持つ大きなポテンシャルについて深く知ることができました。
特に職人技術といった独自性の高いものをどのように海外に伝え、市場を作り出すかに興味を持ちました。フランスを中心としたラグジュアリーブランドが世界中で人気を集めている様子を見て、クールジャパンで目指していたことの反対側にある成功例の一つではないかと考え、ラグジュアリーブランドビジネスを学びにパリに約2年間留学をしました。
留学中は、世界中からラグジュアリーブランドビジネスを学びに集まった同級生とともに、その領域に深く携わるさまざまな機会を得ました。その中で、特にフランスでは、職人技術が非常に高い価値を持つものとして業界内で認識されていることを実感しました。また、現地でLVMHメティエダールでのインターン経験を通じて、日本の繊維や工芸といった手仕事に大きなポテンシャルがあること、同時に課題も直接感じることができました。
これらの経験を経て、手仕事のビジネスのよりリアルな部分を体験したいと思い帰国後、名古屋・有松に拠点を置く株式会社スズサンに転職しました。スズサンでは、江戸時代初期から400年以上続く国指定の伝統工芸「有松鳴海絞り」の技術をブランドの核とし、ファッション製品や、クッションやブランケットといったホーム製品に「有松鳴海絞り」の絞り柄を取り入れるブランドビジネスを展開しています。
福田:新しい人材が集まりつつある繊維産業ですが、ここでぜひ日本の繊維産業が持つ「ものづくりの魅力」や「強み」についてお話を伺いたいと思います。「フェティコ」のデザイナーとしてご活躍されている舟山さんにお尋ねします。舟山さんは、特に産地との連携が上手だとうかがっています。産地の魅力やデザイナーの視点から見た日本の産地について教えていただければと思います。
PROFILE: 舟山瑛美/「フェティコ」デザイナー

舟山瑛美「フェティコ」デザイナー(以下、舟山):まず、私のブランドについて簡単にご紹介します。私が産地でのものづくりを始めたきっかけは新卒で入社したいわゆるDCブランドといわれるデザイナーズブランドの会社でした。その会社は産地との絆が非常に深く、新入社員も率先して産地や工場に連れて行き、現場を見せてくれるような投資を惜しまない会社でした。この経験が私にとって非常に大きな影響を与えました。それまで私は、服がどのような場所で作られているのかを全く知りませんでした。しかし、実際に現場で働く方々と話す機会を得たことで、彼らがいかに大変な仕事をしているかを知りました。「後継者がいない」「仕事が大変」といった話を若い私に気軽にしてくれる一方で、工場の方々がものづくりに誇りを持っている様子がとても印象的でした。その姿を見て「自分も真剣に向き合わなければ」と覚悟を決めることになりました。
「フェティコ」を立ち上げるにあたり「少しでも産地の力になりたい」という思いが強くありました。いろんなブランドで働く中で時には海外生産を含むOEMで日本の生地を使わない製品を手がけることもありました。ただ、そういったものづくりでは、細かい部分で自分が表現したいことを洋服に落とし込むのが難しく、ジレンマを感じることが多かったです。
その経験を経て「どんな人たちがどんな場所で作っているのか」を見極め、どの産地のどの生地を使いどの縫製工場に頼めばどんなふうに仕上がるまでが見えるものづくりに強い価値を感じるようになりました。今では、日本で作れないもの以外は約90%の生地と縫製を日本国内で行っています。
具体例を挙げると、前シーズンでは桐生でオリジナルの柄のジャカード生地を作りました。同色で派手さのない素材なので一見地味に見えますが、実際に手に取ってもらうと独特の風合いが感じられます。日本で作るメリットの一つにオリジナルの生地を作るのに多額のコストがかからないということ、小さなブランドであっても製作に協力的な機屋さんがいるという点があります。こうした環境は本当にありがたいと感じています。
継続しているところでいうと、尾州のスーツ地があります。ブランドを構成する要素は多々ありますが、細かい工夫や積み重ねがブランドのアイデンティティを形成し、強めてくれると実感しています。同じ梳毛でも、仕上げの加工方法やブランドらしさを求めてオリジナルの色に染めていただくなど自分の求める形にしてもらえるのが魅力です。小さなブランドでもこうしたことができるのは、日本でデザイナーをやる大きなメリットだと思います。
もちろん、海外の素材にも素晴らしいものがたくさんありますが、日本は顔が見える人たちと一緒に理想を追求できる環境が整っています。この環境を活かさないのはもったいないと感じ、産地でのものづくりを続けています。
福田:ちなみに私も今日着ているのは尾州のスーツ生地を使った服です。桐生産地も素晴らしいと思います。さて、日本の産地の魅力を横断的に発信し、さらに世界中のラグジュアリーブランドをアテンドされている宮浦さんにお伺いしたいと思います。
宮浦:舟山さんのお話にも通じるところからいくと、他の国にも繊維産業が存在しますが、いろんな国のデザイナーや学生、先生たちと話していると、小ロットでどのくらい商売になるかわからない前提でファッションブランドにコミットしてくれる工場がなかなかないという状況で、あるとしたら日本とイタリアだと聞きます。それ以外の多くの国では繊維産業として一定の規模があっても、ほとんどが工業的な大量生産で回っているというのが現状です。こうした背景があるからこそ、イタリアやフランス、ドイツといった国々から学生たちが日本に研修に来るのだと感じています。
世界は「信頼の歴史」「技術者」「糸の開発力」を評価
僕自身、日本のテキスタイルの国際競争力をテーマに研究しています。これまで世界中で日本のテキスタイルを使うデザイナーや経営者に話を聞く中で、いくつか共通して言われることがあります。
当たり前のことかもしれませんが「検品をしっかりしてくれる」「品質が安定しており、汚れや染色むらがないものが確実に納期通りに届けられる」という日本全体が積み重ねてきた信頼の歴史が挙げられます。この「当たり前」を守り続けている点が、皆さん口をそろえて評価している部分です。さらに、昔からある機械を大切にリペアしながら使い続けているのも特徴的です。例えば、シャトル織機や和歌山の吊り編み機など、旧式の織機があって、今も扱える技術者がいることも評価されています。
もう一つ挙げられるのは、東レ、旭化成、帝人を代表する原糸メーカーです。糸だけの輸出額でも800億円ほどに上ると考えられます。この糸の開発力に織る技術、編む技術、加工技術をあわせて日本ならではの唯一無二のテキスタイルが生まれてきています。
福田:日本の産地として海外でも特に有名なのが、岡山、広島の三備産地です。日本のデニムがなぜ世界から高い評価を受けているのか、また篠原テキスタイルのデニムがどのように評価され、取引されているのかについて、篠原さんにお伺いしたいと思います。
篠原:宮浦さんが言われた通りだと思いますが、デニムの場合、まず重要なのは“ブルーの色目”です。どのような色落ちをするのか、その“色の変化”が非常に大事なポイントになります。この色のバリエーションが豊かであること、色が美しく繊細であることが評価されています。さらに、紡績の技術も重要です。経糸の微妙なむら感によって経年変化が異なるバリエーションを生み出します。これに生地のクオリティや品質の高さといった要素が組み合わさり、デニムが世界から評価されているのだと思います。
また、三備産地のデニム企業は創業100年以上の歴史を持つ企業が多いのも特徴です。当社も創業117年目になります。当社は「備後絣」という絣織物から、井原市では「備中小倉」と呼ばれる藍染綿織物から始まり、それが続いてデニムの産地になったという歴史が評価につながっているのだと感じます。
当社の場合、さまざまな織機を活用してデニムを製作しています。例えばシャトル織機やエアージェット織機を用い、従来のアメカジスタイルの綿100%のデニムだけではなく、それ以外の新しいデニムを次々に開発しています。
具体的には、新たに反毛原料とヴァージン綿のブレンドで糸を紡績さんと開発したり、糸を加えたり、カシミヤを織り込んだ生地を特殊な加工によって独自の表情を生み出したりしています。その結果、“これはデニムなのか、それともデニムではないのか”という新しい概念の製品を生み出せることが私たちの強みだと思っています。
当社は、テンセル素材のデニムも得意としています。経糸に風合いの良いテンセル糸を用い、横糸に違う触感の素材を織り込むことで新たな手触りの生地に仕上げています。また、紡績さんと一緒にリサイクルポリエステルを原料を独自にブレンドし、デニム調のポリエステル100%の生地を作ったり、極細番手のナイロンを打ち込んで紙のような質感のデニムを作ったりもしています。こうした“これまでになかったデニム”を生み出す取り組みが、海外からの高い評価につながっているのだと思います。
福田:それでは「有松鳴海絞り」についてお伺いします。名古屋で伝統的に受け継がれている絞り染めの技法を「スズサン」というブランドに昇華させ、世界で高い評価を受けています。現在、売り上げの8割が海外市場からだと伺っていますが、なぜ「スズサン」がこれほど海外で評価されているのか、その理由についてお伺いします。
井上:「スズサン」はクリエイティブ・ディレクターでCEOの村瀬弘行が2008年に立ち上げたブランドです。村瀬は当時、ドイツのデュッセルドルフに留学しており、その地でブランドを創設しました。スズサンの拠点は現在2カ所あり、デザインはドイツのデュッセルドルフで、生産は名古屋の有松で行っています。この2拠点体制がブランドの大きな特徴です。
いくつかポイントを挙げたいと思います。1つ目は、デザインをドイツで行っているからこそ、伝統工芸としてではなく、別の見せ方で海外の市場にアプローチしている点です。例えばパリの展示会で、お客さまが最初に注目するのは素材の良さやデザイン、色の使い方であることが多いです。「素材がいいね」「デザインが素敵だね」という入り口からまず製品に興味を持っていただくことができれば、その後に、伝統工芸としての技術的な背景や産地のストーリーなどお伝えできることは豊富にあります。「スズサン」のデザインの特徴として、アートのように大胆な色や柄の組み合わせが挙げられますが、このように現地の視点を取り入れたデザインが受け入れられているのかと考えています。
2つ目のポイントは「有松鳴海絞り」の製品が全て手作業で作られていて、この手作業による温かみや独自性を感じていただいていることだと考えています。「有松鳴海絞り」は絞り染めの技法です。さまざまな方法で素材の一部を防染し、染めの工程の後に防染された部分を残すことで、素材にデザインを作り出す技術です。例えば、私が着ているニットはグレーの部分が元々の製品の色です。製品の一部を四角い板で挟んで防染し、黒の染料で染色することで、板で挟まれていた部分の元の色が柄として残ります。挟む以外にも、糸と針を使った縫いの技法など、100種類程度の技法があります。
絞り加工は一つひとつ全て手仕事で行うため、一度に生産できる量は限定的です。現在、シーズンに合わせてコレクションを発表していますが、生産量としては、1シーズンで約2500点、年間ではおよそ5000点を目安に調整を行っています。
また、技法によっては柄の出方に表情が生まれることもありますし、プリントのように全く同じ柄を繰り返し作ることはできません。たとえば、25年春夏コレクションのFaceの柄の場合、口の大きさが一つ一つ微妙に異なったり、目の位置がわずかにずれたりすることがあります。こうした一点一点の違いについて、お客さまとコミュニケーションを取りながらご理解いただき、手仕事から生まれる一点ものの製品に愛着を持ってご使用いただけるよう努めています。
最後に、ドイツにも拠点があることでヨーロッパでのビジネスをスムーズに行える体制が整っており、言語のギャップや時差の影響を受けにくい点が強みです。このような体制が海外市場での展開を後押ししていると感じています。
技術継承の鍵は「時代の流れを読み取りビジネスを柔軟に変化させる」こと
福田:皆さん、これで産地のポテンシャルについてよく理解いただけたかと思います。産地とデザイナーがコラボしたり、伝統技法とコラボしたり、さらにはテキスタイルそのものがブランドとして成立したりと、さまざまな角度で日本の産地が世界中から注目を集めています。そして、それがビジネスに繋がっている点が大きな魅力です。
しかしながら、当然ながら良い話ばかりではありません。産地にはいくつかの課題があります。ここからは、大きく2つの課題についてお話ししたいと思います。1つ目は事業承継について、2つ目は欧州の規制対応についてです。まず、事業承継についてですが、これは日本全体で大きな問題となっています。後継者がなかなか見つからず、そのために廃業を余儀なくされる会社も少なくありません。一方で、篠原テキスタイルさんのように、若い世代が積極的に事業を引き継ぎうまく次世代に繋げていくことで、何代も続いている会社も存在します。
篠原:当社は創業から117年が経過しており、私は5代目になります。元々はさきほどもお話ししたように「備後絣」の手織り物から始まり、アフリカ向けにエンブロイダーマフラーというターバンの生地のようなものを織っていた時代がありました。その後、学生服用の生地を織る時代を経て、現在はデニムの生産を行っています。このように、時代に合わせて織物を変化させながら続けてきた中での事業承継になります。
私たちは3兄弟で会社を運営しており、私が代表を務め次男が営業、三男が現場管理を担当しています。それぞれ役割を決めてこれから30年、50年先に何を織っていくのかを考えながら進めています。「事業承継で何が大変だったか」と聞かれると、特に大きな困難はなかったと言えます。現状を受け入れつつ、徐々に変化させていくことを常に考えながら進めてきました。ただし、これまでの117年も織る物が時代とともに変化しているため、現場の技術は日々進化、改善が必要になってきています。
例えば「今までの機械ではこんな糸織れない」というケースでは機械メーカーと相談して改造をする必要がありますし、シャトル織機も40年前の機械を使っていますが、そのメンテナンス方法など、ベテランの職人から若手へ引き継ぐ時期に差し掛かっています。そのため職人さんが感覚で行っていた作業を動画に記録し、マニュアルを作成することに取り組んでいます。また、メーカーに存在しない部品は地元の鋳造メーカーさんや、金属加工メーカーさんに依頼して作ってもらうなど、周りの企業さんに助けていただきながら体制を整えています。新たな素材開発に向けて、こうした取り組みに最も時間を取られているかもしれませんね。
福田:篠原さんのお話を伺っていると、時代の流れを読み取りニーズに合わせた事業を展開し、ビジネスを柔軟に変化させていくことが非常に重要なポイントだと感じました。一方で、産地を訪れると後継者がいないという問題が多く聞かれます。このような問題に直面する中で、産地にさまざまな人を呼び込むためにどのような具体的な取り組みが行われているのかも気になるところです。産地活性化のためにどのような活動がされているのかについて、宮浦さんの視点から効果的な事例や取り組みをぜひ共有いただければと思います。
宮浦:十数年、教壇に立ちながら教えてきましたが、自分の教え子が産地に入ったり、自分たちで運営しているスクールを通じて多くの若い世代が産地に携わるようになってきました。もちろん、若い人だけではなく年齢を問わず産地に入る方もいらっしゃいます。産地での仕事は良くも悪くもアナログで、手触り感があります。そのリアルさに魅了されて産地に飛び込む人が多いように感じています。都会で仕事をしていたけれど、見学に行った際に産地のポテンシャルを感じて信じ、そこに飛び込む。そしてその魅力に取り込まれ、夢中になっていく。そんな流れが多く見られます。
そして、そんなIターン勢の姿を見た継ぐ気がなかった社長のお子さんたちが自分の会社に未来を感じたり、若い世代が入ってきていることを目の当たりにしたりすると責任を感じて経営者として戻るといった事例も最近増えています。
ただ、産地の魅力は言葉だけでは伝わりにくい部分があるので、いかに現地に足を運んでもらい、体験してもらうかが大切だと感じています。例えば、学生であればどんどん現地に行ってほしいですし、今日この場にいる何百人もの方々の中で産地に興味を持った方がいれば、ぜひ僕と一緒に産地を訪れてほしいなと思っています。
福田:皆さんも最近始まった「オープンファクトリー」という取り組みをぜひ見に行っていただければと思います。産地が開かれた形で見学できる機会が増えていますので、実際に足を運んでその魅力を感じていただければと思います。
そして、同じく産地である有松に関わられている井上さんですが、長い歴史を持つスズサンの家業をご覧になって、事業承継の難しさについてどのように感じられているか、ぜひお話を伺いたいと思います。家業を受け継ぐという点で、具体的な課題やその捉え方について教えていただけるとありがたいです。
井上:宮浦さんのお話されていた、血の通った、リアルな仕事というところに共感します。昔の街並みの残る、東海道沿いの有松では朝や夕方に綺麗に陽が入り、とても美しい景色が広がります。そんな光景を思い浮かべながらお話を伺っていました。
入社してから感じているのは、産地に対してポジティブな影響を与えるということについて、ブランドだからこそ担える役割があるいうことです。2つの側面があります。まず1つ目は「有松鳴海絞り」の分業制についてです。「有松鳴海絞り」はもともと1つの技法を一つの家族が代々受け継ぎ、分業制で生産を続けてきました。分業制は大きな需要を背景に大量生産が求められた時代には効率的だったのですが、手ぬぐいや浴衣の需要が低迷し、職人を辞める家族が出てきました。その結果、失われた技法も多くあると聞きます。技術の喪失によって将来ものを作れないという状況が生じる恐れがありますし、需要をコントロールできないとビジネスも安定しません。この状況に対して、「スズサン」ではブランドであることを生かして、自律的に国内外に市場を作り出せるように努めています。また、技法の喪失によってものづくりができなくなるという状況を防ぐため、自社工房を設け、13人の職人によって「有松鳴海絞り」の工程を一貫して生産できるような体制を構築しました。
2つ目は、BtoCのブランドビジネスには、自分たちのブランドストーリーと組み合わせて、産地のストーリーを直接伝える力がある点です。有松は1608年、東海道が整備された頃にできた村で、農業が適さない土地でした。そこで東海道を行き交う旅人が多いことに目を付け、旅の必需品である手ぬぐいに絞り染めでデザインを施し、ユニークなお土産品として販売したことが「有松鳴海絞り」の始まりだそうです。このような産地のストーリーをブランド独自のストーリーと組み合わせ、再編集してお客さまに伝えていくことができます。
また、留学中にラグジュアリーブランドを考える際には、「比較」ではなく「絶対」の独自性を作り上げることが重要だということを学びました。背景にある地域のストーリーと組み合わされたブランドストーリーは、絶対的な独自性を説明しやすく、相互作用的にブランドの価値を高めることにもつながると思います。
欧州の規制への対応、分業制が課題のひとつ
福田:事業承継における変化や仕組みの必要性について、非常に貴重なお話をありがとうございました。事業承継は産地の課題の1つとして重要なテーマですが、最近ではもう1つ注目されている課題が欧州における規制対応の問題です。たとえば、環境負荷情報の開示が求められることや、欧州で指定の認証を取得しなければならないといった課題が、産地の企業からよく聞かれるようになっています。次に、この規制対応についてお話を伺いたいと思います。まずは舟山さんにお伺いしたいのですが、デザイナーや作り手の目線で、サステナビリティがますます制約条件として浮上している現状について、どのように向き合いどのように感じていらっしゃるか、その現実についてぜひお聞かせいただければと思います。
舟山:この質問を受けたときに率直に思ったのは「デザインの規制」とまではまだ感じていない、ということです。現在の日本のマーケットの状況だと、サステナブルな基準を満たしていなくても良い製品であれば売れてしまうという現状があるように感じています。
私たちのような小さなブランドでは環境に配慮された素材を新しく開発するような規模感はありません。今すぐできることとして、ブランドとしては約8割の素材を少しでも環境に配慮されたものにシフトする取り組みを行っています。たとえば、よく作るチュールの商品ではバージンポリエステルからリサイクルポリエステルに切り替えました。
生地屋さんと商談するときには、「環境に配慮されたこういう素材はありませんか?」と積極的に話をしています。小さなブランドでも需要があることを生地屋さんに伝えていければと思っています。まだ少しずつではありますが、取り組みを進めているところです。
福田:非常に現実的なお話で、状況がよく理解できました。他方で、産地ではさまざまな課題が浮上しているということで、このあたりについて詳しい宮浦さんに規制対応や認証の現状についてお伺いできればと思います。
宮浦:皆さんのお手元に「サステナビリティ用語」を特集した「WWDJAPAN」があると思います。これを開いていただくと、聞き慣れない言葉がたくさん並んでいるのがわかると思います。ここ数年、環境保護の観点などから認証の種類が急速に増えたため、産業全体がその変化についていけていないのが現状です。さらに産地の多くは分業制が基本で、家族単位で運営している小規模な事業者も多いです。そういった事業者がサプライチェーン全体で協力し、全ての情報を開示しなければならないような認証制度に対応するのは非常に難しい状況です。
特に、綿や麻、ウールといった短繊維を扱う産地は原料の種類が多岐にわたるうえ、農場や農業の問題にも関わりサプライチェーンが長く複雑です。このためどの認証を取得すべきか判断するだけでも産地全体が対応しきれていないのが現状です。
当社でもヨーロッパ、アメリカ、アジアなどに製品を輸出していますが、最近では輸出が厳しくなっていると感じています。
福田:ありがとうございます。輸出が厳しくなっているというお話がありましたが、デニムはご存じのとおり、多くが輸出されている産品です。そんなデニムの生産地として有名な岡山や広島を中心とした三備産地では、どのように認証対応を進めようとしているのか、ぜひ篠原さんに伺いたいと思います。
篠原:三備産地では一貫生産を行っているような大規模な工場ではすでに複数の認証、例えばGOTS認証や、OCSを取得している会社もあります。ただ、当社のようにリーダー系中小規模の工場の場合、認証を取ろうとするとサプライチェーン全体の協力が必要になりますし、それに伴う費用も大きな負担となります。この課題をどうにか解決しなければならないと産地内で勉強会を開催し、「GOTS認証を取るにはどうすればいいのか」「OCSを取得するための具体的な取り組みは何か」などを共有し協力を求めています。
先日も、ブルーサインのお話を伺う機会がありました。認証取得に向けて前向きに動いているものの、まだ取得に至っている企業は限られています。また、認証とは別にサプライチェーン全体をまとめるような生産管理システムを構築し、トレーサビリティを確立しようという動きも進めています。このシステムにより、製品のトレーサビリティを開示できる体制を整えようとしています。
さらに、認証の中で特に重要とされる「働く方の労働環境」の改善にも注力しています。職場環境の改善を目指す動きが三備産地でも大きく広がりつつあります。
「循環型・再生型」を目指す動きも 「デニムの循環」と「クラフトツーリズム」
福田:このように産地としてさまざまな課題を抱えていますが、前半でお話ししたとおり、大きなポテンシャルを秘めており、海外からも非常に注目されています。そして今後という観点では、繊維産業だけでなく地域全体の魅力を活かし、観光やインバウンド需要とも連携しながら、産地を成長産業へと押し上げていくことが重要ではないかと考えています。
もう1つお話ししたいトピックがあります。それは、このセッションのテーマでもある「循環型・再生型」についてです。グローバルでは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の文脈の中で、いかに循環型の社会を実現していくか、そしてその先に地球を再生させる「リジェネレーション」(再生型)の仕組みへ移行していくか、といったテーマが非常に重要視されています。
今後、先ほど申し上げた「産地を盛り上げる」という観点から考えますと、この循環型や再生型といったコンセプトをどのように産地の取り組みに取り入れていくかが非常に重要なポイントになるのではないかと思います。このような新たな視点が産地の発展において鍵を握ると感じています。そこで、少しこの分野の取り組みについてお話を伺いたいと思います。井上さん、スズサンで行われている循環型の取り組みについてお伺いできればと思います。
井上:私たちスズサンは、ものづくりにおける透明性を高めることはもちろんですが、特に「技術を次世代に繋げていく」という視点を強く意識し、そこにフォーカスを置いています。その観点から私たちが考える「循環」についてご紹介させていただきます。
現在、私たちが力を入れている取り組みに「ツーリズム」と「まちづくり」があります。先ほども少し触れましたが、「有松鳴海絞り」は全て手作業で行われており、生産量には制限があります。年間で約5000点を生産しているため、ブランド設立直後の数年を除いたとしても、10年間で約5万人のお客さまに、有松から製品を届けてきたことになります。また、その約8割は海外のお客さまです。
このように、製品を媒介にして世界中のお客さまとコミュニケーションを行ってきたということを私たちはとてもポジティブに捉えています。そこで、これまで有松から世界に向けて製品を届けてきたことの反対に、次のステップとして有松の地にお客さまを招き入れる取り組みを進めています。有松で「有松鳴海絞り」の技術や歴史、その背景にあるストーリーを直接知っていただき、文化的な違いや言語の壁を越えた新たな「共感」を生み出していきたいと考えています。
このように、製品を媒介として地域の文化や伝統技術を伝えていくことは、有松に限らず、他の産地にも転用可能なアプローチであり、それぞれの地域の独自性を発揮しやすいフィールドだと考えています。
福田:すでにさまざまな取り組みをされているとのことで、素晴らしいと思います。この「循環型」「再生型」というコンセプトについて、ぜひ作り手のご意見も伺いたいと思っています。最近では、ステラ・マッカートニーのように再生型の視点まで踏み込んでものづくりを行っているブランドも登場しています。このような動きについて、舟山さんはどのようにお考えでしょうか。ぜひご意見をお聞かせいただければと思います。
舟山:少し話が逸れるかもしれませんが、ものづくりを始める際に「ゴミを作りたくない」という思いがありました。この世の中にはすでに多くのブランドや物が溢れている中で、自分が新たに何かを作るのであれば、価値のあるものを作らなければならないと感じたんです。価値のあるものであれば、お客さまに長く愛用していただけますし、その後ヴィンテージとして新たな価値を持つ可能性もあります。
ブランドとしては、個別でお客さまのお直しのご相談に出来る限り対応するようにもしています。新しいものを作り続けるだけでなく、既存の製品を長く愛用していただけるようにすることにもフォーカスしたいと考えています。
今後取り組みたいことは、古着のアップサイクルやデッドストック素材の活用があります。日本らしくて素敵な素材がたくさん眠っていると思います。それらは簡単に作られたものではなく、非常に多くの時間やコストがかけられて作られたものです。これらを無駄にせず、新たな形で活かしていきたいと考えています。ただ、現段階ではまだ手探りの状態ですので、ぜひ繋いでいただきたいです。
福田:おっしゃる通り、日本の産地を訪れるとデッドストックの素材が本当にたくさんあることに気づきますよね。こういった素材がより循環する仕組みができれば、循環型のモデルというものもさらに大きな広がりを持つ可能性があるのではないかと感じます。そこで、このテーマに関して産地のリアルな意見もぜひ伺いたいです。篠原さん、例えば端材の活用などについて、三備産地ではどのような循環型や再生型のモデルが試されているのかを教えていただけますでしょうか?
篠原:循環型や再生型という観点では、まず使用する素材をオーガニックやリジェネラティブコットンのような環境負荷の少ないものに切り替えた商品開発を進めています。しかしこういった素材を使用しても、生産過程でどうしても端材が出てしまいます。そこで、余った糸を活用して靴下に編立ててアップサイクル製品として販売したり、通常の流通ラインを活用した製品を地元の販売店さんで売ってもらうといった取り組みを行っています。
地域全体での取り組みとしては福山市と同業他社が協力し、福山市内の家庭から不要になったデニム製品を回収し、それを反毛(はんもう)して糸を作り新しい生地に生まれ変わらせ、地元企業の制服として活用いただくプロジェクトを行っています。こうした活動への参加企業も増えてきており、来年には回収拠点がさらに増えて福山市内での循環の輪が広がることを期待しています。
地域でものづくりを続けていくために、「これから何をすべきか」を常に考えながら活動しています。ただし、繊維産業やデニム産業だけに限定して考えるのではなく、家具や食品など他の製造業とも協力しながら、地域全体の在り方を再考して新しい形に編集し直して発信していくことが重要だと考えています。
そのために、私たちは「デニムのイトグチ」というデニム産業に携わる若手メンバーで構成された新しいグループを立ち上げ、情報発信や勉強会を開催しています。また、隣の府中市でHOTEL SMOKEという地域商社が新しく立ち上がりました。これは、2019年に始まったオープンファクトリー「瀬戸内ファクトリービュー」のメンバーが、地域文化の魅力を深堀し世界へ発信するという目的で設立したものです。こういった方々と連携し、この地域を再び編集し直して発信していく活動を今後も続けていきたいと思っています。
福田:循環型や再生型といったコンセプトは現在、世界中から求められており今後日本でもさらに広がっていくべき重要なテーマだと考えています。というのも、江戸時代の江戸は実は循環型社会の見本だったと言われています。
当時はさまざまなものが循環しており、繊維だけでなく食や農業など幅広い分野で資源を無駄なく活用し、環境負荷を抑えた社会が築かれていました。このように日本人は元来、循環型社会の概念に親和性が高く、この分野で世界をリードする素養を十分に持っているのではないかと個人的には感じています。
繊維産地を一つの起点として、日本が循環型社会の構築において国際的にリードを取る存在となることを夢見ています。そのような未来を思い描きながら、今回のセッションを締めくくらせていただきたいと思います。
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来場者とのQ&Aセッション
質問者1:気づきが多く参考になることが多く、素晴らしい企画だと思いました。私の生まれは有松のすぐ近くの鳴海という町です。「有松鳴海絞り」の産地として有名な場所で、私も小さい頃からその文化に触れながら育ちました。お隣のおばちゃんや親戚のおばあちゃんが、一生懸命に手で絞っている姿を目の前で見ていたことが思い出され、とても懐かしい気持ちになりました。お話を伺って驚いたのは、ドイツ・デュッセルドルフを拠点にクリエイティブ活動をされ、海外の売上が8割にも及ぶということです。私が幼少期に見ていた風景と重ね合わせると、産地やものづくりがここまで変化し、発展していくことに感嘆しました。本当に素晴らしいことだと思います。
私が住んでいた鳴海の町も、江戸時代の東海道の名残が今でも所々に残っています。そうした風景を思い浮かべながら、伝統の大切さを改めて感じました。自分たちの持つ伝統や技術を大切にし、上手に活かしていくことで、それが世界と繋がりさらに広がっていく。お話を伺いながら、私自身そのように強く感じました。どうぞ、これからも素晴らしいお仕事を続けていただき、日本の産地の発展のためにますますご活躍されることを心より期待しております。ありがとうございます。
実は昨日、伊勢丹新宿店に伺った際に「フェティコ」のポップアップを拝見しました。一つひとつの製品をじっくりと見させていただきましたが、本当に素晴らしいセンスですね。私が言うのも何ですが、お店の担当者の方とお話した際にも「このデザイナーさんは本当に素晴らしい才能をお持ちです」と強調されていました。その担当者の方も深くうなずいておられ、本当にその通りだと思いました。
昨日の今日ですから、なおさら印象が強く心に残っています。舟山さん、ぜひこれからも素晴らしいデザイン活動を続けていただき、日本の産地の方々と力を合わせて、この素晴らしい文化をさらに盛り上げていってほしいと心から願っています。ありがとうございました。
質問者2:承継について。イタリアやドイツ、フランスの学生が日本で学んでいるという話でしたが、外国の方は日本の伝統を承継したいと技術を持ち帰りたいとやってくるのでしょうか。日本の伝統を続けていきたいという話は出ていますか?のれん分け的なことは可能なのでしょうか。
宮浦:承継しよう、技術を残したいという感覚よりもリスペクトして学びに来ている方が多い印象です。
篠原:当社は日本人だけですが、産地の中ではデニム好きでフランスから来て働いている方がいます。織物屋で「のれん分け」は今のところ見当たらないですが、縫製工場では独立して立ち上げる動きはあります。学生が興味を持ち工場見学や産地で働いてみたいという話もあります。「のれん分け」は可能性としてはなくはないと思います。
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冒頭の篠原テキスタイルの映像はZOZONEXTから提供