昨年40周年を迎えたビームス(BEAMS)は、 “ハッピー・ソリューション・カンパニー”を掲げ、さまざまな異業種コラボやユニークな企画など、ファッションを軸にしながらもその枠にとどまらない活動をしている。国内約150店舗を運営する他、香港や北京、台北、バンコクにも出店するなど、海外にも進出し、17年2月期の売上高は744億5000万円。そんなビームスの新卒採用基準とは?人事本部人事業務部の吉野亮さん(以下、吉野)に聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):来年4月入社の採用活動はすでに終了したそうですね。何人の採用が決まりましたか?
吉野:今年は過去最多の100人強に内定を出しました。
WWD:過去最多ですか。もともと予定していた人数ですか?
吉野:今後事業拡大を図るにあたり、昨年の倍近く採用する計画でした。
WWD:売り手市場だったと思いますが、倍というのは大変ではなかったですか?
吉野:そうですね、非常に不安でした。
WWD:実際蓋を開けてみてどうでしたか?
吉野:応募数は例年並みでひと安心でしたが、内定のハードルが下がってしまうのではないかというのが心配でした。ですが、実際に内定者の方たちを見てみると、むしろ例年よりビームス愛が強い人たちが集まったかな、と感じています。
WWD:そもそもどういう人材を探しましたか?
吉野:まず大前提として、ビームスが好きな人です。あとは、自分の好きなことを追求できる人。社長の設楽(洋)も「努力は夢中に勝てない」とよく言っています。どんなことでもいいのですが、のめり込んだ経験のある人ですね。それでいて、いろいろなことに興味を持てる柔軟性も重視しています。さまざまな知識や感性の持ち主が集まって、新しいことに取り組んでいきたいので、素直に吸収できる資質も大事だと考えています。
WWD:ビームス好きというのは、やはり分かりますか?
吉野:分かりますね。表面的にお店だけを見ている人と、会社としてどんなことをしていて、自分もこういうことがしたいという具体的なイメージまで語る人とでは、明らかに伝わってくるものが違います。
WWD:何かに夢中になったことがある人というのは、具体的にどんなことに夢中だったりしますか?
吉野:ダンスが好きで著名アーティストのバックダンサーだった人や、「Sex and the City」が大好きでずっと観ていたら英語がペラペラになったという人など、対象はさまざまですが、何かにグッと入っていける人は面白いですね。
WWD:ところで、過去最多の採用数を達成するために人事部としては何か特別な仕掛けや努力をしましたか?
吉野:例年は書類選考で10分の1くらいに絞って面接をしていましたが、今回はそれを非常に広げまして、できるだけたくさんの人に会うようにしました。
WWD:会う人を増やしたんですね。
吉野:そうです。1次面接だけ1対1なので、一人10分。人事部6人で1週間に1000人を面接しました。
WWD:壮絶ですね……。
吉野:そうでしたね……。ですが、やはり紙だけは分からないことも多いので、取りこぼしは少なくなったと思います。2次以降は各部署から面接官を集めて、4次面接では副社長が同席します。
WWD:採用は面接のみですか?
吉野:はい。1次と2次の間に一応ウェブテストをしていますが、それは合否には関係なくて、あくまでだいたいの学力とパーソナリティー診断を見るためのものです。
WWD:努力の甲斐あって、最多採用の目標は達成したわけですが、今後出店を増やすということですか?
吉野:店のオープンもありますが、今後海外市場にも力を入れていこうという方針なので、先々そういった事業に携われるような語学力が高い人も、例年より積極的に採りました。
WWD:今年4月に入社した新卒は何人ですか?
吉野:58人です。うち男性は20人です。
WWD:アルバイトから入社の人もいますよね?
吉野:はい。10人ちょっと。
WWD:必ずしもアルバイトからの人が入りやすいというわけではなさそうですね。まずは全員店頭からですか?
吉野:基本的に最初は店頭です。厳密に言うと、物流部門の採用者以外は全員です。
WWD:物流枠もあるのですね。
吉野:あります。今年は1人内定を出しています。
WWD:新入社員研修ではどんなことを行いますか?
吉野:全国から原宿に集まっていただき、人材開発部が2週間一斉研修を行います。正直、弊社には明確な接客ルールやマニュアルがないので、接客については本当に基本的なこと、一連の流れやラッピングなどですね。あとはサービスマスターという接客のスペシャリストが心構えなどを話したります。他に、新入社員がさまざまな部署にインタビューして、互いに各部署の仕事内容をプレゼンするなど、割と自分で考えて行動するワークショップ的なことをやります。
WWD:本当に接客マニュアルがないんですか?
吉野:ないんですよ。マニュアルもノルマもないので、皆が思い思いのスタイルで接客をしています。そこが弊社の面白さではあるかなと思っています。
WWD:研修旅行もありますか?
吉野:はい。新入社員は毎年リゾナーレ八ヶ岳で1泊2日で行っています。新入社員同士の親睦を深めることはもちろんですが、社長や副社長なども同行するので、一人ずつ決意表明をしてもらったりします。今年の新入社員はコミュニケーション能力が高くて、いろいろな部署の人とも仲良くなっていましたし、出し物もしてくくれたんですよ。
WWD:それはこちらからの働きかけで?
吉野:一応そうですね。「夜の食事の場をあなたたちで仕切ってください」とお題を出したところ、引率者をエスコートしてくれて、舞台の上でミュージカル風の出し物をしてくれました。しかも15分くらいの、すごい完成度のものを。それを見ながら僕らは楽しく食事ができました。
WWD:サービス精神と団結力が問われますね。そこで皆仲良くなって、全国の売り場に配属されるのですね。その後は即店頭ですか?
吉野:はい。半年間はトレーナーが付いて、業務を教えます。また、月に1回、トレーナーとマネジャー、スーパーバイザーと人材開発部研修担当の計4人で「あなたの進捗はどうですか? 悩みはありますか?」といったことを面談します。
WWD:4人がかりとは、随分手厚いですね。
吉野:そうですね。そうやってケアしながら成長を見守ったり、補助したりする制度があるので、割と壁にぶつかりながらも真っ直ぐ成長するように思います。
WWD:福利厚生などで特筆すべきものはありますか?
吉野:独自なものとしては、海外個人研修制度です。個人のプライベートな海外渡航について、5万〜10万円を補助するというものです。ファッションに関わりの深い土地限定で、年間の制限人数もありますが、非常に人気です。軽いレポートの提出がマストになります。
WWD:5年目くらいになると店長クラスになったりしますか?
吉野:5年目で店長クラスは正直難しいです。弊社は昇進スピードが早くなく、初めて役職が付くのが最低5年目くらいからです。
WWD:ちなみに初めて付く役職とは?
吉野:次長職ですね。5年目くらいですと、店舗のVMDや棚卸担当、新人のトレーナーになったり、人によっては国内外の展示会のバイイングに同行するようなこともあります。
WWD:異動の希望は出せますか?
吉野:はい。半年に一度の考課表提出の際に異動の希望について書くことができます。人事が責任を持って全て確認し、ニーズや適性を考えて異動を決めます。
WWD:バイヤーになりたい人が多いと思いますが、なかなか席は空かないですよね?
吉野:そうですね。バイヤーは基本的にバイヤーからの指名がほとんどです。弊社の場合、バイヤーも週1回くらい店頭に立つので、その際に店頭のスタッフとコミュニケーションをとっていて、適性のありそうな人を展示会などに同行させます。そういった際に適性を確認し、いざ必要なタイミングになったら声を掛ける、というパターンですね。
WWD:四大卒の初任給はいくらですか?
吉野:20万円です。
WWD:5年目くらいで役職が付くか付かないかということでしたが、昇給はどのように決まりますか?
吉野:具体的な数字は決まっていませんが、年度ごとに全員一定の金額が上がります。ボーナスも毎期ごとにベースアップしますし、役職が付けば当然役職手当が付きます。
WWD:つまり基本的に毎年増えていく?
吉野:そうです。この他に、月の予算を達成した店舗は報奨金がもらえます。加えて、年に1度、売り上げや客数など総合的に判断して優秀な販売員を表彰し、副賞として賞金を渡す制度もあります。
WWD:なるほど。定期ベースアップがありつつ、頑張りによってはさらに給料をもらえるというわけですね。新卒入社3年目の定着率というのは、どのくらいですか?
吉野:調べてきたのですが、15年の新卒入社が37人で、退職したのは3人でした。
WWD:すごく、すごく少ないですね。
吉野:そうなんです。初めて数字を出してみて、私たちも驚きました。さすがに少ないので、僕の同期で入社5年目を調べたところ、63人中退職者は16人でした。そもそも社全体で離職率が3〜4%なので、低いと思います。
WWD:本当に低いですね。離職率の低さについて、その要因は何だと考えますか?
吉野:一番の理由としては、そもそもビームスのファンを採用している点にあると思います。ビームスが好きだからこそ、ある種誇りを持って働いているため、長く続く社員が多いです。また、先ほどお話しした入社後半年間のチェックリスト面談によって新入社員一人ひとりのケアが十分に行われていること、やりたいことに手を挙げてチャレンジできる社風なため、社員のモチベーションの低下を防いでいる点も大きいと思います。あとは、ママ社員の働きやすい環境作りに努めているので、時短勤務や子育てについて職場での理解があり、育休後復職しやすい点ですね。
WWD:出産後の復職も多いですか?
吉野:今、女性社員の24%がママ社員です。もともとママ社員が働きやすくなる制度作りには力を入れているのですが、これだけの割合になってくると、復職しづらい空気もないと思います。そういう点も働きやすさの要因になっているのではないでしょうか?
WWD:ちなみに店頭での販売スタッフの衣装代補助や社員割引はありますか?
吉野:まず、コーディネートの全てがショップで売っている商品である必要がなく、トップス、ボトムス、シューズのうち、2点のみで良いことになっています。ですから、自分の好きな服も着ることができます。弊社で扱っている商品の購入については割引がありますが、率は内定が出てからお伝えしています。内定してからのお楽しみです。