さまざまな業界の中でも、ファッションやコスメ業界は女性が多く活躍している。特に販売職ではそれが顕著と言えるだろう。この10年くらいで、有力企業の多くは時短勤務や休日取得に関する福利厚生を充実させ、ママになっても働ける環境づくりを推進。取材者の感覚でも時短勤務のママ販売員が徐々にではあるが増えてきているように思う。
今回、インタビューしたユナイテッドアローズ六本木ヒルズ店の綾部由美さんもその一人だ。現在は販売スタッフとして時短で働きつつ、「セールスマスター」と呼ばれる販売のスペシャリストとして後進の育成にも携わっている。そんな彼女にママ販売員としての心構えや働き方について話を聞いた。
―時短勤務とのことですが、現在はどんな風にお仕事されていますか?
綾部由美さん(以下、綾部):今は時短の中でも最長時間で勤務し、18時まで店頭にいます。平日の六本木ヒルズ店は昼間に観光客や六本木に遊びに来た方などが、夕方からは会社帰りの方が来店する、ピークが2回あるお店です。私の勤務時間ですと、ギリギリ両方のお客さまと接することができます。
―販売経験は学生時代のアルバイトからですが、それからユナイテッドアローズに入社したきっかけは?
綾部:私が学生時代にアルバイトしていたのは長崎県内で35年続く老舗のセレクトショップで、その店でユナイテッドアローズのオリジナルも取り扱っていました。メインのセレクトショップのほかに、いろんなブランドのFC店も経営しており、当時は「今日はあのブランドの店頭に行ってきて」という感じで、さまざまなお店の店頭に立たせていただきました。
当時、県内にはユナイテッドアローズの店舗がなく、ユナイテッドアローズのオリジナルアイテムを購入するお客さまが多かったので「支持されているブランドなんだな」と感じていました。それから店舗にも足を運び、そうするとますます興味が湧いて、就活のときには説明会にも行きました。アパレル志望でしたので、他のアパレル企業の説明会にも行きましたが、その中でもユナイテッドアローズの掲げる経営理念や説明している方たちの印象などを見て、自分が思う接客サービスに一番近い、ここで働いてみたいという気持ちが大きくなり、新卒入社しました。
―綾部さんが理想とする接客やUAのサービスとはどういうものですか?
綾部:私くらいの世代が自分で服を買い始めるようになった頃は、どのお店も商品が全面に出過ぎていて、ショップスタッフも「これ素敵でしょ」とモノの説明ばかりを強調する接客が多かったんです。
―確かに当時は「これカッコいいでしょ」「これかわいいよね」というノリで接客されていましたね(笑)。
綾部:私もファッションが好きだったので、それでも買っていたのですが(苦笑)。その一方で、お客さま軸で商品を薦めてないな、とは感じていました。商品のよさはもちろん分かるのですが、それではお客さまが身に着けるという重要なことが抜けていて、服の良さとお客さまの素敵な部分がつながっていない。そう思うようになってから、身につけたときの高揚感や実際に着た時にどうなるのかをどうしたら伝えられるか、考えながら接客していました。その後のUAの会社説明会で「店はお客さまのためにある」という説明を聞いたとき、とても共感したのです。
―UAの「店はお客さまのためにある」とつながったのですね。入社してからは?
綾部:最初に配属されたのは有楽町店(現・ルミネ有楽町、当時は有楽町西武)でした。田舎から出てきたばかりで、あまりの人の多さにカルチャーショックだったのと、いそがしい中でも顧客を大切にしたいと思いながら接客していたのを上司が見ていて、1年経たず、じっくり接客のできる二子玉川店に異動したものの、半年後にまた渋谷明治通り店に異動となり、トータル約4年間店頭に立った後、人事部に行きました。人事部といっても、販売スタッフの人材開発だったので、社内ファシリテーターとして全国の店舗を研修で回っていました。全国のショップスタッフと出会うことができ、いろんな経験をさせていただきました。
私が主に担当していたのは入社時の研修で、経営理念を新人に伝える大役です。うれしい半面、スタッフたちがその後どう育っていったのか追えないことはとても心残りでした。そのジレンマから、研修後も関わっていけるような仕事がしたいと思うようになったのがきっかけで、次は「オデット エ オディール」に異動となりました。
―そこではどんなことを?
綾部:それまでの経験を生かして、採用から人材育成、出店と出店後のフォローアップという一連の仕事に携わることになりました。なんだかんだで、約10年いまして、その間には店長として店頭に立つこともあり、社員昇格試験に携わり全国行脚したことも…。本当にあらゆることをしていたら、あっという間に30代半ばになっていました。
29歳で結婚したのですが、その頃、ふと「今のままフルパワーで働いていては……」と思い悩み始めました。人事部やオデット エ オディール事業部に配属されたときは、「内勤が性に合わなければ、いつでも店頭に戻れるし…」と思っていましたし、内勤といってもたびたび店頭に立つこともあったので、いつの間にか12年間も本社勤務していました。
そこで、今までの経験を振り返り、一旦リセットして私の原点である店舗勤務にしてもらいました。ですが、その半年後には妊娠したことが分かり、産休に入りまして……。
―そんな申し訳なさそうに言わないでください!おそらく多くの働く女性は妊娠出産のタイミングで悩んでいると思います。そこで自分の人生を振り返ったことがいいタイミングになったのではありませんか?
綾部:そうですね。一緒に働いていたスタッフは「よかった!」と喜んでくれましたし、産休中も過去を振り返ることができました。でも正直なところ、産休中は店頭にいた頃のように色んな会話ができないことに飽きてしまい、生後10カ月で保育園に預けて現場復帰しました。
―改善されつつありますが保活は苦労なくできたのですね。ちなみに現UAでは時短で働いている方はどれくらいいらっしゃるのですか?
綾部:全社員のうち10%程度だそうです。六本木ヒルズ店だけでも、約50名のスタッフのうち時短勤務者は5名います。
―現在はママ販売員として活躍する姿を見せる、ロールモデルという感じでしょうか?
綾部:そうであったらいいなと思っています。実際に現場復帰して時短で働いてみると、一緒に働くスタッフに協力してもらわないと成り立たない立場なんだと感じています。常に、短い時間で自分の最大限のパフォーマンスを発揮するにはどうしたらいいのかを念頭に仕事をしています。時短とはいえ、一つ一つのことを社員として責任を持ってやっていかねばならないので。
―同じ会社で働いているからこそ“お互いさま”という気持ちは大切ですね。
綾部:いそがしいときには家庭や家族の都合をつけて、店舗に貢献する姿勢を見せることも。現在、六本木ヒルズ店には私よりも短い時間で働くスタッフがいるのですが、彼女の場合はお客さまに来店時間の予約をしていただき、来店に合わせて商品を用意して対応しています。店への貢献の仕方はいろいろあっていいと思います。
―店への貢献はシフト調整するだけではないということですね。ほかにもそういった子育て中の販売員としての心構えはありますか?
綾部:生活感を出さないことです(笑)。
―「お子さんいるの?」と驚かれたい?
綾部:というよりも、お客さまそれぞれの立場に合わせて関係性を築いていきたい。子どもの有無にかかわらず、お客さまのライフスタイルに寄り添った接客をしたいので、生活感を出さないように心がけています。
一緒に働いている若いスタッフたちにもいつまでもおしゃれを楽しんでほしいし、子育ても楽しんでいる姿を見て、感じてもらいたいところもあります。これから結婚・出産を控えているスタッフたちが私を見て、「これからも販売員を続けていける」と思ってもらえたらうれしいなと。
―これからの目標は?
綾部:自分が“ココにいてもいい”と思っていられるあいだは販売員でいたいです。おしゃれは若い人の特権ではないですし、土地柄なのか若いスタッフから薦められることを気にされるお客さまもいます。また、スタッフのキャリアを重視するお客さまもいらっしゃいます。年齢層が同じくらいのショップスタッフ、もしくは、歳は若くても経験値があって納得のいく接客のできるショップスタッフが求められていると肌で感じています。それでもキャリアや経験に甘んじず、鮮度もありながら、幅広い層のお客さまに寄り添える販売員としてこれからも精進していきたいと思っています。
苫米地香織:服が作れて、グラフィックデザインができて、写真が撮れるファッションビジネスライター。高校でインテリア、専門学校で服飾を学び、販売員として働き始める。その後、アパレル企画会社へ転職し、商品企画、デザイン、マーケティング、業界誌への執筆などに携わる。自他ともに認める“日本で一番アパレル販売員を取材しているライター”