ファッション

顧客からビジネスヒントをもらうUA岩野マネージャーの「UA愛」

 一着の服ができあがるまでには、デザイナー、パタンナー、素材を作る人、縫製する人など多くの人が関わり、でき上がった服は販売員が売る。その橋渡しとなる役目を担う営業マンは日が当たることは少ない。ファッション業界にいるたくさんの営業マンが日々、デザイナーをはじめとした多くの人が作った服を、一人でも多くの消費者の手に渡るよう奮闘する。実際、ファッション業界の営業マンのお仕事とはどういったものなのかーー。

 平成時代を振り返ると、ファッション業界にそれまで存在しなかった新たな文化、ビジネスモデルがセレクトショップだろう。欧米をはじめとした海外への憧れを、ファッションを通して表現したショップで、多くのファッション好きを生み出した。ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS以下、UA)の岩野徳郎・第一事業本部新規開拓担当マネージャーはそんなファッションを愛する一人。しかもUAに対する情熱は人一倍だ。同社には、いわゆる営業職と呼ぶ職種はないが、ライセンス展開やデベロッパーとの交渉などを担当してきており、社内外の“交渉人”を担ってきた岩野マネージャーのお仕事術とはーー。

WWD:まずはじめに、UAに入社した経緯を教えてください。

岩野徳郎・第一事業本部新規開拓担当マネージャー(以下、岩野):きっかけは、成人式のネクタイを探しにUAの名古屋店に行ったことだと思います。今もいらっしゃる方に接客をしてもらって、その接客がすばらしくて。ネクタイ1本を選ぶだけだったのに、本当に親身になって接客していただき、心に響いていました。いよいよ就職活動というときに、ただ漠然と「好きなことを通じて、人を幸せにできたら」という思いがあったんですよね。それを思った時に、あの時の接客が蘇ってきて。野球も好きだったので、ファッション業界か球団に入るか悩みました。ファッションは洋服だけでなく、美しさというか高揚感とか、野球よりも幅広い人に感じてもらえるのではないか。100人より200人、200人よりは1000人に届けたい。そう思うと、ファッションがいいなと思ったので、UAを受けたんです。そしたら見事に書類審査で落ちてしまって(笑)

WWD:え!落ちたんですか?

岩野:実はUAしか受けなかったんですよ。成人式の接客体験もそうなんですが、UAのショップの本気度が違うなと思っていて。品ぞろえもそうですが、レイアウトの美しさとか。あと、あんまり言いたくないですけど、当時の洋服屋さんってなんかちょっと上から物を言われるような気になって。「これはこうだよ」「この合わせはダメだよ」みたいな……。そういうところが多かった中、UAはちょっと違って。それこそネクタイを買いに行って、着ていたスーツを褒めてくれたり、合うスタイリングを教えてくれたり、さらには「うちじゃなくても、ほかの店でも買えますよ」とか言ってくれたり。だからUAだけに絞って、会社説明会に行きました。説明会は2000人ぐらい集まっていて、結果、採用は10人ぐらいの狭き門でした。でも、絶対入社するしかない、という強い気持ちで臨んだんです。でも落ちた……。ショップに行って「落ちました」と話したら、「アルバイトからでもなれるよ」って聞いて、「あ、そうなんだ!」って(笑)。それで大学4年からアルバイトで入りました。

WWD:名古屋から、横浜店、その後、原宿本店メンズ館に異動になったんですよね?今につながるエピソードはありますか?

岩野:アルバイトで入って半年後に社員になって、その半年後に横浜店に異動になりました。それまで路面を中心に展開していたUAが、ターミナルのファッションビルに入る第一号店の横浜店は、社内でも大きな反響がありましたが、自分から「横浜に行きたいです。チャレンジさせてください」とお願いしました。路面よりも当然ですがトラフィックがあるので、大勢の人を幸せにできると思ったんです。それから一年足らずで原宿本店メンズ館に異動になりました。実は異動したくなかったんです。先ほどの話じゃないですが、当時の時代背景からも、分かる人に分かってもらえたら、という考えも原宿本店にはあったように思います。異動後、多くの人にUAの良さを分かってほしく、会社にもいろいろ意見していたので、たぶん生意気だったと思います(笑)。原宿本店での販売員時代が一番辛かったかもしれないですね。

WWD:どう辛かったのですか?

岩野:原宿はいわゆるセレクトショップの“本場”ですから、ターミナルの店舗のやり方では、やることなすこと注意されました。

WWD:従ったんですか?

岩野:反発するんだったら、売り上げを取ろうと、実績を残そうと思って。一年間、相当頑張ったんです。そしたら売り上げで一番になったんですが、それは意外と簡単なことでした。

WWD:簡単だったんですか?

岩野:当時は、お客さまに委ねるスタイルで、積極的な声掛けはしていなかったんです。地下1階にあったメンズドレスフロアにいたんですが、原宿本店の地下に降りて来る人って、ふらっと来たのではなく、相当買いたくて来ていた人が多かったと思うんです。だから、きちんと声を掛け、接客すれば購入してくれました。

WWD:そこで学んだことは?

岩野:やっぱり、「美意識」というところなんでしょうか。ホスピタリティーの精神は当然、ターミナルの店舗でもすごく意識していましたし、お客さまのお役に立ちたいという思いはありました。でも、そこに高揚感とか、美しさという、言葉使いだったり、所作だったり、立ち居振る舞いだったり。メジャーの垂らし方、ショッパーの渡し方も美しくて……。例えば、お客さまの正面に行ってショッパーを渡すのか、横に行って渡すのか。お客さまと同じ方向を向く、横に行ってショッパーを渡す方が、安心感が違います。「何かあったらおっしゃってくださいね」という言葉が、全然違って伝わるんです。お客さまに安心感、信頼を買っていただくんだな、お客さまが持って帰っていただくものが違うんだな、というのはとても勉強させていただきました。

WWD:原宿本店メンズ館の店長を経験し、その後本部に異動になり、ライセンス事業や外商などを担当されましたね。

岩野:より深いサービスを追求しようとなった時に、束矢クラブといった会員制のVIP対応の部、外商の部隊ができ、そこのお客さまは原宿本店の方が多かったことから店長から異動になったんです。そこでの仕事はよりパーソナルな関係かもしれません。食事などをご一緒したりすると、だんだんとその人の役に立ちたくなってくるというか、洋服の販売にとどまらず、「今度、家の模様替えをしようと思うけど、どういったレイアウトがいいと思う?ラグは?」とかと頼ってもらえるようになりました。そこから学ぶことがすごく大きかったんです。ファッションの力というか、ファッションを通じてここまで価値観を広げられるのかと。すごい力だなあと思いました。

WWD:信頼されているからこそのエピソードですよね。

岩野:そうですね。信頼ですよね。先ほどのショッパーの話と一緒だと思うんです。どこまでお客さまと信頼関係が結べるか。

WWD:そこから派生したエピソードはありますか?

岩野:外商や束矢クラブでは、やはり会社経営者が多かったんです。信頼関係が深まるとなんですが、「営業の仕事は第一印象も重要だから、うちの子たちにファッションを教えてやってほしい」と言われて簡単なセミナーを行ったりしていると「うちの会社の制服やれないかな?」とつながって。そこから法人外商が始まって、“営業”のような仕事になったと思います。でも、僕の中では、普通に接客していた延長線なので、これが営業とは思ってないんですけど。

WWD:法人営業で獲得した案件は?

岩野:サッカーチームのユニホームや、企業のノベルティーなどを作りました。それも外商や会員の方から、「うちが満足しているし、ほかの会社でもやれるんじゃないの?こういうのビジネスにした方がいいと」と教えていただいたんです。自分から売り込みに行くというのは実はあまりなく、お客さまとのつながりがほとんどで……。またお客さまから、「ECに窓口を作ったらいいんじゃない」とアドバイスをもらって作ってみたら結構、問い合わせが結構来たんです。制服やほかにもいろいろ作ってほしいと問い合わせが来ました。

WWD:ガツガツとした営業ではなく、やっていた仕事の延長線上で仕事が回って来るってすごいですね。

岩野:それはやっぱり、弊社が本業でしっかりブランディングをやってきたからだと思います。企業理念として、「真心と美意識をこめてお客様の明日を創り、生活文化のスタンダードを創造し続ける。」とあるのですが、それをしっかり捉えたビジネスをやっていることが、弊社と組んでビジネスをやれば、新しい価値を生み出せると思っていただけているんだと思います。

WWD:その後、ライセンスビジネスの担当になったのですね?

岩野:餅は餅屋じゃないですが、専門性を持つところと、弊社が持つ審美眼が掛け合わさることで、新たな価値を生み出せるのではと。ライセンスでは、洋服よりはタオルやシューケアグッズなど小物や雑貨を中心に展開しました。もともと得意なところと組むことで、それまでのUAではない販路へも広がり、新しいお客さまも獲得できマーケットを拡大することができます。これから、ギフトカタログも誕生しました。

WWD:ライセンスビジネスで苦労したことは?

岩野:当時は3人いて、僕はトップではなく営業担当だったんです。その3人でよく話をして、どういうところと組むのが良いかを考えたり。組む企業さんと弊社で、目的は同じですが、ビジネスの仕方、アプローチの仕方違ったりします。その辺をこちら側に合わせてもらう方法ではなく、どうバランスを取るか。それは折衷案ではなく、新しいアプローチがあって、それを考えて提案していました。

一番大変だったのは実は社内に理解してもらうことだったんです。ライセンスビジネスをやるというのが“ブレ”ちゃうっていう表現になってしまって。そうではなく、少し幅を広げるとか、少し奥行きをつけるだけの話なんです。

WWD:20〜30年前ぐらいだと、海外ブランドのライセンスでトイレカバーやスリッパなどもありましたよね。

岩野:ライセンスと聞くとそういうことを思い浮かべる人も多くて。審美眼はブレずに餅は餅屋で作って、新しいマーケットを作るという考えを社内に伝え続けました。

WWD:ライセンスの新しいマーケットとは?

岩野:今はないですが、UAが展開するライセンスブランドを集めて百貨店さんにUAの冠を持ってコーナーを作ったことがあります。また、それまでタオルのライセンス展開であれば、百貨店の平場に入りますが、タオルメーカーさんがきちんと冠を持ってショップスタイルで展開する中に、われわれUAがコーナーを持つというスタイルもありました。そうすることで顧客層が広がり、新しいマーケットができるということです。

WWD:百貨店さんも変わっていかなければいけない時期でもありましたよね。店舗開発部にも行かれてますが、一番、営業的なイメージがあります。

岩野:そうですね。でも結局は接客と一緒です。デベロッパーさんが何を求めているのか、UAがどういった価値を出していきたいか。なので事業の話をすごく聞きました。事業責任者と会話を重ねることで、こういう考えだから出店したいという思いも出ますし、たとえば大きな商業施設ができるとしたら、単に出店するというのではなく、デベロッパーさんと何か一緒にやれることがあるよね、という話をしたり。この時代に人脈もたくさんできました。

WWD:なるほど。施設作りを提案するということもあるのですね。

岩野:昔から重松理名誉会長が「街づくりをやりたい」ということには共鳴していて、まさに店舗開発というのは街づくりなんだと思いうんです。街づくりのワンピースを担わせていただいているのならば、どういう街づくりをするかから話ができたらいいなと。

またどうしても出店したいという場所があった場合は、本当にしつこくオーナーさんの元に通って思いを伝えますね。オーナーさんの中にはファッションに興味がなく、われわれを知らない人もいます。全フロアを使いたかった場合、ワンフロアだったらいいよと言われてもそれでもやっぱり全フロアを使いたいと思ったとき、われわれが出店することで、その地域がぐっと盛り上がり、価値があがるんだよということをお伝えするんです。

WWD:現在は、新規開発担当として、新しい事業開発に加え、ギフトカタログを作っているのですよね。

岩野:新しいスタンダードを作るために、洋服だけじゃなく、ファッションにはものすごく力があると思っています。今までのビジネスとは違ったスタイルのビジネスの方式を作り開発を進めています。後は、既存のライセンス企業さんとお付き合いさせていただいたり、ギフトカタログをブラッシュアップしたり、外商をやったり、最近は卸もスタートしたのでその営業をやったりとかさまざまですね。

WWD:最後に今後の目標、夢を教えてください。

岩野:全てのカテゴリーで新たな価値を生み出し、スタンダードになるような、長く続くものを作って、多くのお客さまに高揚感や感動を与えていきたいです。「UAってやっぱりいいよね」と思ってもらえるモノを作り出せたらと思います。

また、地方の郷土品を作っている人のところにプライベートでも足を運ぶことがあるのですが、そういったところが息途絶えないようにできたらと思います。さらに、夢としてホテルだったりもいいですよね。例えば、食など、全然違う畑で戦っている、同じ考え方のところと何か一緒にやれたらいいなと思います。

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